コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 彷徨いメイズ〜いつか自分を失う日まで〜 ( No.9 )
- 日時: 2013/03/26 19:59
- 名前: 椎良 (ID: EtUo/Ks/)
第9話
部屋の整理はすべて終わり柚月は帰ろうとしたのだが、夕食まで作っていってほしいと奏から必死に言われ、仕方なく奏宅マンションに残った。
「思ったけど、家の場所ちがうよね」
柚月はにんじんの皮をむきながら、横でお湯の沸騰を待つ奏に問いかけた。
「俺、ひとり暮らしすっからねー」
「マジ?できんの?」
「大丈夫ー。ちゃーんと若い家政婦さんがいるから♪」
そういってニヤリとしながら柚月を見る。
「私は家政婦でもなんでもないから。それにいざとなれば彼女さんたちに来てもらいなよ」
「なーんかその言い方、いかにも俺が『ひとりじゃ何もできない』ってかんじじゃん」
「あら、ご理解が早いですこと」
「おめーひでぇこと言うなー。相変わらず、いや、もっとか?」
「いいんじゃない。別にまともじゃないってわけではないんだし」
「いや、柚月は変わってるな」
「どこが?」
「変わってるっていうか、謎っていうか」
「それ、奏だから」
「いやいや柚月ちゃんですよ〜。いつになったら、その固いお面をはずすのやら」
ぴたっと手がとまる。
また、ボーっとなった。
———————————意味がわからない。お面?
—————それって私が本当の自分を出してないっていうこと?
「私は普通。ちゃんと人とバランスよく付き合ってるし」
「ほれ、そこ。そこがダメなんだよー。柚月は、誰にも悪口言われたことないだろ?」
「え…」
「俺も聞いたことないもんなー。人とちょうどいい距離で接してる証拠。いいことのようで悪いことだ」
「どうして…?ていうか別にそんなんじゃ」
「無意識にそうなってんだろうね。普通にさぁ、悪口言われる人のほうが素出てるじゃん」
「まぁ、そうだけど」
「あれだよね〜。ちょうどいい関係でいないと怖いんだよね柚月は。それを超えると何があるか不安なんだ」
「ちがう…ちがう…って!!」
「そんな必死になるなよ。でも柚月はちょっと・・・『ちょうどいい関係』にこだわりすぎなんだよなー」
「奏—————」
「なに?今更帰るとかいうなよ?逃げたら許さん」
「お湯ッ!」
「へ!?」
いつのまにかお湯が沸騰していて、鍋からジャバジャバと水分が抜けていく。
奏は慌ててガスを止めた。
「あーもう、危なっかしい!こんな話するから!!」
「ですなー。ちょっと哲学?心理学?すぎたかな」
「何学でもないよ!」
—————
—————
「はぁ、腹いっぱい……」
夕食が済み、結局、柚月は帰れずにいた。
「いつになったら帰してくれるんでしょーか?」
「あー…もうめんどいなー。泊まってく?」
「殺す」
「うっそー冗談。柚月んちって門限ある?」
「あるっぽいけど、いつも10時過ぎとかに帰っても怒られないからなーどうなんだろう」
「じゃあ、俺が寝るまでいてくんない?一人はやたらと寂しくてねー」
「あんたはガキか!!」
柚月は、思いっきり奏のほっぺたをぐにーと伸ばした。
ぎゃーッと悲鳴をあげる奏を見ながら、大いに爆笑する。
「いつまでも、いてあげるよ。今日だけは————…」
————————————今日だけは、ね…………。