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Re: 吸血鬼だって恋に落ちるらしい【3章突撃!】 ( No.66 )
日時: 2013/04/27 15:01
名前: 妖狐 (ID: 8.g3rq.8)

「ナイト、今日の紅茶も最高ね!」
「……それは……良かった、ですね」
「なぜ他人行儀なの? おかしいわねナイト。ふふふ」
おかしいのはお前だ!
そう言いたいのをぐっと堪え、ナイトは異物でも見るような目でルリィを観察した。
昨日、キューマネット夫人の家にお茶をしに行ったかと思えばスキップするように帰ってきた。その顔はどこか悩み事が吹っ切れたようにスッキリしていた。そして一言「そうだったのね!」と開口一番に叫んだ。
なにがそうなのか全くわからないがどこか頭を打ったであろうことは確かだ。
「なあ、ルリィ。昨日どこかで頭でも打ったか?」
時がたつにつれて心配になってきた。
「え? まったく、怪我ひとつないわ」
「そうか……じゃあ熱でもあるのか?」
頭を打ってないのだとしたら次は体調の具合が悪いのか。そんなことを思いルリィの額に自分の額をあてた。コツンといい音がする。
顔の距離は数センチ、互いの息が届く距離だ。
(別に熱くはないな……)
そう思い、額を離すと真っ赤に染まったルリィの顔があった。
「やっぱり熱か!?」
熱くはなかったがこの顔の赤さは異常だ。そう思い、もう一度額をつけて確かめようとしたがルリィはすごい勢いで後ろへ下がった。
「ち、違うわよ! 熱じゃないわ。貴方がそんなに近づくから……」
もごもごとルリィが顔を隠すように下を向いて話す。半分何を言っているのかわからないが熱ではなく自分はルリィの逆鱗に触れてしまったらしい。でなければ顔が赤くなる理由(わけ)がない。
とっさに謝ろうとしたがルリィがいきなり大きく深呼吸をした。
「この気持ちは友情……友達に対する心……」
なにか呟いているが聞き取れない。
「決して、す……とかじゃない!」
そう言い放つと、色が引いた白い顔を上げる。その瞳は落ち着きを払っていて先ほどの動揺はどこかに行ってしまったようだ。
ナイトはなんとなく「つまらない」と思った。

心の片隅で、共同不信になりながら赤い顔のルリィを少し可愛く思っていたからだ。


(びっくりしたわあ……!)
心臓がバクバクと鼓動する。
ナイトの顔が目の前に迫ってきたときは、もうだめかと思った。
しかし、ケイにいわれた「それは『友情』ですよ!!」という言葉を思い出して必死で自分に言い聞かせた。
ナイトへのこの思いを友情と思ってしまえば自然に胸は落ち着いていく。
(そうよね、やっぱり。この気持ちは友達に対する思い。そりゃあ、いくら友達でも近づけばびっくりして赤くもなるわよ)
自分の頬を押さえこくりこくりとうなづく。そうして熱が下がったころ、顔を上げ平常心で紅茶に口をつけた。
その時、一瞬だけナイトが不服そうな顔をしたのは気のせいだろうか? もう一度見直したときにはいつも通り、ナイトも紅茶を静かに飲んでいた。
「なあ、ルリィ」
静寂が辺りを包む中、ナイトが口を開く。
「悪魔ルシファーに対抗する方法。つまり太陽と月を隠す闇を吸い取る方法を詳しく教えてくれないか?」
まっすぐな瞳がルリィをみつめる。その眼はとても紳士で緊迫した緊張感がある。
「ええ、いいわよ」
軽くうなづいてテーブルに紅茶を置いた。辺りに誰かいないか気をはらしてみたが大丈夫のようだし、今話してもよさそうだ。
「闇を吸い取るにはまず、鏡が必要なの。その鏡で闇を吸い取り封印するためにね。鏡はなんだっていいわ、手持ち鏡でも全身鏡でもね」
「そうか」
「次にその鏡に闇を吸い取らせる力を与えるわ。その点では少し強い鏡のほうがいかしらね」
ルリィはどんな鏡がいいだろうと考えるが、ナイトの目が「早く続きを話せ」と訴えてくるので頭を切り替えて話を続ける。
「力を与えるには二通りの方法があるの。一つ目は『月光の雫』を使う方法。月光の雫とは古書によると『清き乙女の月の涙』と言われているわ。その雫はまるで魔法のように死んだ者の命を吹き返したり、泥から金を生んだりなど不思議な力を引き起こす伝説のものらしいわよ」
「そんなもの、本当にあるのか?」
疑うような声でナイトは眉間にしわを寄せる。そんなものがあるのならとっくのとうに、この世界は生きかえったゾンビやらキラキラの金のアクセサリーやらで埋め尽くされているだろう。
しかしルリィは「それが本当なのよ」とポケットから一つの小瓶を取り出した。
「これはこの前、穴に落ちた原因となった『月光のグラス』よ。これを取ろうとして穴に落ちたのだから」
なんとも月光の雫と対になる小瓶だそうで、その本物さはキューマネット夫人のお墨付きのようだ。
穴に落ちた時に手に入れ、昨日、夫人の家に行ったついでに鑑定してきてもらったようだ。
「月光の雫というのはこの小瓶の中に収まってこそ力を発揮するようなの。だから今までも世の中に月光の雫の話が出ることはなかったのよね」
その小瓶は小さなものだが確かに神秘的なものであった。
「……へえ」
とナイトが不思議そうに小瓶を見つめているとルリィが得意そうにほほえむ。
「貴方は私が穴に落ちたことを怒ったけれども、穴に落ちなければ小瓶を手に入れることはできなかったわ。だから私がしたことは正しかったのよ」
勝ち誇った笑みを浮かべるルリィに表情一つ変えず、ナイトは冷たく言い放った。
「穴に落ちなくともどうにかする手段はあったはずだが? それにお前はただ単にちょっと光る何かに興味が惹かれ、取ろうとしてへまをしただけだろう」
すべてその通りだ。言い返す言葉を探して黙っていると「図星か……」と今度はナイトが口の隅を釣り上げた。それは妖艶だがとても腹が立つ笑みだった。
「で、二つ目の鏡に力を与える方法は?」
そうナイトが聞きかけたとき、玄関のほうで大きな物音がした。まるで扉を壊そうとしているような……
ドカンッ!
大きな爆発音と鈍い地響き。
そのあとに扉の外から現れた人物は誰しもが予想しない人物だった。

——恋は人を幸福にし、時には狂わせる——

(続く)