コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 吸血鬼だって恋に落ちるらしい ( No.17 )
- 日時: 2013/04/06 14:51
- 名前: 妖狐 (ID: vpptpcF/)
最近、俺に名前を付けてくれた吸血鬼はどこか目が座っている。
いったい、何があったんだ?
バラ園に行った日を境に、詳しくはルリィが転びそうになったのを助けたときからだ。
しかし生活リズムは変わらず、朝起きて朝食に紅茶を一杯。
その後読書にはげみ、昼食にまた紅茶を一杯。
暖かな太陽が顔を出す午後にはバラ園へと足を向け、3時にティータイムとなる。それは決まってダージリンにバラの花びらを浮かべた紅茶。
そして夜の晩餐となるのが小鳥だ。
小鳥と言っても種類に制限はなく今日イチオシの小鳥を一羽、新鮮なまま彼女へと捧げる。
もう決まった日常だ。のどかで何事もない日々。しかし、確実に前より目が座っていた。
そんな日々の中、もう一つ気になっていることがあった。
それは
「いや、私はそんなつもりはなくてっ……! だから違うのよ!? でも違くない……いや違う、違くない? あれどっち? あーもう、なんなのよー!!」
と、まあ意味不明な言葉を日に日に一人でつぶやいていることだ。
結果的にはぬぉおおおおと唸った末、「寝るわ」と一言言い残し棺桶へと入っていく。
ったく、本当に分からない奴だ。村の人間はもっと心が透けていたぞ。
生贄専用としてルリィのところへ行く前、村から外れた小さな家で一人住んでいた。たまに村の者が食料を届けに来たり、自分の外見を一目見ようと娘たちが見に来ることもあった。
しかし決まって恐怖の色が浮かんでいた。
俺が生贄専用とされた理由。それは……
「ナイト。あの本はどこかしら?」
ルリィが背後から声をかけてきた。どうやら朝食の紅茶を飲み終わったようだ。
「あのってなんだよ」
「吸血鬼と人間が恋に落ちるやつよ。この前本棚の奥から見つけて……ち、違うのよ!? 別に私とナイトを連想しているわけじゃなくて……!」
「……何言ってるんだ? ああ、あったぞ。これか」
「え、ええそうよ。これ」
ルリィは共同不審気味にぎこちなく本を受け取ると、素早く身をひるがえして庭に出る。愛用のロッキングチェアで本を読むためだ。
嵐のように過ぎ去ったルリィへと「本当に馬鹿になったんじゃないか……?」と失礼なことを考えつつ、掃除道具のおいてある部屋へ足を向けた。
今日はどこを掃除しようか。あらかたこの館は掃除しつくしたからな……。裏庭でも掃除するか。
と、同時に今日の晩餐の小鳥を頭の中で考えていた。
ルリィはナイトが行ったのを確認すると胸に手を当てた。
まだ心臓が鳴りやまない。
おさまれ、おさまれ。
呪文のように繰り返すこの言葉。昔からやっているおまじないの一つだ。
こうすることでだんだん胸が静かになっていく。
心を落ちる付けるおまじない。
「ふー」
一つ息を吐き、今日も青い空へと目を向けた。
考えれば考えるほどわからなくなってくる。自分の気持ちも、ナイトへの気持ちも。
『好き』という感情がわからない。
四百年一人ぼっちだったのがだめだったらしい。ここ数日、ふと振り返ればいつもナイトがいた。
そのたびに胸が温かくなった。自分はもう一人ではないのだと、柄にもなく考えてしまう。
「なのに……」
ナイトに抱きしめられたとき頭が爆発しそうだった。
それからナイトの顔を直視できない。そんな気持ちを隠すように無表情を決め込んでいるが、ナイトにはなんだか感づかれていそうだ。意識して無表情を作るようになったころから時々、いぶかしげな顔でこちらを見てくる。単に自分の演技が下手なのか、ナイトが鋭いのか……。
好きなんてありえない……!
どこかで否定している自分がいる。
じゃあどうしてドキドキするんだ?
どこかで質問する自分がいる。自問自答を繰り返す毎日。
「疲れた…………」
頭の中がこんがらがって簡単にはほどけそうにない。
緑のにおいと古い本のにおいが体を包み込む。だんだん瞼が重たくなってきた。
ナイトは掃除に行ったようだし、少しだけなら……
ルリィは眠りの世界へと誘われていった。
ピチピチッ、鳥の声が鳴り響く。
裏庭の掃除が思ったよりも早く終了し、この後どうしようかと悩みながらルリィのもとへと向かった。
「おい、ルリィ…………」
そこには安らかな寝息をたてて眠るルリィの姿があった。
寝てるのか……? めずらしい……。
ルリィはいつも無表情だ。最近はとくに。
たまに口元をほころばせたり、顔を真っ赤に染めたりなどの色彩豊かな表情をするがそれもどことなく硬かった。
きっと彼女はまだ自分へは心を開いていないのだろう。
まあ、それは俺も同じだが……
自分もまだ隠してることがある。
そんな中こんなにも表情を、心をくずしたルリィを見るのめずらしかった。
そういえばバラ園にいる時もこんな顔をしているな。
きっとバラ園はルリィの心の置き所なのだろう。
そんなこと思いながらふと、あたりを見渡すと開いた形のままの本が目に入った。
こいつ、本開きっぱなしで寝やがったな。
しょうがないと本に手を伸ばし閉じようとすると、ふわりと甘ったるいローズの香りが鼻をつついた。真横にルリィの顔がある。こんな近くで顔を見れる機会めったにないので黙視することにした。
よく見てみればルリィの顔はとても整っていた。
透き通るほど白い肌に木苺のように赤い唇。瞳はレッドダイヤモンドのように煌めき腰まである長く癖のある髪は妖艶さをかもしだしている。
眠っているルリィの髪を一ふさ手に取ってみた。
しかし紫色のその髪はさらさらと手からこぼれていく。
その美しさに魅入られ、ナイトは顔を近づけた。そしてルリィの髪にそっと優しく口づけた。風がかすめるようなほどそっと。
その時、ルリィがごそりと動いた。
「ん……今日の紅茶は、アールグレイが飲み……たい……わ」
はっとしてナイトは顔を上げ数歩後ろへ下がる。
しかしルリィはまた安らかな息をたてむにゃむにゃと口を閉じた。
どうやら寝言だったようだ。
よかった……。
ほっと息をつくがそんな安堵(あんど)もつかの間、今度は口に手を当てた。
あれ……? 今、俺、なにやった? 確か、ルリィに口づけを……
「っ!!」
なんてことをやってるんだ俺っ!
自分を叱咤(しった)するよう近くにあった木に頭をガツンとぶつけた。
「いってー……」
ぶつけたところがじんじんする。しかしそのおかげで少し頭がすっきりした。すっきりしたが自分がしたことをやはり認められず
「嘘だろ……」
とふらふらしながらその場から去ったのだった。