コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 幼なじみから恋人までの距離(16) ( No.22 )
- 日時: 2013/05/11 19:00
- 名前: あるゴマ ◆Dy0tsskLvY (ID: Ba9T.ag9)
日曜日——。
俺はひとりで、駅前のファッションビルに来ていた。
もうすぐゴールデンウィークだ。
それが終わると、今度は「母の日」だ。
昨日もリビングで夕飯を食べていたら、テレビで「母の日はカレーを作ろう」のCMをやっていた。
それを見て母さんは独り言のように「もうすぐ五月の第二日曜ねー。今年はどんな日になるかしら、五月の第二日曜」と言ってたっけ。
これは贈り物のひとつでもしなければ、どれだけ機嫌を損ねるか分かったものではない。
前に一度、うっかり忘れたまま母の日を迎えたら、次の日、母さんは大鍋三つ分もカレーを作って、父さんと俺は謝るまで毎日カレーを食わされたことがある。
もう、カレーライスとカレーうどんしか選択肢のない日々はごめんだ(カレーチャーハンもあったけど)。
まあ、母さんには日頃から世話になっているし、母の日の恩返しくらいはして当たり前だよな。
あれこれ迷って、けっきょく買ったのは落ち着いたデザインのハンカチ。
ありきたりかもしれないけど、プレゼントとか慣れてないし、これくらいしか思い浮かばなかった。
さて用も済んだから、ゲーセンで格ゲーでもやっていこう。
今日こそは「十字キー二回転」の超必殺技を出してやる。
日曜のファッションビルは人でにぎわっていた。
数年前、駅前の再開発で突如として現れたこのビル。
他にこれといった遊び場のない地元民にとっては見てまわっているだけでも楽しいわけだ。
家族連れにまじってエスカレーターを下りると、すぐ正面がゲームコーナーだった。
俺は小銭の枚数を確認し、筐体機のある場所へ向かう。
「うぇー、私と吉田先輩の相性、ぜんぜん良くないじゃん」
すぐそばで、同年代くらいの女子が三人集まって喋っていた。
恋占いのゲーム機を前にして、プリクラで見るような幌をかぶっている。
「アハハハハ。あたしと同じ結果だね。あたしも山本君と相性最悪だったもの」
意気消沈する友だちを元気づける明るい声。
二人とも、占いの上では失恋確定みたいだ。
でも占いの結果にばかりとらわれるのもよくないと思うぞ。
自分の気持ちをはっきり言葉にして伝えれば、それで運命が変えられることも、もしかしたらあるかもしれないし。
「さあ最後はあなただよ香凛。あなたもやってみな」
それまで黙っていた女の子の名前が呼ばれた。
香凛か。どっかで聞いたことのある名前だ。
「い、いいよ私は!」
激しく拒否反応を示すその子。ものすごく聞き覚えのある声。
目をやるとそこには見知った人物、香凛が居た。
クラスメイト(名前は覚えてない)の友達二人と楽しそうに話している。
少し気になった俺は、近くのビデオゲームの椅子に座り、様子を見る事にした。
「ほら〜。香凛もやんなよ〜」
ショートカットに栗色の髪をした快活そうな女子が香凛に占いをすすめる。
「えぇっ、わ、私はいいよ」
香凛は両手をブンブン振り拒否する。
「そんな大した事じゃないし、気になる人くらい居るでしょ?」
少し落ち着いた雰囲気がある、黒髪をポニーテールにしたもう一人の女子が香凛に問いかける。
「そ、そんなやつ……いないし」
少し考えをめぐらした後、香凛は返事をした。
まっ、そうだろうな。
そんな話し聞いた事ないし、あいつ男子あんま得意じゃないもんな。
「ウソだ〜。同じクラスの武田君と最近よく一緒に居るじゃん」
ショートカットの女子がそんな事を言う。
急に自分の名前が出てきてドキッとしてしまった。
おいおい、だけどそれだけはないぞ。
「あ、あいつとは、そんなんじゃないから」
サラッと否定する香凛。
まぁ、わかってたけど、あんまアッサリ言われるのも悲しいもんだな。