コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 広報部の青春な日々 ( No.7 )
- 日時: 2013/04/10 17:37
- 名前: 瑞咲 ◆7xuwBG6R9k (ID: eVCTiC43)
04「お兄ちゃんが幸せならボクも幸せ」
午後六時頃、俺は叔父夫婦の家を訪れていた。
「すみません、昨日部活に入部したので…」
辰巳高校は五時三十分までが部活の時間だ。そのため、リクの迎えに来る時間はだいたいこのくらいになる。もう叔父が仕事から帰っている時間だ。
この世の誰よりも親切な人だと思える叔父夫婦は、頭を下げる俺に優しく言った。
「謝る必要なんてないわよ。キョウ君が充実した学校生活を送っていることが、私たちの支えになっているのだから」
「そうだぞキョウ君!青春は今しか楽しめないぞ!」
叔父夫婦には子供がいないため、二人にとって俺とリクは実の子供のような存在なのだ。
そう思うと、不思議と心が温かくなる。
「そういえば、どんな部活に入ったんだい?」
「広報部です。その…勧誘してくれた先輩が熱心だったので」
強制入部させられました〜、なんて言えない。あはははは…。
「おお、文化部かぁ!キョウ君今まで運動部だったから、路線を変えてみるのもいいと思うよ!」
「やっぱり文化部も熱心に活動しているのねぇ」
二人は全く怪しまない。なんていい人なんだ…。
「お兄ちゃんおまたせ!」
家の中から、荷物の整理をしていたリクが出てきた。
「じゃあ、失礼します。ありがとうございました」
夫婦は微笑んで手を振った。
「気をつけてねー」
「何かあったら電話するんだよ〜!」
「さよならー!」
リクと共に手を振り返した。
右手で自転車を押し、左手でリクと手を繋ぎ、薄暗くなった空の下を歩く。
「リク、俺、これから毎日迎えに来るの今くらいだけど…大丈夫か?」
うん、と大きくうなずくリク。
「ボクは大丈夫だよ。おじさんとおばさんがいるからね。…ねぇお兄ちゃん」
今度はリクが質問してきた。
「何だ?」
「お兄ちゃんは、学校たのしい?行ってて幸せ?」
「ああ、楽しいし、幸せだよ」
「よかったぁ」
リクは安心したように言うと、にっこりと微笑んだ。
「お兄ちゃんが幸せなら、ボクも幸せだよ」
何気無く呟いたのであろうその言葉は、俺の胸に深く響いた。
「…そうか。ありがと」
そう頭を撫でると、誰よりも大切な弟は嬉しそうな表情を見せた。
六時五分ころ、俺たちは家に着いた。
「さて、夕飯作るか!」
「洗濯物取り込んでくる!」
「ああ、頼んだぞ」
帰ってきたら、俺が夕飯作り、リクが洗濯物取り込みすることになっているのだ。
手を洗い、エプロンを身に付けようとすると、家のチャイムが鳴り、声が聞こえた。
「キョウくーん!私だよー!」
やはりメグミだ。今日は事前に来ると言っていたのだ。
急いで玄関に駆けつけ、扉を開ける。そこには私服に着替えたメグミが立っていた。
「ちょうどいいタイミングだったな。今帰ってきたところだ」
「ほんと?よかったぁ。じゃ、お邪魔しまーす」
家に上がったメグミは、持ってきた鞄からエプロンを取り出した。
「よーし、今日は久しぶりに三人前だから張り切っていくよー!」
「確かに久しぶりだよな。春休み中はほぼ毎日二人だったし」
そう、今日は俺とリクとメグミの三人での夕食なのだ。週にだいたい二日、メグミが手伝いに来たついでに夕食をとって自宅に帰る日がある。
リクと二人での食事もいいけど、メグミがいると更に生き生きとした空気になる。リクも楽しそうだし。そして料理中も楽しい。
「さあ、じゃんじゃん作るよー!」
「でも作りすぎるなよ!」
メグミはピーラーを持って明るく笑った。
食事中、俺は部活の時に考えていたことを思い出していた。
あの時思い浮かべていた人物はメグミとミレイだ。この二人なら、頼めば快く引き受けてくれそうだし、ユイトともすぐに馴染めるだろう。
しかし、中三の二人には、今年大きなイベントがあった。高校受験だ。
もし広報部の仕事をしていたのが原因で二人が受験に失敗したら大変なことになる。でも、二人がいたら部活がより楽しくなるだろう。俺とユイトの負担も減るし…。でも受験が…。
「…キョウ君?」
不意にメグミが俺の顔を覗き込んだ。
「うぇ!?ど、どうした!?」
「キョウ君、何か悩んでる?」
メグミが心配そうな顔をしている。図星だ。メグミは昔からかなり鋭い。
「い、いや…何でもない」
「ホントに?」
「…ああ」
何もかも見抜きそうな目で見られると、返事がしづらくなる。
メグミはしばらく俺をじっと見ていたが、やがてふっと微笑んだ。
「何もないならいいけど…悩み事があったら相談しなきゃダメだからね」
その笑顔に、嘘をついている胸がズキッと痛んだ。
「リク君、おいしい?」
「うん!とっても!」
メグミにこのことを伝えたかったけど、我慢した。