コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

幼なじみから恋人までの距離(33) ( No.60 )
日時: 2013/06/15 18:44
名前: あるゴマ ◆Dy0tsskLvY (ID: Ba9T.ag9)

「翔君。一緒に帰ろ」

放課後になると、雪乃が話しかけてきた。

「ん? ……あぁ、帰るか」

「どうしたの? 今日は一日中ボーっとしてたみたいだね」

「そ、そうか?」

思わず聞き返してしまう。
自覚はあったけど、人に気づかれないようにはしてたつもりだから。

「うん。ずーっと見てるとわかるよ〜」

「ずっとて」

雪乃のおっとりボイスには救われている気がする。
たとえ冗談でも、小さな変化に気づいてくれる事は嬉しいと思う。

「じゃあ、帰るか」

「うん」

教室を出る際に、香凛をチラッと見たが、こちらに目を合わせる素振りすらなかった。


「そういえば、なんか話しがあるんだよな?」

「うん。結構大事な話しかな?」

いつもの帰り道を歩きながら、雪乃とそんな会話をする。
雪乃の口から大事な話しだなんて、一体なんだろう?

「ん〜、じゃあ、家寄ってく?」

「そうだね〜。外で話すより、その方が話しやすいかな」

どうせ家は近いのだし、公園とかに行って話すより良いだろう。お店とかだと落ち着いて話せないだろうしな。

「ただいま〜」

「お邪魔します」

家に着くが、妙に静かだ。母さん、買い物でも行ってるのかな?

「悪い、先に部屋行っててくれるか?」

「うん。了解だよ〜」

雪乃を先に部屋に行かせて、俺はリビングへと向かう。
テーブルには一枚のメモが置いてあった。

「えーっと、なになに」

【翔へ 久々にお父さんが、外食しようと言うので行ってきます。あんたは、昨日のカレーを食べてね。母より】

「あの夫婦……」

ちょっと待っててくれても良いじゃないか!! 何で俺だけカレーなの?
理不尽な書き置きに憤慨しながらも理由はわかったので、部屋に戻る事にした。


「悪い、待たせたな」

「ううん、全然平気だよ〜。お母さんどうしたの?」

さすがは雪乃。何も言ってないが、察してくれたらしい。

「あぁ、なんか父さんと一緒に外食だってさ。ちょっと待っててくれてもいいと思わないか?」

俺がそう言うと、雪乃は苦笑しながらもフォローしてくる。

「あはは、きっとお母さんもたまには二人で食事したかったんだよ〜」

「まっ、いいけどな。俺はその分自由にさせてもらうし」

冷蔵庫の高級ハム全部食べてやろうかっと本気で思ってしまった。あれ、贈り物だし、普段は絶対買わないんだよな。

「翔くん拗ねないでよ〜。私、ご飯作るよ?」

「拗ねてねーよ。いいんだよカレーあるし。それより、雪乃の話しってなんだよ?」

今日は夕飯作りに来てもらったわけじゃない。雪乃の話しを聞くために来てもらったのだ。

「あっ、うん。それなんだけど……」

途端に言いづらそうにする雪乃。よっぽど重要な事なんだろうか?

「言いにくい事なのか?」

「そう……だね。言いにくい事かな? とっても」

いつものほんわか笑顔が憂いをおびていく。

「あのね、翔君。香凛ちゃんと屋上で何があったか正直に言ってくれないかな?」

「へっ……? 何ってその、話しただろ?」

唐突にそんな事を言われて驚いてしまう。

しかし、雪乃は視線を逸らさず俺を見据えてきた。

「私ね、聞いちゃったんだ」

「何を?」

「香凛ちゃんが翔君の事を好きだって言ってた事」


その言葉を聞いた瞬間、ハンマーで頭を殴られた感覚に陥った。
聞かれてた……でも、俺は雪乃に嘘をついてしまった。

「盗み聞きするつもりはなかったんだ〜。翔君が出てった後、私も心配になって、屋上に行って、それで……」

「ごめん、雪乃。隠すつもりはなかったんだ。ただ、あんま人に言うような話しじゃないと思ってな……」

これは本当の気持ちだ。
告白された事を別の女の子に相談するなんて、そんな事をしたら正直気分は良くないだろう。

俺がそう言うと、雪乃は胸の前で両手を小さく振る。

「責めてるとか、そういうんじゃないんだよ〜。ただね……うん、私、嫌なんだ」

「な……何が?」

少し俯きながら雪乃はポツリ、ポツリと言葉を続ける。

「翔……君は、私も好きだから……香凛ちゃんに渡すのは……嫌」

「えっ……?」

俯いていた雪乃はゆっくりと顔をあげる。

すると、その眼には大粒の涙が溜まっていた。

「……ずるいよ……何で香凛ちゃんは、私の大切なものをいつも……」

「ゆ、雪乃……?」

頭が混乱して、目の前で起きている事は現実なのか、夢なのかよくわからなかった。

「……翔くん……大好きだよ……ずっと、ずっと……翔くんの事が好きだった……翔くんを取られるのは……嫌だよ」

そう言い終えると雪乃は、そっと俺の身体を抱きしめてきた。

あたたかな温もりと、雪乃の髪の甘い香りがする。


俺は何かを間違えたんだろうか……?
ちっぽけな俺には雪乃の想いにも、香凛の想いにも明確な答えを出す事すらできない。

気づくと黄昏に染まる街は、夜のとばりが落ちていた。