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Re: 彷徨いメイズ〜いつか自分を失う日まで〜 ( No.6 )
日時: 2013/03/26 08:07
名前: 椎良 (ID: EtUo/Ks/)



第6話



矢沢奏は、数分してから、急にフェンスを越える。
50センチほどの小さな通路のようなところに足をおき、それからじっと目をまっすぐに向けた。


柚月は驚いて、



「駄目っ奏ぇぇぇーッッ!!!!!!」



彼へ向かって叫ぶ。
奏はそれに気づいて、すぐさま真下を見た。


「ゆ、柚月っ!?」



必死な顔の柚月を見て、奏は急に爆笑した。


「はーはははッッ!なに泣きそうな顔してんだよ!」

「泣いてない!それよりも奏、なにするき!?まさか、し、死ぬ…」

「死なねーよ」

「じゃあ、なんでそこに…」

「まぁあとから話すって!それよりさ・・・・・・・」

「!?」


柚月が心配そうに見守る中、奏はフッと笑顔を浮かべる。




「今から俺、ちょっと飛び降りるから!」


「はぁぁ!?なにいってんのバカじゃない!」


「馬鹿でもこんなことしねーよ。ってなわけで、柚月、ちゃんと受け止めろよー」

「なんで私?無理無理!そんな反射神経よくないって」

「大丈夫!信じれば大丈夫だ!」

「簡単にいわないでよ」

「俺はお前信じるから、お前は俺を信じれ!」

「なにどさくさに紛れて、かっこいいことを…」





「いっくぞーー」





そして、矢沢奏は屋上から飛び降りた。
柚月は、あたふたする。しかし、集中して、手を伸ばした。

ものすごいスピードで奏が飛んでくる。




ドサッ!!!



奏の体を受け止めたと同時に、思いっきり倒れこむ。




「いったぁーい!」



思いっきり地面に背中を打った柚月。
仰向けになった状態の柚月のうえには、奏が倒れていた。

奏はムクッと上半身だけ起こして、両肘を伸ばす。



「ナイスキャッチ!」

「こぉの、バ奏がッ!!!」


思い切ってパンチをくらわそうとしたが、すばやく片手をつかまれた。
つくづく腹が立つ。


「でも、ちゃんと受け止められたじゃん」

「まぁそうだけど」

「信じたからだよ。俺はお前をメッチャクチャ信じたんだぜ。お前もちゃんと俺を信じただろ?」

「うん…」

「そういうこと」

「信じるだけで、そんなことができるなんて」

「不思議だよなー」



柚月はボーっとしながら辺りを見る。よく見れば、景色が横になっていた。
そこでハッと気が付く。


「今、気づいた!どけてよ、奏!」

「えーやぁだ」

「はぁー!?こんなところ誰かに見られたら…」

「うっわ顔真っ赤ぁー」

「うるさい!もう早くってば」

「ちぇッ。へいへい」


名残惜しそうな顔をして柚月から離れる奏。
柚月は立ち上がり、制服をはたいた。



「それより…どうしてあんなところいたの?」

「あぁ。さっき先生たちに聞いたんだよ、紺野のこと」

「…………」

「悲しかったなー本当。小学校からの親友だったから余計に…」

「…じゃぁ……なんで奏は、泣かないの」



若干怒った顔をして、奏に問いかける柚月。
奏は柚月の顔を見やったあと、彼女に背を向けた。




「お前だって、泣いてないだろ」

「なんで私よ…?」



柚月は、怪訝そうな顔をした。
奏は、「ま、いいか」というふうな表情でため息をつく。


「帰ろうか」

「待って。まだ話は終わってないよ、奏はどうしてあんな場所に…」

「だから帰りながら話すって」

「———っ」



柚月が納得のいかなそうに表情をしかめていると、奏は無理矢理、柚月の手を引っ張って歩き出した。
柚月も反論せず、そのまま歩き始める。