コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 広報部の青春な日々 ( No.2 )
- 日時: 2013/04/09 16:34
- 名前: 瑞咲 ◆7xuwBG6R9k (ID: eVCTiC43)
01「どういう意味ですか!?」
入学式翌日の放課後の教室は、賑やかながらも少しだけ緊張感がある。
ここは県立辰巳高校。辰巳市内で二番目にレベルが高いが、どこにでもありそうな共学で普通科設置の進学校だ。
制服は男女とも地味なブレザー。校舎はわりと新しく、辰巳市のちょうど中央あたりに建つ。総生徒数は840人。
俺、市川京は、この辰巳高校を受験し、ギリギリ合格した。そして入学手続きやら制服の採寸やら色々な作業を終え、高校生活を順調にスタートしている。とりあえず入学出来たので、今は一安心だ。悩みといえば、部活に入るか入らないか…そんなことくらいしかない。
通学鞄として使っているショルダーバッグに荷物を詰め終え立ち上がると、後ろから声をかけられた。
「市川、一緒に帰っていい?」
「ああ、いいよ。俺一人だし」
話しかけた男子生徒、石田結人は、出席番号と座席が俺の後ろであるため、入学して一番最初に会話をしたクラスメイトだ。
話しているうちに、お互い剣道部だったこと、結構気が合うことが判明し、入学早々一番仲がいい存在になっていた。
他愛のない話をしながら一年三組の教室を出て、玄関に向かおうとしたそのとき、一人の女子生徒が俺たちの前に立ちふさがった。
「ちょっといいかしら」
「え?」
声をかけられ、石田と共に立ち止まる。
その女子生徒は、ショートカットに着慣れた制服、カラー部分が赤い上靴を履いている出で立ちに、にこにことした勝ち気な表情で、俺と石田を見ていた。
赤の上靴ということは…一年は青、二年は緑だから、三年だ。
でも、なんで三年生が一年の教室が並ぶ一階に?というか誰だ?石田の知り合いでもなさそうだし…。
戸惑う俺たちに、三年生は表情を崩さないで話を続ける。
「二人とも、ちょっとついてきて」
「…は?」
石田と顔を見合わせる。どういうことだ?
「いいからいいから!」
すると突然、三年生は俺たちの腕をつかみ、歩き始めた。
「ええええ!?」
「な、何で!?」
理解不能な行動を阻止すべく、腕をつかむ手を振り払おうとした。
しかし、いくら引き抜こうとしても、三年生の手は放れなかった。逆に、どんどん強く握られていく。石田も同じようだ。
そんな俺たちに構わず、三年生は西校舎へと続く渡り廊下を突き進んでいく。 辰巳高校の西校舎は、一階にトレーニングルームと合宿場、二階から四階には部室が立ち並ぶ、いわゆる部活校舎である。
ということは…この三年生、俺たちを自分の部活に入れようとしているのか? まあ、特に興味を持てない部活だったら断って帰ろう。
そう思っているうちに、三年生は西校舎に入り、階段を上り始めた。やはり勧誘目当てか。
三年生は息を乱さず、最上階の四階まで上り詰めた。そしてさらに進んでいき、一番奥の部室の前で止まった。
そのドアには、「広報部」と書いてある画用紙がはりつけられていた。
広報部…?
「さあ、入った入った!」
三年生はドアを開け、俺たちを部室の中へと押し込んだ。
「し、失礼しまーす…」
部室の中を見渡す。棚、ホワイトボード、長机、パイプ椅子、パソコンがある、シンプルな部屋だ。
そして南側の窓辺に、こちらに背を向けて立っている男子生徒がいた。おそらく部員だろう。
その男子生徒は、くるりと体を向けた。
「連れてこれたか」
「このくらい簡単よ」
黒縁のメガネをかけているこの生徒の上靴カラーは赤。つまり三年生だ。
突っ立っている俺と石田に、女子が席をすすめる。
「二人とも座って」
「あ、はい」
「失礼します」
俺たちは南側の席に、三年生二人は北側の席につく。
「あのー、これは一体どういう——」
俺の質問を遮って、女子が堂々と告げた。
「二人には、ここ広報部に入ってもらうわ」
……は?
「ちょ、待ってください!」
「どういう意味ですか!?」
もちろん俺たちは反論する。ってゆーか、なんでそういうことになってんの!?
「その前に自己紹介ね。あたしは三年五組の宮前芽衣。こいつは三年一組の加山智久。名前で呼んでね」
「いや自己紹介とかいいですから帰らせてください」
冷静に言う。すると、女子がにこにこしながら俺の手の皮膚をつまみ、物凄い力でつねってきた。
「あたたたたたたたたたた!!」
なんだこいつ…本当に女なのか?
「なんですって?」
尋ね方が…尋ね方が恐い…。
「す、すみません何でもありません!」
「ならよし」
ようやく手が解放された。隣で石田が気の毒そうな顔をしている。痛かったよホントに…。
「えっと、メイ先輩にトモヒサ先輩ですね?」
石田の問いに女子…メイ先輩がうなずく。
「あたしはそうよ。だけどトモヒサはトモって呼んでるわ」
「じゃあトモ先輩ですね。オレは…」
石田が告げる前に、男子…トモ先輩が口を開いた。「一年三組の石田結人、市川京だな?」
俺たちは驚いてトモ先輩を見た。
「知ってるんですか!?」
「まあな。…それより本題に入ろう。といっても説明することは少ししかないがな」
そうだった。これはどういうことなのか確かめなければ。
「じゃあ、説明するわね」
俺と石田は固唾を飲む。
「広報部って毎年入部希望者がいないの。だから、適当に一年を連行して、強制入部させているのよ。…以上」
……。
「…それだけですか?」
「そうだ」
トモ先輩がうなずく。
「つまり、俺たちは強制入部させられると…?」
「その通りよ」
「その通りだ」
……待て待て待て待て待て。
「そっ、そんなのお断りします!」
「オレも拒否します!」
もちろん反論。そんな理不尽なことに従え——
「へえ…覚悟できてんの?」
「「……すみませんでした」」
ついに笑顔を消したメイ先輩を前に、あっさり意気消沈してしまった。
…こうして、俺と石田は、広報部の一員となったのだった。