コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 目が覚めたら乙ゲーのヒロインになってました。 ( No.5 )
- 日時: 2013/04/05 21:23
- 名前: つき ◆M.76e9/nVY (ID: YC5nxfFp)
>> 01 . 王子様vs俺様vs時々私
とりあえず今分かった事がいくつかある。
一つはここは乙ゲー『空栄学園☆ドキパラ』の中だということ。一つは私はその物語のヒロインだということ。そして一つは、雪村和希先輩と橘太陽先輩は非常に人気があるということ。
「きゃーっ! 雪村せんぱぁーいっ!!」
「太陽先輩、頑張ってくださーいっ! きゃあああっ、こっち見てウインクしてくれたああっ!!」
「やだっ、雪村先輩かっこいいーっ!」
テニスコートの周りは黄色い女子の悲鳴でうるさい。
そんな私は静かに二人を見ていた。雪村先輩に『太陽とダブルスした後でバレー部の部長の所まで謝罪しに行くよ』と言われたから。どうやらバレー部が外でランニングしている最中、見事私にテニスボールがヒットしたらしい。
それにしてもこの空栄学園は本当にスポーツに力を入れている。テニス部、バレー部の他にも卓球部、バスケ部、陸上部、剣道部、柔道部、水泳部、サッカー部、野球部等がある。多すぎるよね。
「はぁ……」
何で私はこんなところに来たんだろう。それが一番の疑問。
私はどうしたのかな。死んでしまったのか、生きているのか。確か私はトラックにはねられたんだ。それで目が覚めれば先程の保健室。どうすればいいんだろう?
「——い、おい。おい、ブス」
「……………………」
「おい、そこのベンチに座ってるブス」
私かよ。ってか失礼な奴ね、誰よ誰よ。
何故か喧嘩腰で私が振り向くと、そこには長髪のこれまたイケメン。黒い髪が腰くらいまであって女の子みたいに長い。それでも凄くつやつやで綺麗な髪。目はかなり釣り上がっててしかも睨まれてる。
ちなみにここは制服の色が違うらしい。三年は黒いブレザーに赤いネクタイ、二年は白いブレザーに赤いネクタイ、一年はクリーム色のブレザーに赤いネクタイらしい。目の前の彼は二年だった。
「ブスなんて名前の人、この世にはいませんけど」
同級生とわかって思いっきり言ってやった。
すると相手はきょとんとした表情になった。あらまその表情可愛い。腕組みをしているかと思えば急に口に片手をあてて震えだす彼。
「あっはははははっ!! 面白い、面白いなお前!!」
「いえ本音を言っただけです」
「この俺様にそんな事を言う女は初めてだ。女、名前はなんだ?」
なんだコイツはとしか言い様のない奴だね。てか俺様キャラか。
長い髪を耳にかけながら笑うこの男を軽く睨みつける。何か好けないパターンだわこやつ。
……もしかしてコイツも主要キャラかな。
「おい、この俺が名を聞いているんだぞ?」
「先に名前を名乗ったらどうなんですか? 私は俺様なんて名前の人聞いたことないです」
「フン、大層なことを言う。まぁよく聞け。この俺の名だ」
死ね。
とは言わない。ただこの俺様感がいちいち癪に触る。
「俺は綾瀬川龍哉だ。覚えておけ」
中二病かてめぇは!! とつっこみたくなるキャラだね。
綾瀬川龍哉はにぃっと笑った。いかにも俺様って感じの笑顔でちょっと腹立つ。こっちは考え事してるのにさ。
「で、貴様の名は?」
「……秋宮紅葉です」
「モミジ?? ククっ、良い名だ」
「あんま嬉しくないです」
そう言い捨てて私は雪村先輩と橘先輩の元に向かった。
ダブルスを終えたようで二人は汗を拭っている。おかっぱの雪村先輩はかなり人気があるようです。まぁ、あの優しいキャラだからね。
黒と白の色合いが絶妙なユニフォームに身を包んでいる二人がこっちに来る。うっわ、視線痛い……。
「秋宮さん、待たせちゃってごめんね」
「いえ、大丈夫です」
「んじゃ、とっととバレー部の部長さんとこ行くかっ! って……和希、あれ」
「ん……?」
二人が私の後方に視線をやる。雪村先輩の優しげな顔が一瞬曇った。
そこにはさっきの俺様何様綾瀬川。何処か得意げな笑みを浮かべながらこっちに歩いてくる。おいお前何処か行ったんじゃなかったのか。
「よぉ、せんぱーい」
「……綾瀬川、てめぇどのツラ下げて俺らの前に現れてんだよ!!」
「よせ、太陽」
デター。オトゲーニヨクアルムズカシイテンカイダー。
まぁここは見守るしかない、と思っていると雪村先輩が私を無言で後ろにやってくれた。え、何この優しい人。そりゃモテるわ。
「何の用かな、綾瀬川。悪いけど僕たちも今急いでいてね」
「冷てぇな。優しい優しい雪村先輩。……ま、なんつーか。今度の試合ではこの俺がシングルスだ。ちゃんとオーダー組んどけよ」
「お前……練習にもろくに参加もせずに試合にだけ出ようってか。なめんなよ」
橘先輩が本気でキレてる。それでも綾瀬川は笑みを崩さない。
また雪村先輩が橘先輩を制して静かに綾瀬川を見た。凄く、凄く冷たい目。
「悪いが僕にも考えがあるんだ。君の思惑通りには行かないだろう」
「この俺の思惑通りにはいかない、だぁ? おいおい、あのクソ弱いメンバーに任せたら勝てないだろう?」
「……………………」
ダメだ、雪村先輩もだんだん表情が曇ってきてる。
この俺様が、いきなり難しい展開にしてんじゃねぇぞー!! とりあえず私はバレーボール部に戻らなきゃいけない。一応前世(?)でもバレーボールをしてたから何とかなるだろう。……とりあえず。
「……大体てめぇの指導が悪くて「綾瀬川くん」……あ?」
私は息を吸って思いっきり綾瀬川とやらを見据えた。
「今ちょっと、二人共私がお世話になってるの。あとにしてもらえます?」
「お前……ついさっきの面白い女」
「……どーでもいいですけど、失礼します。じゃ」
「え、えぇ?! ちょ、秋宮さ——」
ぐいぐい引っ張って何か言ってる橘先輩と瞑目してる雪村先輩を連れて行く。
しばらく進むと私は二人の手を離した。……さて、勢いに任せて二人を引っ張ってしまったがドウシヨウカ。
「あ、の…「秋宮さん」……はい?」
恐る恐る雪村先輩を見ると、彼は困った様に微笑んでいた。
「何も聞かないのかい?」
「……はい」
「……そうか」
そして橘先輩と顔を見合わせてもう一度微笑んでから、何故か私の頭を撫でてきた。
「——ありがとう」
すごくすごく優しい笑顔で、不覚にもドキッとしてしまう。
……そりゃモテるわ、この先輩。