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Re: 偽装人間@000【参照1800突破】 ( No.260 )
日時: 2013/07/06 09:48
名前: 朔良 (ID: 2IhC5/Vi)

 第8章 天才少女達の美しき乱闘

「菊川さん、戸松さんはじめまーす」

「よーい、スタート!」
 監督の声がかかる。

『……南君』
『なんだ、朱里?』
 朱里は俯きがちにそっと言う。
『あのね、私……やっぱり無理みたい』
 南の顔が暗くなる。
『……聞いてくれる?』
 台本にはないセリフだった。
 スタッフ一同——由香里も含め、澪を見つめた。
『このままじゃ、一緒に居ても、南君一人になっちゃうよね』
『だから……離れたい』
 スタッフ、由香里は「残念だ」と思った。セリフは違うが、話していることはほぼ同じだ。
 だが、比呂だけは違った。
 なにかが、起こると確信していた。
『……なのに、ごめん』
 朱里は布団を握りしめ、涙を流しながら言った。
『まだ……ううん、最期まで、一緒にいたい……』
 南は唇を噛み、朱里を抱きしめた。
『うん……俺も。朱里がそう言ってくれて嬉しいよ』
 朱里は声上げずに涙を流し、おずおずと手を伸ばし、南と抱き合った。


「……カット!」
 一瞬、スタジオが沈黙に包まれる。
 だが、それは監督の声で打ち消された。
「良かった、良かったよ、澪ちゃん!」
「ああ! 台本とは違うけど……感動した!」
 澪のことを裏でけなしていたスタッフ二人もしてやられたような顔で澪を見つめていた。

「これはどうなるか分からない……国民の支持を得るのはどちらになるのか……!」

 監督は笑いながら呟いた。




                       第8章 完