コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 幼なじみから恋人までの距離(37) ( No.76 )
- 日時: 2013/06/28 18:26
- 名前: あるゴマ ◆Dy0tsskLvY (ID: Ba9T.ag9)
世間はGWに入り、テレビでは観光地の混雑模様などを映し出していた。
空の色が茜色に染まる夕暮れ時。
昼と夜の中間、そんな曖昧な時間の中、俺は家で雪乃を待っていた。
雪乃が家に来るのを断ろうとしたが、今の雪乃は、触れたら壊れてしまいそうで、俺は首を横に振る事ができなかった。
「これで……良かったんだろうか?」
我ながら最低だと思う。
こうやって、中途半端に優しくすれば、余計に傷つけるだけだと思うから。
——でも、雪乃の悲しい表情を見たくない。
泣いて、苦しんでる姿なんて見たくない。
俺のエゴかもしれないけど、雪乃には笑っていてほしい。
たとえ、それが間違っていたとしても。
しばらくして、インターホンが鳴り、雪乃が俺の家へと来た。玄関へ行き、扉を開ける。
「お、お邪魔します」
少し緊張した声の雪乃。
「そんなにかしこまらなくて良いよ。ってか、普段通りでいいから」
我ながら無茶を言っている。逆の立場なら普段通りになんて、できやしない。
だけど、重苦しい雰囲気のままでは会話もないし、苦し紛れにそんな事を言ってみた。
「うん。……うん、そうだよね」
何かに納得したように、二度、三度と頷きながら呟く雪乃。
「ごめんね、翔くん。よーし!! 今日は翔くんの好きな物作っちゃうよ〜」
服の袖をまくるような仕草をして、明るくふるまう雪乃。
無理してる感じがバンバンするが、ここは俺も合わせて、暗い方向に考えないようにする。
「おう、今日は俺も手伝っちゃうぜ!!」
「あははっ!! よーし、じゃあ、ついてきたまえワトソン君」
「ははーっ!!」
大仰に頷いて、俺と雪乃はキッチンへ。
今日は父さんも母さんも旅行で出かけてるためか、いつもの家が少し広くて寂しく感じる。
「でも雪乃、何作るかわからないけど、買い出し行ってこないといけないんじゃないか?」
実際、冷蔵庫の中にはほとんど食材がない。
いくら雪乃が料理が上手いと言っても、食材がない事にはどうしようもない。
「ふふーん。安心したまえワトソン君。食材はもう買ってきてあるのだよ」
そう言って、雪乃はカバンとは別にエコバックに入った食材を出す。
って、その設定まだ続けるのか?
「……えへへ、今日は翔くんの家に行くから、あらかじめ買っておいたんだ」
俺のいぶかしむような視線から察したのか、話す前に答えが返ってきた。
雪乃の、はにかんだ笑顔。少しいつもの調子に戻ってきてるようだ。
「じゃあ、さっそくだけど、作り始めちゃうね。翔くんは座っていいよ〜」
「いやいや、俺も手伝うから。いつもやらせてばっかじゃ悪いしさ」
雪乃は口元に人差し指をあてて、「うーん」と考える。
「じゃあ、玉ねぎのみじん切りお願いしようかな〜」
「がってんだ!!」
俺は雪乃から玉ねぎを受け取り、皮をむいて、軽く水で洗ったあと、包丁でみじん切りにしていく。
「な、泣けるぜ」
みじん切りの途中で、目がツーンとし始め涙が出てくる。
それを見て、雪乃がクスクスと笑っていた。
「翔くん。玉ねぎのみじん切りは、こうやると早いし、涙も出ないよ〜」
雪乃は俺の横に来て、包丁で玉ねぎに縦の切り込みを数回入れる。そして、今度は横に数回切り込みを入れた。
「これで、あとはスライスしていくと……」
「おぉ!! すげー!! みじん切りになった!!」
俺のやり方より、数倍早く、さらに形がそろって綺麗なみじん切りができていた。しかも涙も出ない。
「えへへ、このやり方便利でしょ?」
「あぁ、すげーな雪乃。将来料理教室とかできるんじゃねぇか?」
素直に感心してしまう。
当の本人は、「そ、そんな大した事じゃないよ〜」などと言っているが、ろくに料理ができない俺にとっては、凄い事だった。
そんなこんなで、調理も終盤にさしかかったところで、雪乃がしまったという声をあげる。
「どうした?」
俺は使い終わった物を洗いながら、雪乃に尋ねる。
「サラダのドレッシングがないや……私、買ってくる」
そう言うと、自前のエプロンを外して、いそいそと支度をする雪乃。
「いや、俺が行くよ。雪乃が居ないと、料理できないし」
序盤こそ意気込んでいたが、中盤以降、逆に足を引っ張りはじめてしまったのでサポートに徹する事にしていたのだ。
「……でも、悪いよ〜」
「気にすんなって。すぐ買って戻ってくるから」
そう言って財布と携帯だけ持って、俺は外へと出た。