コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 彷徨いメイズ〜いつか自分を失う日まで〜 ( No.10 )
- 日時: 2013/03/26 21:36
- 名前: 椎良 (ID: EtUo/Ks/)
第10話
『私が——を支えるよ。ずっと、ずっと——を支えるから、生きることをあきらめないでほしい。どんなにつらくても、すぐ横に私がいるから————』
—————あれ、この言葉・・・・・・いつ言ったんだっけ。
—————ていうか結局、“あの人”のために何かできたのかな…。
ぼんやりとそう思っていると、急に目をさます柚月。
「あ・・・れ———夢か」
デジタル時計に『9:54』という数字が表示されていた。
柚月はすっかり眠ってしまっていたのだ。
気づけば、夕食を食べたテーブルの前で寝転がっていて、彼女の上にはタオルケットがかけてある。
—————あぁ、奏がこれを。気がきくようになったなぁ。
そう思っていると、風呂上がりの本人があらわれる。
寝間着代わりのウインドブレーカーを上下着て、ボーっと火照っていた。
「あ、柚月さん起きたんだ。おはよ」
「おかげさまで、ぐっすりですよ。こんばんわ」
「ちぇー、そんまま眠り続けると思ってたのにな」
「あんた何か狙ってたな」
「べっつにー。風呂入りながら油性ペンにしようか水性ペンにしようか迷ってただけだし」
「人の顔に落書きするきだったのか!!」
ツッコミはいいとして。
柚月は、ぐーと両手をのばした。
「さて、帰るかな」とつぶくと、「え、もぉ?」と奏が楽しくなさそうにつぶやく。
「だってもう眠いし、お風呂に入りたいし…」
「俺んちのバスを使えばいいじゃん。ついでにここで寝れば」
「っやだ!絶対ムリだから!」
「そんな拒否られると泣くわ」
「泣かないくせに」
「そだね、俺つよいから」
「ねー奏、2年前、なんで突然いなくなったの?」
ピタッと表情が固まるが、すぐに穏やかな笑顔を浮かべる奏。
テクテクと歩き、柚月の隣に座った。
「簡潔にいいますと、両親が勝手に離婚してしまいました。奏君のパパは無言で立ち去って、奏君のママも夜逃げしましたー。困った奏君は、経済的に安心して暮らせるパパを探そうと荷物をバッグにつめ、家の中にある全財産を持って、パパを探す旅に出たというわけー」
柚月が言葉を発すのには、少し時間がかかった。
「えっ」
一声あげるだけにも結構な力がいった。
唖然として奏を見るが、彼は何にも気にしていない様子でいる。
「大変、だったよね…………」
「まーな、なかなか見つかんなくてさぁ。手がかりで追うのって本当に難しいってわかった。4か月ぐらいあちこち回ってたわ」
「よ、4か月!?」
「そんでもうあきらめて、父方の親戚の家探してそこでずっと暮らしてた」
「最初から親戚のところいけばよかったのに」
「顔は知ってるけど、家は知らなかったんだよ。だから、なんども記憶めぐらせて親が親戚の家のこと話してたの思い出しながらだったからマジでつらかったな」
「きつかったでしょ」
「ヤバいぐらいにな。全財産つっても、アイツらありったけの金持って出ていきやがったから、ほんの2、3十万残ってたぐらいだよ」
「うそ…」
「それも半年ぐらい旅してる間になくなって、一時は野宿だったな」
「そんな—————」
そんなことがあったなんて————————。
あんなふうに突然帰ってきて、相変わらずの能天気ぶりに腹を立てていた自分が今更ながら恥ずかしい。
みんなに向けていた笑顔の裏に、悲痛な体験をしてきた苦しさがあったはずだ。
(なのに、また悪い癖が出たんだ。『大事なことはすぐに隠す』——)
自分が適当に送っていた日々の間で、奏がどんなに苦しい生活を送ってきたかを考えると、涙がでた。
視界がぼやけるが、奏がギョッとしているのがわかる。
次から次に—————涙、涙。
(私は、こいつでさえ・・・支えてあげられない・・・)