コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 幼なじみから恋人までの距離 ( No.69 )
- 日時: 2013/06/21 19:37
- 名前: あるゴマ ◆Dy0tsskLvY (ID: 7ZYwzC8K)
「翔くん、明日からゴールデンウィークだよね」
その日の午後、生物の授業のために教室移動をする途中、雪乃が言った。
今日の雪乃は、昼食は俺と一緒だったし、教室移動の時も俺の隣に居る。
「大型連休か。うちはどうせ、いつも通りだと思うよ。親は旅行に行って、俺は家に残るみたいな」
「翔くんは一緒に行かないの?」
「この歳になって家族で旅行ってのも微妙なんだよ。うちの親は仲がいいんだし、夫婦だけで旅行ってなれば逆に嬉しいんじゃないか」
「ふーん。そっか……」
生物の授業は、調理実習の時と同じ特別棟で行われる。普段授業をしている校舎から少し歩いたところにある別の校舎だ。
生物担当の先生は五分遅刻して現れるのがいつものことなので、実験室に着いた生徒たちは思い思いの席に座って雑談をしている。
ここでもやはり雪乃は俺の隣に座ってきた。一つの大きな机にたくさんの丸椅子を寄せて座るから、二人の距離はかなり近くなった。
俺が教科書を開いて、前回の授業でやった個所を探していると「96ページだよ」と雪乃がすぐ横から教えてくれた。
「お、ありがと」
俺はそのページを開き、机に両ひじを乗せた。
うん、見てもよく分からん。先生が来るのを待とう。
顔を上げると、一つ向こうの机に香凛の居るのが見えた。手前に座っている生徒に邪魔されて見えにくいが、その生徒と生徒の隙間からチラチラ、香凛が見え隠れしていた。
香凛の横にはいつものように、友人の栗原と森の姿があった。
香凛が屋上で俺に告白してくれたのは、まだ今週のことだったのに——。
あれ以来、香凛は俺とまともに口を利いてくれない。どうやら香凛の中では、俺に告白した時点で何かがふっ切れたらしい。決着でもついたかのように、さばさばしている。
あいつがそれで良くても、俺は良くない。
どうにか話しかけたいところだが、香凛の両サイドにはいつも栗原と森が居る。
それに、話しかけると言っても、何と声をかければいいんだ。「先日の、告白のことなんだけど……」とでも言えばいいのか? 自分からそんなこと言い出せるわけがない。
しかも最悪、今の香凛の雰囲気を見ていると、俺がそう言ったところで「は? なんのこと?」と返されてもおかしくない。栗原や森の見ている前で、思い切り恥をかきそうだ。
「翔くん、ゴールデンウィークなんだけどさ」
遠くの香凛を見ていたら、すぐ隣の雪乃の声が聞こえてきた。
「ああ、どうした?」
「お母さん達が居ないなら、私が夕飯を作りに行ってもいいかな?」
「え? あ、ああ。いいよ、もちろん」
俺がそう言うと、雪乃が嬉しそうにニッコリ笑う。
やっぱり雪乃は可愛いと思う。
性格は良いし、料理も上手いし、下手にテレビに出てるアイドルより、雪乃の方が全然可愛いと俺は思う。
こんな女の子が俺の隣に居てくれているのに——。
前を見ると、香凛はこっちなんか見もしないで、横の友達と喋っている。
手前に座る生徒が邪魔で、香凛の姿が見えなくなった。
俺は座ったまま上半身を横に動かして、生徒と生徒の隙間から香凛を見ようとする。
「その日の夕飯なんだけどさ、翔くん何か食べたいものある?」
横から雪乃の声がしていた。
「ああ。そうだな……」
俺は雪乃の方に顔を向けず、気の抜けた生返事しかできなかった。
「…………」
雪乃もそれっきり口をつぐんだ。やがて先生が来て生物の授業が始まった。