コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 幼なじみから恋人までの距離(21) ( No.35 )
- 日時: 2013/05/19 19:00
- 名前: あるゴマ ◆Dy0tsskLvY (ID: Ba9T.ag9)
俺はいつの間にか勝負に熱くなっていた。
昼間ここでやった時は骨のある対戦相手が現れないで、物足りなかったのだ。
香凛がちょっと離れたところのベンチに座って、ボーっとしているのが、視界のすみに見えた。
そのベンチに座っている香凛の手に、いつの間にかコーラがにぎられていた。俺が熱中している間に買ってきたのだろう。
何度目か分からない勝負で、ついに俺は負けた。
やれやれ、すっかりハマってしまった。
香凛には悪いことしたかな、と思いつつ、ベンチの方を見ると、そこには誰も居なかった。
あいつ、どこ行ったんだろう。
もしかして機嫌を悪くして先に帰っちゃったとか?
不安になって店内を見回してみると、占いゲームの前に、見覚えのあるリュックサックが見えた。
幌をかぶって顔は見えないが、間違いなく香凛だ。
昼間は友だちと遊んでいて、どうやら香凛だけは占いをやるのを拒み続けていたと思うんだが。
やっぱり、自分でもやってみたかったのか?
俺はさり気なく香凛の横に立って、ゲーム画面を見てみる。
どんな占いかというと、自分の名前と、気になる相手の名前を入れて、何個もの質問に答えるらしい。
画面の左上には「KARIN」の文字。言うまでもなく香凛自身のことだ。
その隣にあった名前は「T・S」のイニシャル。
「誰だよT・Sって」
俺は横からツッコミを入れてみた。
すると香凛は「なっ! やだ見ちゃダメったら!」と慌てて画面を手で隠した。
「Sって誰だ。佐藤とか、鈴木とか? サ行の名字の男子なんてうちのクラスには居ないし」
「誰でもないわよ、バカ。適当に入れただけだって」
香凛はそそっかしい口調で言う。
一回二百円もする相性占いをやるのに、そんなのってあるのか?
疑問に思った俺の頭に、一つの答えが浮かんだ。
(T・S=タケダ・ショウ)
——まさかな。
「分かったよ。じゃあ俺、そこのベンチで待ってるから」
香凛にそれだけ言うと、俺は自販機でコーヒーを買い、ベンチに座った。
やがて占いが終わり、診断結果がプリントアウトされて出てくる。
香凛はボウリングのスコア表みたいな用紙をまじまじと見つめている。
「どうだ。良かったのか、相性は」
「うん」
うれしそうに首を縦に振った香凛に、俺はそれ以上は何も聞けなかった。
ビルの外に出ると、空はすっかり暗くなっていた。
駅前のタクシー乗り場に、車のヘッドライトが何台も連なっている。
香凛と二人、駆け足で乗り込んだバスの中は混んでいた。
吊革につかまって立ったまま、二人は何も喋らなかった。
同じバス亭で降りて、もう時間も遅いし、ついでだから香凛を家の前まで送っていった。
「じゃあ、また明日な」
「うん。また明日」
交わした会話はこれぐらいのものだった。
キィと柵がきしむ音をさせ、香凛が家の敷地内に入っていくのを俺は見送った。