コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 幼なじみから恋人までの距離(22) ( No.36 )
- 日時: 2013/05/22 19:53
- 名前: あるゴマ ◆Dy0tsskLvY (ID: Ba9T.ag9)
「翔くーん。もう起きないと遅刻するよー」
「……ん?」
うっすらと目を開けると、そこには俺の寝顔をのぞき込む雪乃が。
きっちり制服に着替えて、もう準備万全といった感じだ。
「ちょっと待て。俺はまだ母さんにも起こされてないぞ」
「んー? そうだね」
「いや、だから……まず母さんが俺を起こそうとして、それでも布団から出ない時に、お前が出てくるんじゃなかったか?」
先日の、香凛がうちの学校へ転校してきた日の朝だ。
あの時は俺がなかなか起きないんで、雪乃が起こしに来てくれたんだっけ。
そんなシチュエーションは久しぶりだったので、俺は思わず布団から飛び出てしまったが。
今朝はいきなり、目を開けた瞬間から雪乃とご対面。
「実はおばさんがね、翔くんが朝なかなか起きないから、私に起こしに来てくれって頼まれちゃったんだ」
「ったく、母さんは勝手にそんな……」
「おどろかせちゃってごめんね。朝から私が来ちゃ迷惑だった?」
「いや、迷惑じゃないけど……それより、お前の方が迷惑だろ。こんな用事を頼まれて」
「うんん。ぜんぜんそんなことないよ」
雪乃は首をぶんぶん横に振り、はっきり否定した。
俺はつい「え?」と聞き返してしまったが、雪乃はとてとてと部屋の外へ出ていくと、
「ごめんね。今朝は私も寝坊しちゃった。時計見てみて、翔くん」
ドアから顔を出し、ニッコリ顔で言う。
今、何時なんだ……俺は時計を見た。
「うおぉぉぉーーーーーー! 早く言えよぉーーーーーー!」
今朝もまた世界選手権だ。朝の早支度の。
それから数分後、俺はいつもの通学路を雪乃と並んで歩いていた。
16倍速で支度して家を出てきたため、遅刻はしないで済みそうだ。
見慣れた制服が、あちこちを歩いている。
そのうち32倍速で支度できるようになれば、もっとぎりぎりまで寝てられるな。
「翔くん、まだ眠いの?」
「おぉ。昨日の夜、布団に入ってからなかなか寝付けなくてな」
大きなあくびをしながら、俺は答えた。
実を言うと、この生あくびは香凛のせいなのだ。
あいつのことが気がかりで寝つけなかった。
男子に話しかけられると、ついツンツンした態度になってしまう。素直になりたいんだけれど、どうしてもなれない。
香凛が落とした手帳から、俺はそんな秘密を知ってしまった。
だからあいつが男子の前でもうまく笑えるように、自然なお喋りができるようにって、俺も協力してやったはずだった。
しかしその作戦はことごとく失敗。
話題のボキャブラリーは少ないわ、相手をグーで殴るわ、怨霊のような笑みで相手を恐がらせるわ、しまいには俺の顔面にぶ厚い本を打ち込んでノックアウトするわ。
お前はストリートファイターにでもなりたいのか。
あいつは今まで女子校に居たらしいから、男子が苦手ってのも、あると思う。
ただ、あのツンツンしてバイオレンスな香凛が、本物の中川香凛だと、クラスのみんなに思ってもらいたくない。
昔の、素直でよく笑うあいつを、俺は知ってるから。
「あれー? あそこを歩いてるの、香凛ちゃんじゃない?」
雪乃が遠くを指さした。
なだらかな坂道を歩く制服の群れの中に、ひときわ背が低く見える、ショートの髪。
ほんとだ。香凛だ。
俺と雪乃は小走りに、その香凛に追いつくと、
「おっはよー、香凛ちゃん!」
雪乃が明るく声をかけた。