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Re: 彷徨いメイズ〜いつか自分を失う日まで〜 ( No.11 )
日時: 2013/03/27 09:19
名前: 椎良 (ID: EtUo/Ks/)



第11話



「いやいや、おかしいでしょ。普通、泣くのって俺のほうじゃね?」

「…あんたは泣かないじゃん」

「だから俺はつよいからって言っただろぉ。柚月からそんな同情的な涙もらっても…」

「同情じゃないよ。自分が悔しくて」

「悔しい?」


奏が首をかしげた。
柚月は涙をぬぐいながら、言葉を発する。


「なんかさ、一緒にいるのに———その人を救ってあげられないのが…いつもイヤだったんだよね」

「それ、俺のこと?」

「奏も含めて、色々・・と」

「紺野とかも?」

「っ・・・」

「あのさ、俺ずーっと聞きたかったんだけど———お前って……」

「ストップ。やっぱやめよ?こんな話したら余計重くなるよ」

「いや、これ…結構重大なことだって」

「やめよう。もう話さないで」


柚月の声が必死そうだったため、奏は何も言わずムスッとした。
少しの時間、気まずい空気が流れたが、別に今後の関係に影響するようなものじゃなかった。


「柚月」


一時たってから奏がつぶやく。
同時に、手が繋がれた。


「これから、来たい時にはいつでも来いよ」

「え?」

「またお面かぶって学校生活過ごすんだろ?それじゃ誰にも愚痴とか言えなさそうだし」

「愚痴なんて里歩にたくさん言ってるよ」

「でもちゃんと防衛ライン張ってるだろ?ここまでは言ってよし、みたいなの」


奏にはすべてお見通しだった。
こんなにも自分のことを分かられると、逆に気色悪い。



「ま、要するに・・・その防衛ラインを超える愚痴は俺んちで吐けって話」

「逆に、自分の愚痴も吐きたいんでしょ」

「あったんまえー。それプラスの家事をよろしくー」

「やっぱそこが目的かい!私はアンタのお手伝いさんでも奥様でもないんですけど」

「まぁまぁー。ちゃーんと報酬もあげるからさ」

「いくら?」

「誰が金と言った!?」

「報酬って普通、お金じゃないの?」

「ま、お楽しみに♪来てくれるだろ?」

「来たいときだけね」


奏がニッと笑う。つられて、柚月もやっと微笑んだ。



「うわ、久々にその笑顔見たー。なつかしいな」

「2年分の笑顔をあげよっか?」

「いや、いい。お前にはマックのメニュー欄にのるほどのスマイルの価値がないから」

「あるよ!君の笑顔はかわいいって元気になるって好評もらったのー!!!」

「なんかお前、酔ってね!?」

「べっつにぃー。あぁ〜もぉなんで奏くんは褒め上手じゃないのかなぁー。柚月ちゃぁん悲しいー」


そう言って、思いっきり奏に寄りかかった。
柚月は眠いのか、寝ぼけたように語りだす。


「ちゃんと言ってくれたんだよー。私の存在が自分を救ったってー」

「ちょっと待て。さっきから言ってるそれ、誰に言われたんだよ!?」

「おっしえなぁーーい!!とぉってもいい人ぉー!奏は一生手が届かないような人ぉー」

「あぁ、あれか。お前の好きな男子ね」

「———ちがぁう!そんな関係かもしれないけどそんな関係じゃない」

「言ってる意味がわかんね」

「とにっかく、いい人!そんでもってデリケートなんだぁよー」

「そんなヤツいるっけ?」

「“いた”よ。ちゃんといたもんねぇー。みんなは気づかなかったけど私は気づいてあげたもん」


「だからそれ、誰——————って、寝てるわ・・・」


柚月は、奏の肩に寄りかかって、深い眠りについていた。
それでも、しっかりと手が繋がれていた。
奏は、彼女の後ろ髪のゴムをとって、きれいに髪をとく。



————————いたんだ。そんなヤツ…。
————————柚月は自分からそいつを好きになったのかな・・・そうだったらいいのになー。



(柚月の中には、“特別以上”の奴が一人いるのか・・・)



心の中でそうつぶやくと、急に眠気がおそってきた。
フラッと、奏も柚月に寄りかかって寝てしまった。