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Re: 吸血鬼だって恋に落ちるらしい ( No.46 )
日時: 2013/04/09 19:35
名前: 妖狐 (ID: vpptpcF/)

今から400年前。
明るい太陽が地中へと沈み、入れ替わるように月が顔を出す深夜。
一匹の吸血鬼は無差別に人を襲っていました。
何十人、何百人、襲われた人数は数え切れず、毎日のように吸血鬼の討伐が行われたのでした。しかし吸血鬼のもとへ行った者が帰ってくることはありませんでした。
悲惨な事態を嘆いた村人達はいつしか、吸血鬼より力の強い悪魔<ルシファー>へと祈りをささげるようになりました。
それからというもの吸血鬼に襲われることもなくなり、すっかり人々は安心していていました。
ところがある日、雷鳴とともにこの世から『月』と『太陽』がいっぺんに奪われ空は暗闇で覆い尽くされました。
草木は枯れ、人々は病に伏せ、水は干からびていきました。
誰もが絶望を認めたその時、たった一人だけ立ち上がるものがおりました。
それはあの吸血鬼だったのです。
吸血鬼は涙を流すように大声で叫びました。
「奴に、悪魔ルシファーに月と太陽は隠された! 私は『満腹』を奪われた。ルシファーはまるで遊ぶようにこの出来事を引き起こしている。あいつを呼んだのはお前ら村人だ。しかし……しかしこの出来事の発端は私だ!!」
そして吸血鬼は空へと飛びだちました。
「私が話をつけてくる」
高い高い山の頂上を目指し飛んでいきます。そこがルシファーの住処(すみか)だからです。
「おい、ルシファー。今すぐこんな馬鹿げたことはやめろっ!」
「お前はあの吸血鬼か」
地面から響くような重い声。そして大きな口がまるであざ笑うかのように吊り上がりました。
「人間はお前の不幸を祈った。だからお前の満腹を奪った。そして願いを叶えてやった代償に月と太陽を隠した。お前が月と太陽を返せと言うのなら何を代償とする?」
「…………私の……翼だ!」
「だめだ。それでは足りぬ」
「では一時の間だけ返してはくれないか」
「一時だけとな?」
「400年、それだけでいい。翼はくれてやるから400年だけ返してくれ」
「なぜ一時の返却を願う」
「……遊びの延長だ。今、終わってしまってはつまらないだろう?」
吸血鬼は必死でした。少しでも時間を稼ぎその間に解決法を作り出すため。ルシファーはそんな心を知ってか知らずか笑うように
「それもそうだ」
とうなづきました。そして約束通り吸血鬼の翼を引きちぎり、月と太陽は返したのでした。
「また400年後会おう。勇敢な女吸血鬼よ」

それから399年間ルシファーが姿を現すこともなく時が流れました。
人々は二度と悪魔を呼ばないことを誓い、最悪なその日のことを『エスプルギアの夜』と呼ぶことにしたのでした。


「お伽話はここで終わり」
ルリィは一息つくように深く息を吐き出した。
「それはお伽話とは言わないんじゃないか?」
とても残酷なお伽話にナイトは眉を寄せ、昔見たことのある聖堂の古書を思い出しす。
「エスプルギアの夜ってこの地に起きた昔の実話だろう。そしてその吸血鬼というのは……お前、なんだろう……?」
「あら、よくわかったわね」
その声は驚きに満ちているが、表情は正反対に楽しむよう笑っている。
「これは私の過去でもあるのよ。昔みたいに翼があったらこんな穴なんて目じゃなかったのに」
上に手を伸ばし、冗談を言うように「すごかったのよ」と笑うルリィ。しかしその姿はどこか痛々しかった。
「その話とナイトの件、なにが関係があるんだ」
話を戻すようにナイトはまっすぐにルリィを見つめる。
そんなナイトにルリィは何かをためらうようなそぶりを見せたが、彼女もナイトの目を一直線に見返した。
「ねえ、ナイト……これはとても残酷なことなのだけど……——」

「——私のために命を落としてくれないかしら?」