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幼なじみから恋人までの距離(1) ( No.1 )
日時: 2013/04/27 19:33
名前: あるゴマ ◆Dy0tsskLvY (ID: Ba9T.ag9)

窓から降り注ぐ温かな陽光。

春眠暁を覚えず——昔の人は上手い事を言ったもんだ。

春の布団には魔力がある。

現実世界と夢の世界を行ったりきたり……この何とも言えない感覚に、何度身を任せてきただろうか?

まぁ、その度に起きてから焦って、光の速さで準備をしなくちゃいけないハメになり、二度と寝坊はしない!! って誓ったりするんだけど……。

人間、欲求には素直になるよね。


「翔ーーっ!!」

遠くで俺を呼ぶ声が聞こえてくる。

この声は母さんだ。
時間になっても起きてこないもんだから、大声で一階から呼んでいるみたいだ。

寝ぼけ眼で枕元の時計を確認すると、まだ若干うつらうつらする余裕があった。

「というわけで、あとちょっとだけおやすみ俺」

ここで起きてりゃゆっくり登校できたりするんだけど、それができない。

うん、春のせいだ。
全部春のせいって事にしてしまおう。

再び睡魔に身を任せていると、階段を上がってくる音が聞こえる。

その後、ゆっくりと部屋の扉が開く音がした。

きっとあまりに起きてこないもんで、母さんが直接起こしに来たな。

高校生になって母親に起こされるってのも、あまり良くないよな。

わかってるよ。

わかってるけど、あと五分は大丈夫なんだ。

頭の中の葛藤の末、五分間は布団に立てこもる事が決定した。


ユサユサッ。


俺の身体が揺れる。

並の人なら、ここであきらめて起きるんだろうけど、朝の崇高な睡眠時間をここであきらめるわけにはいかない。

布団をガッチリとつかんで徹底抗戦の構えを取る俺。

「翔くん。起きてよ〜遅刻しちゃうよ?」

——ん?

翔くん?

何で母さん俺の事を「翔くん」とか呼んでるんだ?

春の陽気のせいでおかしくなったんだろうか?


ユサユサッ。


「ほらぁ〜。起きなきゃダメだよ」

この若干間延びした声は……。

布団の中から、薄目を開けて覗いてみる。

「ゆ、雪乃っ?!」

「やっと起きたぁ〜。翔くん寝起き悪いよね」


こいつの名前は、田村雪乃。

ナチュラルブラウンのゆるふわロングの髪に、白く透明感のある肌。
身長は高いわけでもなく、低いわけでもない。

若干タレ目のせいか、全体的にやわらかい印象だ。

おっとりした性格で人あたりも良いため、男子から人気がある。

まぁ、俺はそんな事意識した事ないのだが、たまに雪乃のそばに行くと、甘い香りがしてきて不意にドキッとする時もあったりする。……ごくたまにね。

ちなみに雪乃は俺と家が近くて、昔から仲が良かったりする。

幼なじみってやつか。

「な、何でお前が?!」

「何でじゃないよ〜。昨日、朝一緒に行こうって言ったじゃない」

雪乃は若干ご立腹のようだ。
頬を膨らまして抗議しているが、おっとり顔のせいか全然怖くない。

「あぁ、そうだったっけ?」

「そうだよ〜!! 早く着替えてよね。私下で待ってるから」

それだけ言い残すと、雪乃は部屋を出て行った。