コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 宮廷物語〜試練時々恋愛〜 ( No.51 )
- 日時: 2013/05/18 09:54
- 名前: 音 (ID: HFyTdTQr)
第二章 *6*
「ははははっ! みんな仲が良いな!」
「父さん!」
ニコニコ笑いながらやって来たのは、ショーン君の父親で、宮廷画家のジョージさんだった。
「なかなか来ないから、どうしたのかと思ったが……」
ジョージさんは私達の様子を見て、なぜかかなり嬉しそうに笑った。
「良かった良かった。カナエちゃん、久しぶりだなぁ。随分と美人さんになったな!」
「いえ、そんなことは」
あれ? ルトのことはちらっと見ただけで、何も挨拶しないのかな? 気づいてはいるみたいなんだけど。
「あぁ、そうだ。絵のレッスンの事は聞いたかな?」
絵のレッスン?
どうしよう。絵、苦手なのに……
「はははっ! その顔は聞いてなかったみたいだな」
そう言って、ルトをまたちらっと見たジョージさん。
なんかジョージさん、さっきからルトに敵対心が凄い気がするのは私だけかな?
「まぁ、いい。それなぁ、俺は忙しくてカナエちゃんのレッスン出来ないんだ。だから、ショーンに教えてもらうことになったって事を伝えたかっただけなんだがな。だから、よろしく。ああ、俺もう行くな! じゃあ、またな! ルト君、カナエちゃん!」
あ。別にルトのことを無視してた訳じゃないんだ。
「ああっ! 俺ももう行かないと! またね! 二人共!」
そう言って二人は嵐のように去って行った。
- Re: 宮廷物語〜試練時々恋愛〜 ( No.52 )
- 日時: 2013/05/18 09:56
- 名前: 音 (ID: HFyTdTQr)
第二章 *7*
私は今、軍隊の訓練場にいます。
目の前には、私より背が小さくて濃い紫の髪と目をしたまだ微妙にあどけない男の子。
その子のとなりには、私より年上で黒に紫が混ざった髪と目で緊張した表情をしている男の子。
今回、私に教えてくれる方達だそうです。
不思議なのが、二人の関係。
「すいません。えっと、つまり、カケルさんがサイヤさんより年下だけど、上司ってことですか?」
どう見ても、カケルさんよりサイヤさんの方が強そうに見えてしまう。
「はい。今回、カナエ様に武術を教えるのはカケル君ですが、カケル君は戦いに出れない分、隊員の指導を熱心に行なっておられるので、カケル君より俺がカナエ様に教えることが多くなると思います」
カケルさんが自分より大きな人達に武術を教えている様子を想像してみると、かなり違和感がある。
「サイヤさんは、凄い人だから大丈夫だよ。あと、カナエ様なんてよそよそしいから、カナエちゃんって呼んでいい? あと、タメ口でいいよ!」
か、かわいい……
「えっ? あっ、うん。」
「ありがとう! サイヤさんもタメ口でいいって言ってるんだけど、なかなか言ってくれないんだ」
「カケル君の方が実力が上だから」
サイヤさん、硬いなぁ。
「でも、カケル君って呼んでくれるようになったんだよ」
そういって嬉しそうににっこりと笑うカケル君は、どう見ても、サイヤさんより弱く見えてしまう
「あの、私、武術をあまり見たことがないので——」
「あっ、じゃあ、これからサイヤさんと剣で稽古するから見てて」
鞘から剣を取り出しながら言ってくれる。
話を途中でさえぎられたことは、気にしないよ? だってカケルさん——カケル君、かわいいし。稽古を見せてくれるって言ってくれたし。
「はい」
位置につく二人。
「っ!」
急に目の色が変わったカケル君。
あどけなさが完全になくなり、怖いくらい真剣な表情になった。
「……ぇ?」
一瞬の出来事だった。
カケル君がサイヤさんの方に走って行き、剣を振り下ろしてそれをサイヤさんが受け止めた所までは、見えた。
だけど、その後、気がつくとサイヤさんがうつ伏せになっていて、カケル君がその上に乗って、剣をサイヤさんの首筋に当てていた。
そこでまた目の色が戻り、あどけなくなったカケル君。
「うん。サイヤさん、いつもよりいいね!」
剣を戻しサイヤさんの上からのきながら、満面の笑みで言うカケル君。
「最近は4秒くらいだったけど、今日は10秒だった。綺麗なお客様がいるからかなぁ?」
サイヤさんの顔がほんのり赤くなった。
ていうか、戦いながらサイヤさんが抵抗していた秒数を数えてたの? そんな余裕があったの?
「たまたまです……」
「なっ、何が——?」
10秒の後、何があったの?
「これが、カケル君の強さだ」
そこで、少し間を空けるサイヤさん。
「一瞬で相手を倒せる」
サイヤさん、悔しそう。やっぱり、年下の子が自分よりも実力があると、悔しいんだろうな。
でも、カケル君のことを本気で尊敬しているってことが言動からなんとなく分かる。
カケル君もまた、少し悔しそうに言った。
「普通の隊員なら、1秒くらいでいけるんだけど、キョウさん、強いから……。
ちなみに、隊長は30秒耐えてくれるよ」
開いた口が塞がらない。
という状況をはじめて味わった。
「カケルさん! 少しよろしいですか?」
三十代くらいのいかつい男の人が、自分よりも小さい少年に敬語とかいう様子は、やっぱり不思議。
「うん! 今行く!
じゃあ、また。カナエちゃん、口が開いてるよ」
「あっ、またね!」
は、恥ずかしい
でも、カケル君って、凄い。
- Re: 宮廷物語〜試練時々恋愛〜 ( No.53 )
- 日時: 2013/05/18 09:58
- 名前: 音 (ID: HFyTdTQr)
第二章 *8*
カケル君は、強いけど戦いに出られない。
まだ、軍人としては幼いから。
「サイヤさんは、戦いに出ているのですか?」
「まだ出られない。20歳以上で実力がある人しか出られないので。あと、俺にも敬語ではなくてよろしいです」
戦いって結構、精神的にもダメージがありそうだしね。やっぱり、ある程度年齢が高い方が良いのかな。
うーん。敬語じゃなくて良いって言われても、私の方が年下だしなぁ。
「あっ、はい。では、サイヤさんも」
「俺は、カナエ様より、身分が低いので」
即答か。身分とか、関係ないけどなぁ。私に対しては。
「じゃあ、せめて呼び捨てにしてください。私の方が年下なので」
せめて、ね。
サイヤさんは少し迷ってから「はい」と言ってくれた。
「あの、急なんですけど……」
「はい?」
会話がひと段落したところで、私は、朝からずっと企んでいた事をサイヤさんに話した。
年上といってもサイヤさん、私とそんなに変わらなそうだし、ルトの表情から、そう簡単にこの宮廷から出してくれないと思ったから(幼なじみだもん。嘘とかは大体分かる)。
どうしても、今日行かないと。
勝手に何処にも行かないって約束したから。
説明しに行く。なんとしてでも。
「——つまり、夜中に宮廷を抜け出したいと」
サイヤさんは否定的な表情をしている。
「はい。それで、今日の警護の方は何人で何処にいて、どうしたら抜け出せるか聞きたいの」
ここで私が折れたらもう抜け出せないと思うから、サイヤさんの表情にひるまないように、手を強く握りしめる。
「駄目です。あなたが抜け出したことがばれたら、あなただけでなく、俺やルト様も叱られることを分かっているのですか?」
そうだよね。でも……
「分かってるよ。でも、あなた達は叱られないようにするから! お願いっ!」
思いっきり頭を下げた。
「なぜ、そこまでして?」
サイヤさんには、宮廷を抜け出したいとしか言っていない。
「抜け出して、何処に行くのですか? カナエは元々、隣の国に住んでいて、しかも数年間遠い異国に留学していたのですよね。この国の街に出ても、行く所はないのでは?」
ああ、私いない間、そういう事になっているんだ。
ど、どうしよう。言わないと行けないかな?
「こ、孤児院……」
ああ。言っちゃった。
サイヤさんの眉が訝しげにあがった。
もうこうなったら言っちゃえ!
「私っ、外国になんて行ってないの。詳しい事は言うのは面倒だし、あんまり言いたくないんだけど……。私ね、4年間、事情があって、この国の孤児院にいたの。その皆に、何も言わずにここに来たから……」
お願い。
「……」
何かを考えるように黙るサイヤさん。
「今日の警護の担当には俺もいます。俺の所から抜け出してください」
「えっ?」
自分から頼んでおいたくせに、言われたことが信じられずに聞き返してしまった。
「いいんですか?」
「はい。ただ、なるべく早く帰って来てください」
また即答。
こうして、今夜の脱走計画がたてられました……。