コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

壱話 雨月高校七不思議其之四・さとるくん ( No.34 )
日時: 2013/04/06 06:24
名前: 水岡月緒 (ID: joK8LdJj)

髪切りを図書準備室に放り込んだ後、階段を下り再び一階へ。疲れる。
今度の現場は廊下ではなく昇降口付近、このケータイ全盛期に誰得だと言いたくなる、ぽつぽつと並んだ公衆電話。

「そういえば、公衆電話設置するのってこの学校だけなのかな?」
「さあ。ちょっと前にケータイ禁止だった頃の名残らしいけど、他の学校はどうなんだろうね」

果てしなくどうでもよさげに答えながら、何故か財布を引っ張り出した秋雨。ケータイぐらい持ってた筈だけど。私にメール送ってきたから、忘れたって事もないだろうし。

「……あ、ないや。夕鶴、悪いけど十円玉持ってる?」
「え、十円?」

私小銭持ってたっけ。
愛用の黄色い財布を漁るが、案の定ない。食費の財布も見てみたものの、一円玉と百円玉が数枚あるだけ。

「ごめん、ないみたい。幸村は?」
「……ない」
「俺今財布持ってねえ」
「君には最初から期待もしてなければ聞いてもいないよ、永劫出てくるな土に還れ」
「棺桶に封印されやがれ」

流石に財布は持ち歩いている幸村も駄目。りんも駄目か。

「百円じゃ駄目なの?それなら何枚かあるけど」
「……いや、出来れば十円がいいな」
「そもそも、何で十円?ケータイ使えないの?」
「ん?いや、この公衆電話が四つ目だからだけど」

四つ目って、七不思議の?

「ほんとだ。ほら」

気が付けば幸村の手に渡っていた七不思議特集を、幸村と二人で覗き込む。

「さとるくん、だって」
「誰!?」
「都市伝説、らしい」
「……全国のさとるさんが怒り出すんじゃないだろうか……」

大体どこからつけられた名前なんだろうか。デスノートの作者を見習えと開いた口が塞がらないでいると、十円を求めていまだに財布を漁ってる秋雨が割り込んでくる。

「僕もよく知らないけど、確かアンサーとメリーさんとこっくりさんを組み合わせたみたいな話だったと思うよ」
「……アンサー?」

メリーさんとこっくりさんは知ってるけど、アンサーは初耳だ。

「まあ、それはまた今度にでも。あ、ほらあってる」

秋雨の指差す文を要約すると、早い話がこっくりさん宜しく「さとるくん、さとるくん、おいでください」と呼び出すものらしく、電話をかけるとメリーさんのように少しずつ自分に近づいてくるらしい。
さとるくん独自のオプションとしては、公衆電話に十円玉を入れて自分のケータイに電話をかける所や、それから二十四時間以内にさとるくんからケータイに電話がかかってくる事だろうか。
だんだん近づいてくるさとるくんが自分の真後ろに来た時、さとるくんは何でも質問に答えてくれるらしい。秋雨曰く、このあたりがアンサーとやらの要素を含んでいるそうで。

「ちなみに、さとるくんが後ろに来た時に振り向いたり、質問を出さなかったりするとどこかに拉致られるらしいよ」
「さらっと危険……!?」

そんな理不尽すぎる誘拐犯予備軍の都市伝説が、どういう訳かここにある公衆電話の一つで呼び出せるらしい。

「……何でこの公衆電話限定?」
「さあね、この電話に曰くでもあるんじゃないの?」

いや、確かに幽かに妖気は感じるけど。
どんな曰くなんだ公衆電話に憑くって。

「そもそも、十円」
「そこなんだよ幸村君、百円じゃ呼び出せないのかな」
「……おーい、やっとあったぞ十円」

公衆電話の群れの向かいにある自販機の傍で、りんが十円玉を掲げた。

「何それ……お釣りでも漁った?」

いや自販機の下ー、とどこかわびしい方法で獲得された十円玉を、りんが秋雨には渡したがらないので私が受け取る。そしてそれを秋雨へパス。

「ありがとう夕鶴」
「それで、どうやるんだ」
「えっとまず、十円を入れて僕のケータイにかけて……」

小銭を入れつつ、器用にスマホを操作するスマホ族もとい秋雨。ちなみに私はガラケー派だ。公衆電話からケータイへは結構小銭食うので、小銭入れながらスマホ使うのは面倒だと思う。つーかそれ以前に十円玉もつのか。

「さとるくん、さとるくん、おいでください……これでよし」

スマホを耳にあてたまま、受話器が置かれる。公衆電話の出番、これだけですか。

「そういえば幸村、さとるくんからの電話っていつくるんだっけ」
「……二十四時間以内だけど、うちの学校のはかけてすぐみたい」
「……あ、出たよ」

随分せっかちだな。ソニックといい勝負だ。
しかし、出たと言われてもここからでは聞き取れないので、秋雨がスピーカーに設定する。

『今、雨校校門にいるよ』

いきなり近っ。
それだけ言って、しばし無言の後にまた現在地だけ伝える、おそらくさとるくん。

『今、昇降口にいるよ』
『今、自動販売機の横にいるよ』

出発地が近かったからか、急激に近づいてくるさとるくんと、それを裏付ける幽かな妖気。とりあえず振り向いたら連れ去られるという話を忠実に守り、誰も公衆電話の方から目を離そうとしない。

『今、君達の後ろにいるよ』

き た。

「え、ちょ、質問ってどうする!?」
「……とりあえず、夕鶴から一問ずつでいいんじゃないかな」
「だから何で私に振るの!?」

しかし回ってきてしまった以上は仕方ない、でも質問と言われても。
質問が用意出来てないとやはり拉致られる、という話が洗濯機も真っ青な脳内をさらに悪い意味で回転させる。

「え、えっと、あなたは、誰ですか」

やっと絞り出したのがそれかい。
言ってから冷静になると、急激に阿保らしさと後悔が押し寄せてきた。

『さとるだよ』

声のトーンがさっきより冷めてるのは気のせいだきっとそうだ。人間とは思い込みで生きる生き物です錯覚万歳。
一人馬鹿な刷り込みをしていると、次は幸村君ね、と質問権がうつっていた。

「……十円持ってる?」
「小銭はもういいよ!死ぬ程!」
『持ってないや』

とことん十円玉に縁のないメンバーである事だけは判明し、次はりん。

「変態にとって一番苦しい死に方をさせるにはどうしたらいい?」
「……どんだけ秋雨が嫌いなの」
『血をいっぱい飲ませる』

りんの質問とさとるくんの回答に軽く戦慄を覚える。
人の血が濃いからか血を飲むのが嫌いで、30ccで気絶レベルの秋雨には、確かに苦しい事この上ないだろう。

「最後に僕だね。馬鹿猫にとっての一番屈辱的な死に方って何?」
「うん、何があったらそこまでお互いを嫌いになれるのか本気で知りたい」

あ、これ聞けばよかったかも。

『君に殺される事と、あとね……かたk』

続く筈だっただろう言葉が聞こえなくなったのと、秋雨がぐるりと振り返った勢いでハイキックを飛ばしたのは同時だった。
思わず一斉に振り向いてしまったけど、その頃には秋雨が蹴りを飛ばした足がさとるくんの脳天に決まってたので、多分平気だろう。蹴りが決まった瞬間に姿が消えたので、はっきり見えなかったけど。

「……何、今の」
「ブラジリアンキック。またの名を突き返し蹴りだよ」
「心の底からどうでもいい情報ありがとう」

何ともバイオレンスな撃退法だけど、これで大丈夫なのだろうか。
そう思って三人に聞いてみた所、

「多分平気じゃね?ほれ、電話に妖気ねーし」
「……消えてる」
「え、本当?幸村」

おお、確かに妖気消えてる。さとるくんがいなくなったから?
とりあえず紫ババアと共に何とかしてもらうよう秋雨が話をつけたらしく、痛い目遭わせたからもう出ないと思うよ、と珍しく早口な秋雨をとっ捕まえる。

「ねえ秋雨、そういえばさとるくんってどうやったら帰ってくれるの?」
「……さあ?どうすればいいんだろうね」

……さとるくんに聞いておけばよかったかもしれない。