コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 彷徨いメイズ〜いつか自分を失う日まで〜 ( No.7 )
- 日時: 2013/03/26 15:11
- 名前: 椎良 (ID: EtUo/Ks/)
第7話
————帰り道・・
「聞いたときはホントびっくりだったなー。へへッ1分間口が開いたまんまだったし」
—————どうしてコイツは重い話をしながら・・・へらへら笑えるんだろう。
柚月は疑問に思いながら、彼と自分の間を見た。
しっかりと繋がれた手。
(無理矢理引っ張ってきたのは奏だけど……なぜ離さない?)
わかっておりながら握っているのか、はたまた、握ってることすら忘れているのか。
不思議なヤツだ、と渋々思い込む柚月。
しかし少しだけ、繋いだままでいい、と思っているのも事実。
(馬鹿なのか、私は———…)
奏の手の平のあたたかさを感じるだけで、自分たちが2年間も離れていたことを忘れてしまう。
それほど奏の存在というものは大きかったのか。
柚月は疑問に考えた。
でもすぐに、そんなことは吹っ飛ぶ。
「で?さっきの続き!」
「それでまぁ、どこで死んだんだろうって思って屋上行ったわけ。鍵とかかかってなくてすぐに入れてさ。紺野が倒れていたとこはすぐわかったよ、なんかいかにもここに人がいましたよーってヤツ、ほら刑事ドラマでよくあるじゃん。地面にひもとかシールみたいなので人の倒れてる姿を作ってるヤツ」
「あのさ、そこらへんどうでも・・・」
「ま、聞け。そんで今度はどんふうに死んだかなって思って、俺も同じように倒れてみたんだ」
「で、なにかわかったの」
「そらがきれかった」
「もういいです」
「いや、ホントだって!空がほんっと綺麗で、まあさっき見たから微妙にオレンジぽかったけどさー。あんな眺めいいところで死ねるなんて、ちょっとあれだなーって思って」
「あれって?」
「その、紺野を殺した奴がさ、もしかしたら最後にあいつに綺麗な空を見せてやりたかったんじゃねーのかなって」
ふたりの間に流れる沈黙。
「全然意味がわからない。バカだとしか思わない」
冷めた顔をしながら棒読みで言葉を発する柚月。
真剣に聞いていた自分もバカだ、と思い始める。
「まー待て。でも、俺も試してみたんだよ。色んなところで」
「なにを?」
「綺麗に空が見える場所。方向変えて同じ風に倒れてみたり、違う感じの体勢にしたりと、いろいろな」
「なんか無駄な努力な気が・・・」
「いやいやそれがそうじゃないんだって。やっぱ紺野が倒れてた場所じゃなきゃ、あんなに綺麗に見えないんだ」
「はぁ?なにそれ、犯人が紺野君に綺麗な空を見せながら死なせたってこと?」
「うーんまぁ、だいたいそんな感じ?死ぬ寸前、まだ意識があるときに見せたかったんじゃねーかなって」
柚月は、頭の中がおかしくなるのを感じた。
「あのさ普通に考えてよ。少しでもそんな良心を持つ人がさ、人を殺したりすんの?」
「どんな人がいるかわかんねーじゃん」
柚月は「もういい」と本気で思った。肩をすくめながらため息を漏らす。
やっぱりこいつが考えていることはよくわからない———。
思考回路をめぐった結果、答えはそれに尽きる。
「じゃあどうして奏は、屋上のフェンスを乗り越えてあんなところに立っていたわけ?」
「それはまぁ色々ありましてなぁ」
「そうやってまた、私に謎を増やさせる!」
「へーそうなの?俺のこと謎に思ってんだー」
「そうだよ。女ったらしでへらへら能天気で、自由人で、でも大事な事だけは隠すよね」
「そうか?お前だってそうじゃーん」
「なにが」
怒った顔をしながら柚月は奏を問い詰めた。
「大事な事だけは隠す——それ、お前にもあてはまんじゃねーの?」
「はッ———」
「俺が貸してたCDを壊してんのとか」
「うぅっ!!」
奏がいじわるそうな笑みを浮かべる。
「はーい柚月ちゃんはいけない女の子だねー。罰として今から俺んち来てもらわなきゃねー」
「はぁ!?なんでそうなるの!!」
「引っ越してきたばっかで、部屋まだ段ボールだらけ。手伝ってもらうから」
「嫌だよ!」
「んじゃーレッツゴーな!!」
必死に拒否をするものの、柚月は、繋がれた手とともに引っ張られる。