コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

幼なじみから恋人までの距離(10) ( No.12 )
日時: 2013/05/02 23:09
名前: あるゴマ ◆Dy0tsskLvY (ID: Ba9T.ag9)

「……はぁ、はぁ……」

「…………」

沈黙する野村。

かわいそうに……モロに入ったから、今日は復活できないだろう。

香凛を触るなんて、自殺行為だよ。

俺は香凛に駆け寄って、廊下まで避難させる。


「なんなの!! なんなの! !肩とか触ってきて……!!」

香凛は鳥肌が全身にたつくらいの勢いで拒否反応を示す。
まぁ、確かにあれは野村がやりすぎた。

「確かに野村はやりすぎたけど、グーでみぞおち殴るのはあり得ないぞ」

「……じゃあなによ? あのままヘラヘラ笑ってあわせるのが正解だった訳?」

「そうじゃなくて、もっと上手い断り方っていうか……手を出す前に口を使えというか」

そんな話しをしていると、雪乃が声をかけてきた。

「あっ、翔君、香凛ちゃーん。おはよー」

間延びしたおっとりボイスで、手を振りながら俺達に近づいてくる。

「……雪乃」

香凛は雪乃をチラリと見るが、とくにあいさつもせず目を背けた。
こいつら仲悪かったっけ?

「えへへ……二人とも仲直りできたんだね」

くったくのない笑顔で雪乃はそんな事を言う。

いや、休戦協定をむすんでいるだけで仲が良くなった訳でも、仲直りした訳でもない。
……とは、口が裂けても言えない。

「まぁな」

無難な返事になったが、これで良しとしよう。
いつか話せる時がくるさ……多分。

「じゃあ、私先に教室入ってるね〜」

そう言って、雪乃は教室に入っていった。

「……香凛。ちょっと雪乃を見てみろ」

「えっ……?」

雪乃を指さして、香凛に見させる。

雪乃は人あたりが良く、男子とも、女子とも上手く付き合える。まさに香凛のお手本のような存在。

プロの料理人は、技術は教えられるのではなく、見て盗めと言われているらしい。

俺はそこまで人付き合いが上手い方ではないので(もちろん人を殴ったりはしないが)ここは達人の技術を盗もうではないか。


そうこうしてる間に、雪乃の周りに人が集まっていく。

「雪乃さん、今日の放課後なんだけどさ……」
「田村さん。今日良かったら俺と……」

女子、男子問わずそんな声がかかる。

我が幼なじみながら凄いやつだ。


「……で、これを見せてどうしろって言うの?」

香凛は『興味がないんだけど』と言わんばかりに、俺に聞いてきた。

「だから、あーいう感じで対応するんだよ」

雪乃を見ると、男子のお誘いをやんわりと、しかし気分を害さないように断っている。

「…………」

「どうだ? 参考になったか?」

「うっさいなー。わかってるわよ」

さっきの野村から火がついたせいか、香凛はさらに不機嫌そうになっている。

うーん、カルシウムが足りないのか?
今度小魚でも持ってくるかな。


「よし、じゃあ次はあいつに話しかけてみろよ」

そう言って俺が指示した人物は、クラスの中でもおとなしいと評判な中村君。

これなら、野村のような惨劇はおきないだろう。

「お、おはよー。中村君」

「ひっ……お、おはよ……中川さん」

香凛の挨拶にビビる中村君。
さっきの野村へのコークスクリューパンチを目撃していたのか? ちょっとまずったか。

「き、今日は良い天気ね〜」

ぎこちない話し方は変わらず。
ってかまた天気の話しかよっ!! どんだけボキャブラリー少ないんだよお前!!

「……そ、そうだね……」

ちぢこまる中村君はまるで、ライオンに追いつめられたインパラのようだ。

せめて教室の隅からエールを送ろう。頑張って中村君!!

「こ、こう天気が良いと農作物が心配になるわよね。雨が降らないと……色々……」

まだその話し続くの!? しかも農作物の話しって!?

「…………」
「…………」

会話が途切れた。

ですよねー。ちょっと会話のチョイスがマニアックだよ香凛。


ミッションに失敗した香凛は、トボトボと俺の方へ戻ってきた。

「……うぅ、何で上手くいかないのよー」

「いや、当たり前だろ。天気と農作物の話しで盛り上がるのはレアだぞ」

農家の人となら会話ははずむかもしれないが。

そうこうしてる間に、予鈴が鳴ってしまった。

「……仕方ない。また休み時間にチャレンジだな」

うなだれる香凛をなだめて、次の作戦は休み時間に持ち越しとなるのだった。