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Re: 吸血鬼だって恋に落ちるらしい ( No.14 )
日時: 2013/04/06 14:49
名前: 妖狐 (ID: vpptpcF/)

「私の愛おしいバラ達、今日も変わらず美しいわね」
ルリィはバラに向かって愛の言葉をささやくようにうっとりと語りかける。
「お前……おかしいのか」
ちょっと、いや、かなりひくようにナイトは後ろに下がった。
その様子に
「このバラ達の素晴らしさ分からないんて、まだまだがきね」と首をすくめた。
バラ園には一本道が敷かれており、その奥へ進むとバラに覆われたように一つのテーブルと2脚のイスが並んでいる。
そのイスに腰掛け、バラの花びらを浮かべたダージリンの紅茶を楽しむのがルリィの日課だ。
 今日も相変わらず、いつも通りに紅茶をすすっていた。
一つ、いつもと違うのは向かい側にナイトが座っているということだ。
「……うまいな」
「そうでしょ! 私のお気に入りなのっ!!」
ポツリとこぼしたナイトの言葉にすかさず、がたっと音を立てイスから立ち上がった。
その様子にびっくりしたように、でもどこか面白そうにナイトが頬を緩めた。
「本当にバラ馬鹿だな」
「バラ馬鹿? それってほめ言葉なの?」
「ああ、もちろん」
「そ、そう。その言葉、ありがたくいただくわ」
なんだか不可解な違和感を覚えつつもルリィはお礼を述べた。
 馬鹿ってどうゆう意味かしら? 現代の言葉は分からないわ……。
四百年もたっていればそうとう世の中も変わったことだろう。
分からないことの一つや二つ出てくる。
「くっ、お前って世間知らずな奴だな」
こらえきれないようにナイトが噴き出す。その様子に眉をひそめ
「どういうこと?」
と聞き返した。だが、そんなルリィを無視するようにナイトはまた紅茶を口に運ぶ。
「ちょっと聞いてらっしゃるの?」
「らっしゃる、らっしゃる」
「もうっ!」
ナイトは遠くを見つめ、ルリィをてきとうにあしらう。
そんな様子にルリィは何か言い返そうとしたが、ふと心の中に今まで感じたことがないものを見つけ口を閉じた。
 この気持ちは何かしら?
 初めて感じるもの。温かくふんわりとしていて何とも言えない気分になる。
 
 彼は私のなんなのかしら?

最初は『恋』だと思っていた物は少し形を変えていた。
昔、何かの本で読んだことがある。
『恋』とは相手の瞳を見た瞬間、心に何かがグサッと刺さるものらしい。
彼に初めて会ったとき、確かに心に何かが刺さった。黒い瞳に吸い寄せられるようだった。
 あれは、『恋』ではないの?
そんなことを考えていると、最初から惹かれっぱなしの黒曜石のようなナイトの瞳が近くにあった。
「きゃっ!な、なな、なにをなさるつもりっ!?」
「いや、ボーっとしてたからどうしたのかと」
 し、心配してくれたの……? それにしても近すぎるわよ、この距離!
 自分の額とナイトの額がくっつきそうなほど近くにあった。
 顔が真っ赤になっているのを自分でも感じ、隠すようにそっぽを向いて無駄なほどあるバラ知識を披露する。
「バ、バラっていうのはね、いろいろな花言葉があって……」
そういいながら手の届く距離にあった赤いバラを手に取る。
「たとえばこの真っ赤なバラなら『情熱』とか『愛情』、『あなたを愛してます』っていう花言葉がっ……」
 自分が恥ずかしすぎる言葉を口に出しているのに気づき、先ほどよりもますます赤く顔を染める。
「いや、その、違うのよっ!? あなたを愛してるとか言いたいわけじゃなくて……か、勘違いしないでよね!」
 目を回しながら顔をゆでたタコのように染めているルリィに対し、ナイトは困惑したように「お、おう。そうか」とぎこちなくうなづいた。
「……ルリィ、大丈夫か」
いまだにふらふらしているルリィを見つめ、ナイトは心配そうに近づいた。
「え、ええ。大丈夫に決まってるじゃないっ!大丈夫よっ……きゃあっ!」
 視界がぐらんとゆがんだ。と同時に後ろ側へ倒れていく。どうやら道のタイルと草の間にできたみぞにはまってバランスを崩したようだ。
「……ったく、やっぱりお前馬鹿だろ」
 手が伸びてきて……そう思った時には腰がたくましい腕につかまれて
ナイトの方へ引き寄せられていた。
 そのまま胸に飛び込むように抱きしめられる。
「……!!」
「大丈夫か?」
「…………大丈夫よ。ありがとう」
 小さな声でそうつぶやくとするりとナイトから離れる。
「帰るわよ。もうそろそろ日が沈むわ」
「……分かった」
 
今まで片時も空腹を忘れたときはなかった。
四百年間ずっと空腹だった。
しかしここ数日、気づいたら心がつまっていて空腹なんてどこかへ行っていた。

私はどうやらおかしくなってしまったらしい。

【つづく】