コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 吸血鬼だって恋に落ちるらしい【完結】 ( No.213 )
- 日時: 2013/11/03 12:38
- 名前: 妖狐 (ID: KnTYHrOf)
エピローグ 「吸血鬼だって恋に落ちるらしい」
——昔、昔。
村人を襲っては血を吸う、それは恐ろしい吸血鬼がいました。
そんな吸血鬼を怖がった村人たちは、少しでも自分たちの身を守ろうと5年に一度生贄を出すことにしました。
そんな生贄を捧げる伝統が続いてから数十年。ある日20人目となる生贄が吸血鬼のもとを訪れました。
黒い瞳と髪を持った珍しい容姿の青年はなんと狼人間でした。
吸血鬼は気まぐれで、その青年に名前を与え傍におくことにしました。
でも彼と時間を過ごすごとに吸血鬼は青年を殺しがたくなっていきました。
それは彼に恋をしてしまったからです。
青年の優しさや不器用さ、温かさを知っていくうちにどんどん好きになっていってしまいます。
そしてそれは青年も同じでした。
こうして二人はめでたく結ばれ、幸せに暮らすのでした——
数年前から、子供へのおとぎ話として伝えられるようになった吸血鬼のお話。しかし、それが本当はおとぎ話でなく現実で起きたことだと知る者は少ない。
「素敵なお話ね、お母様。わたしもそんな恋してみたいわ……」
バラ園のテラス席に座りながら、うっとりとつぶやくまだ小さな少女にルリィはクスリと笑みをこぼす。その吸血鬼は自分だと教えたら少女は驚くだろう。
「ほら、ローズティーだ。冷めないうちに飲めよ」
差し出された二つのカップを受け取りながら、若干小さいカップを少女に手渡す。まだ夢の世界に浸っていた少女はカップを受け取ると、とびきりの笑顔になった。
「わたしこれ好きなの。ありがとうお父様」
息を必死に吹きかけながらローズティーを冷ます少女にナイトも微笑む。そしてルリィとナイト、二人とも同時に顔を見合わせた笑った。
エスプルギアの夜から数年という月日がたった。
ケイはすっかり成長して、思った通りの美形の青年へと成長している。しかしルリィへの熱い思いはまだ冷めきってはいないようで、よくこちらにも顔を出してはナイトに宣戦布告のような言葉を投げかけてくるのだ。今はまだバリバリ元気な魔女、キューマネット夫人のもとで修業を重ね、それなりに優秀な魔法使いとして王都で活動している。
フレルとキャッツは相変わらずつかず離れず、秘密情報部として活動している。エスプルギアの夜の時は約束通り混乱を鎮めて詳しいことは隠ぺいしてくれたようで、大きな問題とはならなかった。
そしてルリィとナイトの間には一人の娘ができた。ルリィのように気が強く、ナイトのように身体能力の高い少女だ。
「お母様、ちょっと遊んできてもいい?」
「ええ、いってらっしゃい」
空のカップを置いて元気よく駆け出していく少女を穏やかに見つめたままルリィは新鮮なバラ園の空気を吸い込んだ。濃厚なバラの香りが鼻を通る。
「ルリィ、いやリリアン」
まだ慣れない名で呼ばれてナイトの方を振り向く。吸血鬼は愛する者にしか本当の名を呼ぶことを許さず、ナイトがリリアンと呼ぶのは愛し合っている証拠だ。しかし普段は相変わらずルリィと呼ぶナイトがいきなり、リリアンと口にしたので不思議に思った。
「なあに、ナイト?」
首をかしげると、髪に一輪のバラが挿し込まれた。
「やっぱり、似合ってる」
そんな一言がくすぐったくて、ルリィは赤くなる頬を押さえながら笑う。
この幸せがいつまでも続くようにと、青く澄みきった空に願った。
【—END—】