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Re: 彷徨いメイズ〜いつか自分を失う日まで〜 ( No.5 )
日時: 2013/03/25 06:16
名前: 椎良 (ID: EtUo/Ks/)



第5話



矢沢奏の登場は、この空気からして場違いだった。


「矢沢!お前どうしてここにいるんだ?」

「ん?あぁ、俺…4日後ここに転校してくるから」

「えぇッ!」



みんなが驚いていた。


「もうちょっと喜んでくれてもいいんじゃねえの?」

「・・・あ、いや…今、そんなことできないし」

「なんで?」


首をかしげて不思議そうにする奏。
宮脇は、自分からは言いだしにくく、口を閉ざしたままだった。


「ま、いいや。ただちょっと、今日はあいさつに来ただけだからな」

両手を頭の後ろにまわし、鼻歌を奏でながら教室の中に入る。



(なにも知らないなんて……幸せ者だな…)



能天気な奏を見やりながら、柚月は少し腹立たしく思っていた。
奏は、なつかしい顔ぶれを見ながら、ひとりひとりに話しかけていく。
みんな、苦笑しながら奏のテンションにのってあげている。


そして奏は、一回りしたあと、柚月の席へ来た。




「よっ。久しぶりだな!幸せ者!」

「は?それはアンタのほうでしょ。みんなに気ぃ遣わしてどうするの」

「ん?みんな、気ぃ遣ってんの?なんで?」

「いや、だから————」



その瞬間、教室の扉が開く。


入ってきたのは、立石と、副担任の時田京子だった。
二人を見るなり、奏はテンションをあげる。


「うっひょー!立ティと時ティじゃんッ俺ですよ俺!」


奏が自分を指しながら、2人の前に走っていく。


「や、矢沢か!?」


「そうでーす。いやぁ、何年ぶりだろう!!相変わらずですね」

「待て矢沢!確かお前、2年前に無言でいなくなったよな?」

「ま、いろいろあってですねー」

「あのとき大変だったんだぞー。ニュースにもとりあげるか迷ってたのに」

「まじすか?くそっテレビデビューを見逃した!」

「そういう問題か!お前のこのこと何しにきたんだ」

「あ、俺ですねー4日後に転校してきますんで、この学校に」



「「え」」



立石と時田が唖然とする。





————————放課後…


奏は職員室に呼ばれ、今先生たちと話をしている。
みんなも一旦、今日は帰ることにした。


「それにしても久々に矢沢君見たなー。かっこいいよねー」

「全然変わってなかったよねー見た目も中身もー」


女子たちはキャーキャーと騒ぎ立てる。
今日あったことを少しでも忘れようとして——————。



「里歩、帰れそう?」


まだ机に俯いている里歩に、そっと尋ねる柚月。


「ごめん…。私、もうちょっとしてから帰るよ。どうせ今日も撮影あるから」

「そっか。わかった。仕事がんばってね」

「うん。ばいばい」

「じゃあね!」



精一杯の笑顔を浮かべた。
少しでも里歩の気を楽にしてあげたかった。



(里歩は…紺野君のことが好きだったんだもんね)



そのことには、うすうす気づいていた。




校舎から出た時、何度も南棟の屋上を見つめた。
すると、屋上のフェンスのところに人影が見える。



「!」



急いで、南棟へ走っていく。
南棟の校舎の下から、じっと屋上を見つめる。

誰かがいる…・・・・・・けれど、あれは—————。





「どうして奏があんな場所に!?」




矢沢奏が、ちょうど紺野が倒れていたあたりに立っていた。