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Re: 吸血鬼だって恋に落ちるらしい ( No.2 )
日時: 2013/03/11 18:04
名前: 妖狐 (ID: vpptpcF/)

彼は笑わなかった。
そりゃもちろん、生贄として捧げられたのだから笑顔なんて作れないけど。
ちょっとそれとは違ったの。
暗黒の瞳は暗く深く、なにもうつしてはいなかった。
なーんだ、この青年も今まで19人の生贄と同じ?20人目なんて特別じゃないのかしら。
「ご機嫌あそばせ」
私は不敵に笑った。人間なんてこの笑みでいちころ……
「こんにちは、と返していいのか」
でも、なかったみたい。
それにちゃんと会話が成立してる!
今までは悲鳴を上げられることしかなかったからか新鮮だった。
「私が怖くはないの?」
「別に……」
「そう!」
「なんで喜んでいるんだ……?」
不思議そうに青年は首をかしげる。
ああ、なんだか食べてしまいたい。
でも今食いついたら百年間聞きたかった事が聞けない。
我慢我慢だわ……
「あの、一つ聞いてよろしい?」
「別によろしいけど」
「では……あなたにもあるのかしら、コウモリの焼き印?」
「ああ、あるさ。生まれたときからある生贄となった者の印」
「生贄の印……?」
じゃあなんだ、今まで来た人間たちはみんな幼いころから『生贄専用』だとでも?この、青年も……?
「そう……そうなの」
何年間も前から生贄と言い聞かされてきた者と、その原因となる食らう吸血鬼。最初から会話すら無理な関係だったんだ。
「はあ、私って本当に鬼ね。『吸血鬼』血を吸う鬼、そのまんまじゃない」
今までにないほど憂鬱な気分だ。指一本動かすのもめんどくさい。本当ならこの、空っぽのお腹に早く何か入れたいがそれすらもやる気が湧かない。
「貴方、名前はなんておっしゃるの」
「名はない。元から生贄の身、そんなものは必要ないからな」
「そんなものって……ま、いいわ。私はもう食さないから村へ帰って頂戴」
話すほど憂鬱になっていく。こんな自分もおびえた目で見られるのも、もうたくさんだ。
はあ、いじわるな神様。結局私は満腹になれないのね。
重い足取りで自分の寝所、棺桶へと向かう。
「待て。食べろ。早く血を吸え」
「……はい?」
なんと言ったのかしら。空耳?聞き違い?
「食べてくれないと困るんだ。帰る場所なんてない」
「え?えぇぇええええ!?」
あらやだ、はしたなく大声を上げてしまったわ。でも……彼は食べろといった?自分から……?

やはり彼は特別な20人目の生贄だったらしい。

私は一人ぼっち。私は空腹。いくら食らっても『足りない』

でも、面白い物を見つけた。
「貴方に名前をあげるわ」
もう一生眠っていてもかまわないと思っていた心に風が吹く。
おきろ、おきろと言うように

「そう、名前は……」
この『恋』と呼ぶかもしれないものを信じてみようか。
青年の黒い瞳を。

「ナイト。私の『騎士』となり『夜』となってもらいましょうか」

そう、考えを変えたら……
この黒く美しい少年はきっともう私のものよね?

【つづく(と思うわ!)】