コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 幼なじみから恋人までの距離(29) ( No.53 )
- 日時: 2013/06/07 18:40
- 名前: あるゴマ ◆Dy0tsskLvY (ID: Ba9T.ag9)
「あ、あんたって、ニンジン苦手だったよね?」
香凛が驚いたような表情で俺に問いかける。
「あぁ、昔はな。けど、今は好きだぞ」
時の流れは味覚も変える。
子供の時は苦手だったものでも、大きくなったら食べられるってのはよくある話しだ。
「翔君はね〜、小学校までは、ニンジン残してばっかりだったんだけど、食べやすいように細かくしたら食べてくれるようになって……」
雪乃が嬉しそうに話しだす。
おいっ!! お前は俺の母さんか!? なぜそれを知ってる!?
「ってこの間、翔君のお母さんが言ってたんだ〜」
情報源ウチの母親かよ。ってかそんな会話までしてたのか。
「そう……」
香凛はうつむき加減で、力無く返事をした。
どうしたんだ?
「そうだ。香凛ちゃんが作った料理も食べさしてよ〜」
「……えっ、あぁ、別に良いけど」
なんとなく歯切れの悪い言葉で香凛は頷いた。
俺達の班の席に戻ると、香凛はシチューをよそって雪乃に手渡す。
「わぁ〜。美味しそうだね」
「……」
香凛は無言だったが、雪乃は、「いただきます」と言ってシチューを口にした。
「うん!! とっても美味しいよ〜」
そう言って、ほんわか笑顔で嬉しそうにする雪乃。
「……お世辞なんていらないわよ」
ポツリと、呟くような、とても小さい声で香凛は言った。
「お、お世辞じゃないよ〜。このシチュー本当に」
「ウソ!! 雪乃の方が料理断然上手いくせにっ!! 何それ? 同情してるの?」
雪乃が戸惑いながらも違うと言おうとしたが、香凛はそれがさらに頭にきたみたいだ。
「そ、そんな事、考えた事もないよ〜」
「そんな事、考えるまでもないって事? 雪乃は昔からそう。いっつも自分だけ良い子で、ううん、昔はまだ良かった。でも今の雪乃は見ててムカつくのよ!!」
そこまで言ったところで、止めに入る。
「おい、よせ。雪乃は悪くねーだろ? 何で怒ってるかわからないけど、それ以上はやめろ」
俺がそう言うと、香凛は下唇をギュッと噛みしめる。
「あんたもよ!! 私の気持ちなんてわからないくせに!! 偉そうにすんな!!」
目にうっすらと涙を溜めて、香凛はそれだけ言うと調理室を出ていってしまった。
残されたのは、重い空気と何があったかわからないようなクラスの視線。
「翔くん。私、香凛ちゃんを傷付けるような事したのかな?」
雪乃からはいつもの笑顔が消え失せていた。
「雪乃のせいじゃないさ。俺、ちょっと追いかけてくるよ」
「うん、ありがと。翔くん」
そう言って、俺は調理室を出ると香凛の後を追った。
「ったく、あいつどこ行ったんだ?」
調理室を出て香凛を探しまわるが、見つからない。
タイムラグはほとんどないはずだからまだ遠くには行ってないと思う。
一応、確認のため昇降口付近を探す。 下駄箱に靴があるところを見ると、まだ中に居るはずだ。
「はぁ、はぁ……」
走って息切れした呼吸をととのえながら考える。
考えてみれば、まだ授業中なんだから目立つ所には居ないだろう。
人が来なくて、目立たない場所——。
俺はある場所が思い浮かんだ。
そこは屋上だった。
扉を開けると、校庭を眺めている見慣れた人物の後姿が。
「……探したぞ」