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幼なじみから恋人までの距離(3 ( No.3 )
日時: 2013/04/27 21:37
名前: あるゴマ ◆Dy0tsskLvY (ID: Ba9T.ag9)

「翔君」

隣の雪乃が俺のひじをトントン叩いてくる。

「香凛ちゃん。香凛ちゃんだよ!」

「お、おお」

俺もそれに気づいてうなずく。

同時にクラス中の男子が低い声で「おー!」と歓声をあげた。

「はいはーい、男子ども、さわぐなー」

そのセリフを用意してましたとばかりに、川田先生が教室内を落ち着かせようとする。

だが男子たちの歓声は、用意したセリフなんかではなかったと思う。


四年ぶりに見る香凛は、俺の記憶以上にかわいかった。

短めで癖のある黒い髪が小柄でほっそりした体型と組み合わさった印象は、雪乃なんかに比べるとちょっと女性的というより少年チックだった。
けれど、それに女子の制服を着させて目の前にポンと置かれたら、口元がついニヤリとゆがんでしまいそうなものだ。

「中川さんは中学校から四年間、女子校に通っていてね、共学は初めてだっていうんだけど、男の子たち、優しくしてあげるんだよ!」

川田先生はそう男子に忠告したあとで「中川さんからも自己紹介して」と、香凛をうながした。

「中川香凛です。えっと……よろしくお願いします」

緊張気味の香凛が淡白にあいさつすると、教室内が沈黙した。

香凛は恥ずかしそうに顔をふせ、肩をこわばらせたまま、固まってしまった。

「香凛ちゃーん、わたしたちが居るから、大丈夫だよー」

ニコニコ顔で雪乃が手を振った。

「雪乃……」

香凛がそれに気づいた。それから、隣の俺の存在にも。

「何? 武田、転校生さんと知り合いなの?」

席の近い男子——斉藤が言った。

「そう」

雪乃が代わりに答える。

「わたしと武田君はね、中川さんと同じ小学校の幼なじみだったんだよ!」

雪乃が活発に宣言すると、またもや教室内が「おー!」とざわめく。

「田村さんと中川さんが幼なじみだったなんて、すげー豪華な組み合わせだな」

「でも武田は要らんだろ、武田は」

どういう意味だよ、俺が要らないって。

「ほんと、ムッツリ武田がこの二人と幼なじみなんてな」

斉藤が俺を見て言った。

俺はムッツリではない。変な言いがかりはやめてもらいたい。

っていうか俺とお前は先日知り合ったばかりだろ!

「よかったわね中川さん。仲良しだった二人と同じクラスだよ」

川田先生が香凛の背中をポンと押した。

「なっ」

緊張に固まっていた香凛の背すじがビクンと跳ね上がる。

やや吊り上がった黒い瞳が潤んで、きゅっと下くちびるを噛むと、思い切ったように、

「仲良しなんかじゃありません! そんなムッツリとは!」

大きな声で叫んだ。

「そ、そう……」

先生は苦笑いしつつ、

「じゃあそろそろ席に着いて。授業を始めましょう」

香凛はムスッとした顔のまま、俺や雪乃には目もくれず、後ろの窓際の席に座った。


「ドンマイだよ、翔君」

めげない雪乃が小声で俺を励ましてくれた。

なんでドンマイなんだよ俺が。

「ごめん。武田がムッツリって、勘で言っただけなんだけど、当たってたみたいだな。ほんと、ごめんな」

斉藤まで俺に気を遣ってきた。だから俺はムッツリじゃないって!

香凛が言ったのもデタラメだ。「ごめん」なんて言わないでくれ!


平穏だった高校二年の新学期も、どうやら雲ゆきが怪しくなってきた。