コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

幼なじみから恋人までの距離(25) ( No.39 )
日時: 2013/07/02 17:10
名前: あるゴマ ◆Dy0tsskLvY (ID: Ba9T.ag9)

「大丈夫だって。翔君は心配性だな〜」

「待て、俺の話しを……」

言おうとした瞬間、俺の頭をそっと持ち上げられ、雪乃の柔らかな感触が頭ごしに伝わってきた。

「えへへ。どうかな?」

「…………」

どうかな? じゃないよ!! 心臓が自分のじゃないみたいに異様に早いんですけど!! お前は俺を殺す気なの?

「翔君?」

「いや、雪……」

——ガタン——

その時、どこからか物音が聞こえた。

「きゃあっ!?」

「うぉっ!!」

雪乃が驚いて俺の頭を抱きしめるような形になる。

……一瞬、心臓が止まった(気がした)。

雪乃の髪から甘い香りがして、気が付くとお互いの鼓動が聞こえるぐらいの距離。

こんなに近い距離は今までなかった。

「ゆ、雪……乃……?」

「し、翔……くん」

それは自然な流れのように、引き寄せられてるかのように俺と雪乃の距離がさらに縮まる。

その時だった。


——ガラッ——


「あ、あんたたち……な、な、何やって……」

扉を開けてくれたのは香凛だった。

俺は慌てて身体を起こして雪乃から離れる。

香凛は引きつった顔で俺をにらみつけたまま、黙り込んだ。

タイミングが悪すぎて猛烈に誤解されてしまった。雪乃とくっついてたなんて、どう説明すればいいんだ。

後で聞いた話によると、俺らが閉じ込められたのは、教師が扉を閉め忘れと勘違いして閉めてしまったかららしい。

俺達が帰ってこないのを不思議に思った香凛が、担任に話して発見……という事だ。


「な? そういうことなんだよ香凛。俺と雪乃は運悪く閉じ込められてただけで……」

これで説明はついたと思ったら、俺は香凛にぶ厚い辞書でどつかれた。

油断したぜ。っていうか、どっから持ってきたそれ?



————



午後は調理実習があった。

特別棟の調理室に2年D組の生徒が集まって、調理台ごとに、それぞれ四つのグループを作った。

俺と香凛は同じグループ。雪乃はちょうど逆方向の、離れたグループに居た。

昼間の体育倉庫の件があって以来、俺は香凛と一言も口を利いていない。

午後から調理実習だってことも忘れて俺は昼飯もしっかり食ってしまったし、どうも気乗りしない。

まあ、教室でまともに授業をやるよりは楽だ。
適当に作って、適当に味見しておけばいいよな。

さて材料を確認してみる。牛乳にじゃがいも、ブロッコリー……。

「シチューだよ」

香凛がボソッと言った。
スーパーのレジ袋から、玉ねぎや、鳥肉のパックを出している。

「シチュー、か」

俺は香凛が言ったままを、そのまま繰り返した。だってシチューっていったら——。

「昼休みにあたしらと香凛で材料を買ってきたんだよ、武田君」

香凛と仲の良い、ポニーテールで落ち着いた雰囲気の栗原(いい加減、名前覚えた)が言った。

「材料費さえ守れば、先生もメニューは変更していいって言ってたからさ。三人でマルエツ行って、その場で決めた」

これまた香凛と仲の良い、栗色ショートカットの森が言う。

二人とも身長は160ちょいだが、間にはさまれると、香凛だけ小さく見える。

ちなみにマルエツというのは近所のスーパーの名前で、昼休みに生徒が買物に行っても、意外と怒られることがない。

って、俺が気になったのはそれじゃなくて。

「香凛がシチューにしようっていうからさ、シチューにしたよ」

森が言う。

そうだ。シチューっていったら、香凛の得意料理じゃないか。