コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 幼なじみから恋人までの距離(32) ( No.59 )
- 日時: 2013/06/14 19:09
- 名前: あるゴマ ◆Dy0tsskLvY (ID: Ba9T.ag9)
自室に戻った俺はベッドに寝転がりながら、今日の出来事を考えていた。
考えるのは、香凛の事。
香凛が俺の事を好きだったなんて、正直思ってもみなかった。
そんな素振りも、雰囲気もなかったはずだ。
いや……俺が見逃していただけなんだろうか?
それに気づかないフリをしていただけ?
違う。
確かに前よりは話すようにはなった。けど、それは香凛の悩みを解決するため。
でも、それが違う理由だったとしたら?
本当の理由が違うとしたら?
それはどういう事を意味するのだろう?
「あぁーっ!! もうわけわかんねーな!!」
頭をかきながら、勢いよく寝返りをうつ。
大体あいつ何で泣いてんだよ……。
何であんな悲しそうな顔してたんだよ。
心の中はグチャグチャだ。
俺は、俺はどうしたいんだ?
そんな事を考えながら、俺の意識は闇に沈んでいった。
翌朝——。
俺は昇降口のところで香凛を見た。
気のせいだろうか。香凛はどことなく冷たい表情をしているように見えた。
昨日までなら気楽に声をかけられたものの、今朝はそれが難しく思えた。
「お、おはよ」
それでも俺は勇気を出して声をかけた。
香凛はピクリとも反応せず、履き替えた上履きのつまさきをトントンと鳴らして、
「おはよ」
こちらに目も合わせずに言って、歩き出していく。
その冷たい態度に、俺は思わず大きな声で呼び止めた。
「おい、香凛!」
「……なに? なにか用?」
他人を見るような、よそよそしい目だった。
「用って……俺はべつにそんな」
「そう。じゃあ私、先に行くから」
「待てって。用がなければ話しかけちゃいけないってもんでもないだろ?」
香凛が立ち止まった。しかし、振り向いたその表情は、やはり笑ってなどいなかった。
「契約終了なんだよ」
「は? どういうことだそれ?」
「私はもう素直になれたんだから、悩みはなくなったの。あんたがたまたま手帳を拾った件も、これで終了。あんたはもう私には構わないでいいんだよ」
言っていることの意味が、すぐには分からなかった。
香凛は素直になれた。
事のはじまりは、俺があいつの手帳を拾ったことにあったんだが、素直になれたら、俺とあいつの縁はもう切れたってことなのか?
契約終了っていうのは、そういう意味なのか?
「そんな……だってお前、昨日……」
言いかけたところで、後ろから聞き慣れた声がした。
「おはよう翔くん、香凛ちゃん」
元気よくあいさつをしてきた雪乃だった。
一方に笑顔の雪乃。一方に無表情な香凛。
俺は今日という日に、昨日までとは違った「発展」を期待していたんじゃなかったか。
そんな自分に気づいた。
しかし教室に行っても、授業が始まっても、休み時間になっても、香凛は俺のことなんか見てもくれなかった。
昨日の屋上でのことが、夢のような気がした。
俺を好きと言ってくれた香凛。本気の笑顔で、そう言ってくれた。
あれは夢なんかじゃない。
それなのに、今の香凛と俺は、まるでただのクラスメイトだ。
あいつが転校してきたばかりの頃と、何も変わらない。
いや、まだあの時の方がマシか。
憎まれ口をたたかれる事すら今はない。
そんな心のわだかまりを解消できないまま、俺の日常は過ぎていった。