コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 幼なじみから恋人までの距離(23)0525UP ( No.37 )
- 日時: 2013/09/13 07:16
- 名前: あるゴマ ◆Dy0tsskLvY (ID: Ba9T.ag9)
「雪乃……って、あんたも一緒か!」
俺が居るのに気づくと、香凛はすぐさま声を荒げた。
「えへへ。今朝は翔くんと私、一緒なんだー」
「ふんっ。どうせ翔が朝だらしないんで、雪乃がついてあげてるんでしょ」
「なんだよ『どうせ』って。俺が原因みたいに決めつけるなよ」
まあ、当たってるけどさ。でも寝不足なのは、お前のせいでもあるんだぞ。
「だって、あんた」
ギロリ、と香凛はこっちをにらみつけると、
「ん!」
俺の胸もとを、くいくい、と指さす。
「あ? なんだよ?」
「んー! ネ・ク・タ・イ! ネクタイずれてる!」
「あ、ああ。わりぃ」
初めて気づいた。
今朝、あんまり急いでいたからな。
こりゃ、16倍速の支度は無理だ。明日からもっと早く起きねば。
「家を出る前に、鏡くらい見なさいよね」
「見てるよ、普段はな! 今朝はたまたまだ!」
言い返し、俺は自分のネクタイをいじる。んー、うまくいかん。
「ごめんねー翔くん。私がちゃんと見てあげてればよかったね」
雪乃が俺のネクタイを直し始めた。
雪乃の顔がすぐ目の前に迫る。
立ち止まった俺たちのすぐ横を、見知らぬ生徒たちが通り過ぎていく。
「ちょっ……いいよ雪乃。自分で直せるって」
「いいから、じっとしてて」
雪乃の細い指が俺のネクタイをギュッと締める。
加減の分からない締め方に、一瞬だけ胸が苦しくなった。
周囲の視線が、その苦しさに熱を加える。
「ふんっ」
香凛はそんな俺に冷ややかな視線をくれると、歩幅を大きくしてどんどん先へ行ってしまった。
——————
「く、暗いね……」
「まぁ、そりゃ倉庫だしな」
真夏や梅雨じゃなくて良かった。
夏まっさかりだったら干上がってるし、梅雨ならカビが生えてたよ。
こう、不快指数的なもので……それは言い過ぎか。
平日の真っ昼間、俺と雪乃は何の因果か体育倉庫に閉じ込められていた。
なんでかっていうと、話しは数時間前にさかのぼる。
「ねぇ、翔君?」
おっとりボイス&ほんわか笑顔の雪乃が話しかけてくる。
「ん? 何か用か?」
「昼休み、ちょっと付き合ってくれないかな〜?」
「良いけど、何かあるのか?」
雪乃はクラスでも人気者だったりするので、普段は用がなければ一緒に昼飯を食べたりしない。
もちろんたまに誘われたりもするが、二人で食べるのってどうしても注目されてしまうから断ってたりする。
気にしなきゃ良いんだけどさ、視線がね痛いんだよ。男子の。
「う〜んとね、午後の授業で使うテニスのネットを出しておいてって頼まれたんだ」
「ほぉ、それで俺に手伝ってほしいと?」
雪乃はやや恥ずかしそうに頷いた。
やれやれ、先生達も雪乃に頼りすぎだよ。
雪乃が優等生で、なまじ何でもできるもんだから頼ってしまう。
雪乃も雪乃で、頼まれたら断る事ができない。難儀な性格してるよな。どんだけ性格良いんだよ?
「良いよ。ってかそんなの、わざわざお願いされなくてもやるよ」
だいたい、雪乃一人でやるもんじゃないと思うしな。
「えへへ、ありがと。翔君」
そう言って、雪乃はほんわか笑顔を見せた。
うーん、癒し系だな。一家に一人はほしいと少し思ってしまった。
昼飯を食べ終わると、俺は雪乃と体育倉庫へ。
あと十分ほどで授業が始まるせいか、体育館にはほとんど人が居ない。
倉庫の中に入ると、中は薄暗く、整頓されてない用具があたりに散らばっている。使ったら片付けとけよな。
「なぁ、電気つけてくれないか?」
「うん。えーっと、これかな?」
カチッという音はしたが、明かりがつく様子はない。
「壊れてるのかな〜?」
雪乃は、カチカチっとスイッチをいじるが一向に明かりがつく気配はない。
「仕方ないな。ちょっと暗いけど、携帯のライトでなんとかするか」
俺は携帯のライトをつけて、倉庫の奥へと進んだ。後ろから雪乃もついてくる。
そうしてしばらく探していると、一番奥にかなり絡まったネットを発見した。
なんていうか、ウチの学校はかなり大らからしい。悪い言い方をすると、いい加減。
「これか。よっと!!」
力いっぱい引っ張り出そうとするが、奥で引っかかってるからなのか、出せない。
仕方なく奥に潜り込んで絡まったところをほどく。雪乃も覗きこんできた。
「よし。これで大丈夫だろ」
俺が絡まった部分をほどくと、後ろからガシャンっという音とともに倉庫入口の扉が閉まった。
「えっ!! 何で!?」
俺が声を出して驚きながら急いで入口に行くが、ガッチリとロックされた扉は開く事はなかった。
閉じ込められた……。
どうやら、外から開ける事はできるが、中からは開ける事ができないという欠陥構造らしい。