コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 宮廷物語? ( No.23 )
日時: 2013/05/17 23:02
名前: 音 (ID: HFyTdTQr)

エリ *1*

「ちょっとー。姉ちゃんまだ起きないの? 姉ちゃんのストラップが一番売れるんだけどなぁ」

 椅子に座り、足をバタバタさせながら言うカコちゃん。まだ、幼なさが残っている感じがする。

「珍しいね。姉ちゃんが朝遅いなんて。ショウ兄ちゃんもいないよ?」

 寝転がりながら、少し心配そうに言うカエ。こっちは大人び過ぎる。

「うん。熱でもあるのかな? ちょっとみてくるね」

 心配になってきたし、みてくることにした。

 今まで、カナエが遅い事なんてなかった。
 いつも、誰よりも早く起きて朝食を作ってくれていた。
 前なんか、38度も熱があったのにふらふらしながら朝ごはんを作ろうとしていた事もあった。
 ちゃんとマスクを三重にして、みんなにうつらないようにしていた。
 まあ、効果があるかどうかは別として、ね。

 カナエの部屋のドアが開いていた。
 中を覗くと、紙切れを持って立ち尽くしている少年がいた。

「あれ? ショウ?」
「エリっ、これ」

 いつものほほんとしているショウが、青い顔で焦っている。

「何、これ……」

 あたしは、思わずショウを見てしまった。

 手紙には、少し出掛けてきます。と書いてあった。
 ショウは、父親をはやくに亡くしていて、ずっと育ててくれた母親は、これと全く同じ内容の手紙を残して帰ってこなかったと聞いている。

 あたしがここに来た頃は、もうショウはいた。

 ショウは、カナエ達が来てから明るくなった。

 あたしが来た最初の頃は、いつもぼーっとしていた。

 あたしはショウに、まだお母さんは生きてるんでしょ。だったら帰ってくるよ。とかずっと言ってた。

 それでも、あんまり仲良くなかった。

 でもカナエはここに来てすぐにショウの様子を見て、あの子のご両親は? ってあたしに聞いた。そんな話し方をする人は初めてだったから戸惑ったけど、教えた。

 すると、カナエはショウの所に行き、手を握り目を合わせてこう言った。

『こんにちは。私はカナエです。よろしくね。いきなりで悪いんだけど聞いてくれる?
 ショウ君は、お母さんに捨てられたと思ってる?』

 いきなり凄いな。と思った。
 ショウも顔をあげてカナエを凝視していた。
 すると、院長まで、

『カナエちゃん、何言い出すのかね?』

 と言った。

 カナエは全て無視して続けた。

Re: 宮廷物語? ( No.24 )
日時: 2013/05/17 23:08
名前: 音 (ID: HFyTdTQr)

エリ *2*

『ねえ、答えてくれる?』

 カナエは厳しめな口調だった。ただ、ショウの目をしっかり見ている。
 正直、この時あたしはカナエのこと好きになれそうに思えなかった。

『だったら——』

 ショウはカナエの手を振りほどき、勢いよく立ち上がった。

『だったらなんだよッ! なぐさめなんていらないッ! みんなそろって、お母さんはいつか帰ってくるよ。とか、まだ生きてるでしょ。とか……』

 あたしはこの時、はじめてショウの声をしっかり聞いたと思う。
 語尾がだんだん弱くなり、涙声になるショウ。

『私は、なぐさめるつもりなんてないよ』

 え? 何言ってんのこの子? と思った。

『は?』

 ショウも怒りを忘れたようにぽかーんとしている。

『私は、捨てられたと思ってる? って聞いたんだよ?』
『なっ』

 さっきの勢いが弱くなり、何も言い返せないショウ。
 カナエはそんなショウに全く構わず、話し続けた。

『捨てられたっておもっちゃだめだよ。確かに、両親を亡くした人にとったらまだ生きている分、幸せだと思う。でも、捨てられたって思うと辛いよね』

 最初の冷たさが消え、代わりにとても優しそうな笑みを浮かべていたカナエ。だけど、どこかさみしそうにあたしには見えた。

『お前に何が分かるっ!』
『なんにも分からないよ。でもショウ君は、また、誰かと仲良くなって捨てられるのが怖くて自分の殻にこもってるんじゃないかなぁ。と思ったの』
『そ、そんなことっ……』

 図星? なの?
 まだ会って数分だったのに、カナエはもう、ショウの心をしっかり考えて、傷をだんだん癒している。

 ——あたしには、出来なかったこと……

『でもね、私も、あそこにいるエリちゃんも、私の弟のカエも、妹のカコも、院長さんだってショウ君のこと、捨てないよ。だって、喧嘩しても、何か事情があって離れる事になっても、心はつながってるって私は信じてるから』

 満面の笑顔だった。
 好きになれそうにない。何言ってんの? って思ったことが間違えだったことが分かって、同時にそう思ってしまった自分が、とても恥ずかしくなった。

『あっ、なんか、偉そうに——』

 えっ? 急にどうしたの?

 とても気まずそうに困った表情になったカナエ。
 声もだんだんとか細くなり、最初の時のきびきびとはっきり自分の意見を言っていた様子が嘘だったようになった。

『ごめんなさい。じゃ、じゃあ私、そろそろお部屋に行かせていただきますね……』

 めっちゃ丁寧な口調っ!
 え? 何? どこかのお嬢さ、ま……あ。そっか。
 金髪がまざった髪の人は、王族の人だけだ。
 カナエ達はみんな金髪がまざっていた。

『ごめんなさい。姉ちゃん、スイッチが入ると性格が——』

 とか言いつつ、カエはニヤニヤしていた。状況をかなり楽しんでいたよね? 今思うと。

『いらないこと言わないでよ。行こ!』

 カナエは困ったように言いながら、カエを引きずるようにして歩いていく。

『待って!』

 ショウが初めて自分から話しだした。
 びっくりしたなぁ。
 そして、かなり気まずそうに言った。

『名前、聞き逃しちゃって……』

 カナエは振り返り、少しの戸惑いも見せずに笑顔で言った。

『カナエです』

 その笑顔は、とてもまぶしかった。