コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 偽装人間@000【8章更新しました!】 ( No.250 )
- 日時: 2013/06/29 20:25
- 名前: 朔良 (ID: 2IhC5/Vi)
第8章 天才少女達の美しき乱闘〜瑞葵由香里の演技〜
「瑞葵さんスタンバイお願いします」
「はい!」
澪と由香里のメイクが終わり、先に由香里の演技が始まる。
「戸松さんもお願いします」
「はい、今行きます」
もちろん、相手役の比呂もスタンバイだ。比呂は、椅子に座って由香里の演技を見ようとしている澪に声をかけた。
「澪ちゃん、瑞葵は台本に忠実なんだ。だけど自分の色を持っている……。そこが澪ちゃんとの一番の違いだと思う。澪ちゃんは、アドリブでやるだろう?」
澪は比呂をじっと見つめて話を聞いている。そして、口を開く。
「……人のことより自分のことを気にしたらどうですか?」
「……澪ちゃんのための優しさなんだけど」
慣れたのか、苦笑いをしてからその場を去ろうとする。比呂の服の裾を引っ張り、澪は言った。
「でも……ありがとうございます、気にかけてくれて」
比呂は宇宙人でも見たような顔になった。そして、満面の笑みで「うん」と言い、スタジオへと向かった。
撮影するシーンの内容は、心臓病で亡くなってしまう主人公、朱里が病室のベットで最期の愛を恋人の南に告げる……というものだ。
アドリブはすべて良しとする。
「よーい、スタート!」
監督の声で撮影が始まる。
『……南君』
『なんだ、朱里?』
『あのね、私……やっぱり無理みたい』
その瞬間、朱里の声のトーンが低くなる。
南の表情も自然と暗くなる。
『……南君のおかげだよ、もうすぐ死んじゃうのに、こんな風に笑顔でいられるのなんて……』
一旦、言葉を区切り、泣きそうな笑顔で南に続きを告げる。
『だから……ごめんね、もう離れよう。このままじゃ、きっと南君泣いちゃうもん』
おどけたような最後の言葉。その言葉に比例するように南は朱里を抱きしめた。
『何言ってんだよ……! 俺、最後まで朱里と一緒にいたいんだよ……!』
比呂の演技にスタッフ一同感心する。
『……駄目だよ、私、死んじゃうだよ……!』
ついに涙を流し、朱里が講義する。
『それがなんだよ、俺が一緒にたいだけだ……!』
南は思い切り朱里を抱きしめた。
「カットー!」
監督の声が響く。その瞬間、わあ、と歓声が生まれる。
「素晴らしかったよ、由香里ちゃん、比呂君!」
「ありがとうございます」
騒いでる中、二人のスタッフがぼそぼそと話し始めた。
「……正直さ、この演技の後に菊川さんが演技するのって辛いよな……」
「ああ……いくら話題になっていても、結局は素人だろ?」
「大丈夫ですよ」
後ろから澪が現れる。
「私は、私だけの『朱里』と演じてみせます」
無表情でそう告げる。
スタッフはたじたじだった。
「菊川さん、お願いします」
「——はい」
——この演技で、澪は最高の感動を呼ぶことになる——。