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Re: 偽装人間@000【第1章更新中】 ( No.33 )
日時: 2013/04/07 13:17
名前: 朔良  (ID: 2IhC5/Vi)

        第1章 謎の少女

 澪は相変わらず無表情で歩いていた。後ろから、駆けてくる足音がしたと思えば、澪の腕を握る。
「なっ……」
「待ってよ、菊川さん?」
 足跡の正体は比呂だった。比呂は少し息を切らしながら澪の腕をつかんでいた。周りの女の子達に騒がれないよう、比呂は別の個室へと澪を引っ張りながら入った。

「……何ですか? 最低限関わりたくないのですが」
「ひどいなあ。折角俺の言葉でもう一回演じれたのに」
「頼んではいません。あなたが勝手に行った行為であり、私には非がないと考えるのが一般的ではないでしょうか」
 比呂は澪の淡々とした喋り口調に苦笑いしながら言う。
「菊川さんさ、何で最初あんな演技したの? あれじゃ落ちるって分かってるよね?」
 比呂にそう言われるが、澪は黙ったままだ。
 3分ほど沈黙が続く。
「……へー、そういう態度取るんだ」
 そう言いながら、比呂は澪に近づく。澪も澪で後ずさりする。
「……話さないなら、ここの鍵閉めて監禁してあげようか?」
「……外から鍵をかけるのなら無理じゃないでしょうか」
 冷静に澪は言い返す。
「外からじゃない。ここは内側から鍵をかけるんだ。その鍵は俺が持ってる。この鍵を……」
 比呂は窓の方に近づき、窓を開けた。鍵を持った手を外に出し、言葉を続ける。
「……こうすれば、ね」
 その行動にはさすがの澪も戸惑ったようだ。
「……こうすれば、君にあんなこともそんなことも出来ちゃうんだけど……?」
 澪の髪を撫でながら比呂が言う。
 澪はため息をつき、比呂の手を払う。
「……私が好きに演じると『常識外れだ』『マナーがない』と言われるからです。他と違うものを望んでいるのに結局は決まった演技をしなくてはならない。だから最初はああいう風に演じました」
「……落ちるって分かっていても?」
 澪は比呂の言葉に静かに頷く。
「……何でそんなこと言われてまで女優になりたいの?」
 比呂がそう問うと、澪は比呂を睨んだ。
「……それを聞くのはプライバシーの侵害です」
 それだけ言うと、澪はドアへと近づく。
「はやく開けてください。理由はお話しましたよね?」
「はいはい」
 そう言いながら比呂は鍵を開けた。
 去り際、澪は比呂へ向かって言った。
「……変態、鬼畜、俺様、痴漢」
 そう静かに言い残し去って行った。
「……そこまで言う?」
 比呂は苦笑いしながら長沢のもとへ戻って行った。

 
「—ではこれで審査を終わります。審査員の皆さんお疲れさまでした」
 審査員の話し合いが終了した。
 長沢の抱えた紙にはこう書かれていた。
『長沢健一プロデュース新人女優発掘オーディション 合格者1名 35番菊川澪』



                        第1章 完