コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

幼なじみから恋人までの距離(31) ( No.58 )
日時: 2013/06/13 18:51
名前: あるゴマ ◆Dy0tsskLvY (ID: Ba9T.ag9)

「香凛……」

「私、ただの幼なじみじゃ嫌だって。ずっとそう思ってたんだから」

そう言って香凛は顔を伏せる。どんな表情をしているのか、見えなくなった。

そして俺の横をすっと通り抜けて、そのまま歩いていく。

「でも私、雪乃みたいにはなれないから! あ、あんたへの気持ちはいちおう素直に言ったからね! 私はもう素直になれたんだから、明日からは私に構わないでいいよ!」

「おい香凛!」

俺は呼び止めようとした。
でも香凛は塔屋の扉を開け放ち、校舎内への階段を駆け下りていく。

走り去る香凛を見ながら、俺は呆然としていた。

言われた事に理解が追いつかない。
香凛が俺の事を……好き? その言葉はどこか夢の中での出来事のようだった。



調理室に戻ってみたが、香凛は居なかった。今日は早退という事になったらしい。

なんだかんだで授業中に抜け出したもんだから、川田先生には怒られてしまった。

「悪いな、片づけ任せちゃってて」

飛び出した後、栗原や森達は片づけをやってくれていた。俺は班のグループに謝りながら片づけに参加する。

「ん、いいけどさ。武田君、香凛の事ちゃんと見てやってね?」

栗原にそんな事を言われてどう反応していいか困っていると、森がフォローしてくる。

「こら、あんまり困らせる事言わないの。武田君はちゃんと分かってるよ」

そんな栗原や森の問いに、俺は曖昧な返事しかできなかった。


しばらくして、雪乃が居ない事に気づく。

「なぁ、雪乃知らないか?」

片づけが終わった俺は、雪乃の班の女子に話しかける。

「田村さん? 武田君が出てった後、田村さんも追いかけるように出てったんだけど、一緒じゃなかったの?」

「いや……会ってないな」

俺が行った後、雪乃も追いかけてきた?
でも、雪乃には会ってない。体調でも悪くなったんだろうか?

「す、すいません。ちょっと遅くなっちゃいました〜」

そんな事を考えていると、当の本人、雪乃が調理室に入ってきた。先生の所へ行き、謝っている。

俺はなんとなく気になって、雪乃が先生と話し終わるのを見計らい声をかけた。

「雪乃」

「あっ、翔君」

少し驚いた表情で俺を見返してくる雪乃。

「体調でも悪いのか? 俺が出た後に、雪乃も出たって聞いたから」

「ううん、平気だよ〜。ちょっと頭痛薬をもらいに保健室に行ってただけだし。それより香凛ちゃんはどうしたの?」

やはり体調が悪かったのだろう。雪乃の顔はさえない。

それでも気になっていたのか、香凛の事を聞いてきた。

「ん、あんま無理すんなよ。香凛は見つけたんだけど話す事はできなかったよ」

本当の事を、今そのまま雪乃に話す事はできなかった。

少し考える時間もほしい。

「……そっか」

雪乃は少しだけ寂しそうな表情をしていた。
やはり雪乃も香凛の事を心配しているだけに、複雑な心境なのだろう。

色々な事があった一日だったが、ようやく終わりをむかえた。



放課後。
茜色に染まる街の中を、俺は雪乃と歩いていた。

「翔くん家の今日の夕飯は何かな〜?」

「うーん、カレーじゃないか? 昨日母さん作ってたし」

いつものように他愛のない会話だが、今日はどこかぎこちない気がする。

「…………」
「…………」

結局それ以上会話は広がらず、自宅に着いた。

「じゃあ、また学校でな」

「あ、あの翔君!!」

帰ろうと玄関の扉に手をかけたところで、雪乃から声がかかる。

「ん? どうした?」

「明日、学校終わった後少し時間もらえないかな?」

少し思いつめたような顔。
雪乃のこんな表情はめったに見ないので、心配になってしまった。

「良いけど、何かあったのか?」

「うーん、明日話すよ」

そう言うと、雪乃は足早に帰ってしまった。