コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 吸血鬼だって恋に落ちるらしい ( No.11 )
- 日時: 2013/03/16 17:31
- 名前: 妖狐 (ID: vpptpcF/)
「ナイト、のどが渇いたわ。何か飲みたくてよ」
「ほら、トマトジュース。それとも赤ワインの方がいいか」
「……いいえ、これで結構。ナイト、お腹がすいたわ。何か食べたくてよ」
「ほら、カナリアの子鳥。それとも雀の方がいいか」
「…………こ、これで大丈夫よ。ナイト、なんだか寒いわ……」
「ほら、ひざ掛け。それと暖炉に薪もくべといた」
「ううううっ、ナイト……」
「なんだ」
「貴方……完璧ね……」
脱力したように吸血鬼は肩を下ろした。
あれから数日。
名前を付け自分の騎士となり夜となってもらうことを約束したもののこれからどうしようかと悩み、結局自分の館にナイトをおいていた。
本当にナイトって何でもできるのよね……。
食料調達、掃除から薪割まで彼は涼しい顔でこなしてしまった。
しかも些細なことまでに気を遣う。館にはホコリひとつ落ちてなく、自分に身の回りのことは全部彼が引き受けていた。
まあ、普通に考えたら万々歳よね。でも、なんだか腹立つわ……!
なんでもできてしまう彼に対し少しの対抗心が生まれる。
彼にできないことはなんだろうか?
そんなことを考えているとナイトが近づいてきて「質問がある」と口を開いた。
「な、なによ……?」
黒い瞳に心を見透かされた気分だ。なんだかばつが悪くなり目をそらした。
「いつになったら俺を食らうんだ」
「そのうちよ。気が向いたら」
「どうやったら気が向くんだ」
「知らないわよ、そんなの」
あーもう、疲れた。この会話が何回繰り返されたかしら?
確か……54回目のような気がする。
「それじゃあ次は私の方から質問してもよろしくて?」
「……? よろしいが」
「貴方はなぜ何でもできるの!?」
い、言ったわ。ぜえぜえと息を荒くはきナイトを見据える。
今まで馬鹿にされるかもしれないと自分のプライドが邪魔をしてなかなか聞けなかったが、やっと聞けた。
自分はやればできる子だ!
「俺は親も兄弟もいない。天涯孤独って言うのか? だから一般的な物事はだいたいできる」
「……そうなの」
私と同じ?
自分にも家族はいない。
親戚はいるとかいないとかはっきりしないが、生きてきた中で血のつながった者、いや、同類の吸血鬼さえ会ったことも見たこともなかった。
「苦手なものはないの?」
「ない」
「これぽっちも?」
「これぽっちも」
この世は本当に理不尽だわ。
そう、彼のような完璧人間を作ってしまったり、そんな彼を生贄にしてしまったり。
神様というのは相当の気分屋らしいわね。
どんどん下がっていく気持ちを払うように玄関へと足を向けた。
「どこに行くんだ?」
「秘密よ。ついてきたければついてくればいいわ」
そういい残し外へと足を踏み出した。
外は明るかった。お日様の光が降りそそぎ、木が風に吹かれさらさらとゆれる。
「こんな明るいところに出ていいのか。あんた吸血鬼だろ、灰とかになるんじゃないか」
「あんたって……なめてもらっちゃ困るわ。この私に日の光なんて効かないんだから。もちろんニンニクも十字架もね」
ナイトは感心したように彼女を見つめた。
「ああ、それと私のことはルリィとでも呼んでおいて頂戴。もちろん偽名だから降伏の力はないけれど」
「降伏の力ってなんだ?」
「あーもうっ! 質問が多すぎよ!」
先ほどから質問ばかりのナイトに対し、吸血鬼ルリィの頭の中はこんがらがっていた。
「質問は三つだけ。これからは三つだけ質問をしていいわ。それ以上は答えなくてよ。分かった? いい子は守るお約束!」
「分かった」
あっさりとナイトは頷いた。そして「行くなら行こう」と彼も足を踏み出した。
このころ、ルリィは気づいていなかったのだ。重大なことに。そう、質問は三つだけの意味をひっくり返すと……
質問される三つは必ず答えなければならないということに。
春の暖かな風が頬をなでる。
甘く漂う香りが鼻をくすぐる。
なんだかいい気分、久しぶりの安楽ね。
今まで起きた事がすべて夢だったかのよう。
——そう、すべてが夢。20人目の生贄も夢で、私が吸血鬼だっていうことも夢で……。
なんてことにはいきそうにもない。
隣にナイトがいることで、今、自分が空腹なことでそれが証明される。
ここは花園。一万本のバラが顔を並べる秘密のバラ園。
この場所を知っているのは吸血鬼のルリィただ一人。
しかし今日、四百年間秘密だったバラ園がたった一人だけに教えられた。それは生贄の青年ナイト。
なぜ教えられたか?
そんなの簡単、ただの気まぐれ。
それとちょっとの好奇心。黒い瞳の彼への好奇心。
(彼になら、私の秘密を話してもいいかもしれない)
そう、それもただの好奇心からの考えだった。
だが、この世は理不尽だ。
何が起きるか分かりやしない……。
【つづく(と思うけど……)】