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Re: 偽装人間@000【第2章更新中(演劇+恋愛物)】 ( No.57 )
日時: 2013/04/10 20:16
名前: 朔良  (ID: 2IhC5/Vi)

     第2章 お騒がせ少女 続き

「佐藤ハルナさん入りまーす」
「よろしくお願いしまーす」
 今回のCМ撮影で澪と対決をする、比呂に言わせると超新人女優の佐藤ハルナが撮影を始める。
「菊川澪さんも入ります!」
「……よろしくお願いします」
 笑顔で対応するハルナと対照的に相変わらず無表情で澪は入ってきた。
 そんな澪を見て心配になったスタッフが長沢に言う。
「ちょ、ちょっとプロデューサー! 大丈夫なんですか、あの子……」
 横目で澪を一瞥してから長沢に確認する。
「大丈夫! あの子は僕だけじゃない、比呂君の目にも止まったんだ。良い演技をするはずさ」
 スタッフはまだ不服そうに澪を見ている。
「佐藤さん始めて下さい」
「はい! 佐藤ハルナです、よろしくお願いします!」
 ハルナは元気に挨拶をした。
 今日の撮影は「美しい」をモチーフにしている。紫のワンピースを身にまといながら自宅の浴場のようなセットでの撮影だ。
 セリフはない。すべてがアドリブだ。

『……美しくなれる、このなめらかさ』
 トリートメントを手に取りながら自分で考えたセリフを言う。
『艶やかさを、望め』
 最後は手からトリートメントが滑り落ちるように演技し、なめらかさを演出した。
「カットー! 良かったよーハルナちゃん! 美しさがあった!」
「ありがとうございます!」
 監督がハルナを褒める。
 実は、このCМの監督はハルナの大ファンだ。澪には少しフリかもしれない。だが、何があっても監督。いい演技をすれば澪を使うだろう。
「菊川さんお願いします」
「……」
 無言でセットに入る。
 比呂は後ろで澪を見つめていた。ハルナも勝ち誇ったような笑顔で澪の演技を見ている。

 澪は静かにシャワーを出す。その瞬間、後ろでスタッフ達がざわつきはじめる。その異変に気付いた比呂はスタッフに話しかけた。
「どうしたんですか?」
「あ、戸松さん……実は、あのシャワー壊れていて水しか出ないんです。そのこと菊川さんが来る前に説明してしまって……佐藤さんは知っているのですが」
 ハルナの方を見ると驚いた顔で見つめていた。
「でも……すごい。全然顔に出てない」
 隣のスタッフが驚きの声を出す。比呂は澪の方に振り替える。
 
 シャワーで服の上から身体と髪を少し濡らし、トリートメントを手に取る。そのまま髪に手を滑らし、静かにほほ笑んだ。
 
 そうして、澪の動きが止まった瞬間その場に居た皆は同じことを思った。
 セリフが、ない。
「カ、カット!」
 監督も驚いている。戻ってきた澪に慌てて話しかける。
「どうしてセリフを入れなかったんだい?」
「……必要ないと思ったからです」
 そう簡単に言い、澪はぽたぽたと水滴を垂らしながら歩く。慌ててスタッフがタオルを持って駆け寄った。
 もう一つ、誰もが思ったことがある。
 
 明らかに佐藤ハルナより菊川澪の演技の方が上回っている—……と。


                        第2章 続く