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Re: 幼なじみから恋人までの距離 ( No.77 )
日時: 2013/06/29 19:13
名前: あるゴマ ◆Dy0tsskLvY (ID: vysrM5Zy)

「あっしたー」

近くのコンビニまで来ると、俺はレジでゆず風味のノンオイルドレッシングを購入する。

店員さんの、はしょり言葉を聞きながら、「『ありがとうございました』ってちゃんと言えよ!」と心の中でツッコミながらコンビニを後にする。

すっかり夜のとばりが落ちた街を歩いていると、自宅近くから声がしてきた。

「ま、待って!!」

その声の先から、一匹の子犬が走ってきた。
リードをつけているから、飼い主とはぐれたんだろか?

俺はしゃがみこんで子犬を抱きとめる。

「よしよし。お前どっから来たんだ?」

顔を近づけると、すりよってくるように子犬が俺の顔をナメてきた。

「ははっ、くすぐったいだろ」

「す、すいません!! うちの子が迷惑を」

その声の先には見知った人物、香凛が居た。

息をきらせて走ってきたようで、額にはうっすら汗も見えた。

香凛の家は犬を飼っていないはずだが、どうしたんだろう?

小型の犬種みたいだが、犬に詳しくない俺は、名前がわからない。

少しお互いに沈黙した後、俺が声をかける。

「よ、よう」

「あぁ、なんだ……あんたか」

若干ぎこちない挨拶をする俺にたいして、香凛の返答は以前の俺達と変わらないものにみえた。

「その犬どうしたんだ?」

「雑種なんだけど可愛いでしょ? 知り合いからもらったんだ。初めて犬飼うんから、わからない事も多いんだけどね」

香凛はしゃがみこんで、俺から子犬を受け取ると、子犬の頭をゆっくりと撫でる。

そういえば、前にペットショップを見た時、飼いたいとか言ってたっけ?

「まぁ、生き物の事なら俺に任せろだ。なんたって小学生の頃、飼育係だった」

胸を張って言う俺だったが、香凛に鼻で笑われてしまう。

「何それ? 飼育係って言っても、ザリガニとかそんなんでしょ?」

「ち、ちげーよ!! ちゃんと、金魚とか飼育してたから」

うちの小学校は教室内に水槽が置いてあり、その中で金魚を飼っていた。
外にはうさぎとかも居たけど、俺の担当は、教室内の小さな生き物だった。

「あんまり変わらないじゃない。——っと、そろそろ帰らないと」

「あぁ、引き止めて悪かったな。気をつけて帰れよ」

「あんたもね」

そう言うと、香凛は犬を引き連れて帰っていった。

————

なんだかんだで遅くなってしまった俺は、少し駆け足で帰ってきた。
とは言え、もうかなり近くまで来ていたのでそんなに走る事はなかったけど。

ふと気づくと、玄関の扉の前に雪乃が立っていた。

「どうしたんだ? そんな所で」

「うーん、翔くんがあんまり遅いから心配になっちゃって」

そう言う雪乃の顔は、若干涙目だった。

「わ、悪い。遅くなっちゃって……と、とにかく、中入ろう」

玄関の扉を開けて、雪乃を中に入れる。

いつもの調子だったから少し安心してしまっていたけど、雪乃の中は不安でいっぱいなのかもしれない。
そんな事を気づけない自分に少々嫌気がさす。


リビングに着くと俺は雪乃に尋ねる。

「さてと、後は何やればいいんだ?」

「もうできてるよ〜。翔くん待ちだったから」

見ると、テーブルには綺麗に食器が並べられており、あとはご飯の盛り付けくらいだった。
雪乃はキッチンへ戻ると、できあがっていた物を温め直していた。

「わ、悪い。結局、任せっきりになっちゃったな」

「そんな事ないよ〜。洗い物やってくれて凄く助かっちゃったよ」

キッチンから顔だけこちらに向けて笑顔でそう言う雪乃。

準備が整ったところで、二人で作った(と言えるか微妙だが)夕食を食べはじめる。

今日のメニューは、ハンバーグにサラダ、味噌汁に厚焼き玉子と、和洋折衷なメニューだ。

「このハンバーグ美味いな。なんつーか肉汁が凄い」

「翔くんって、洋食好きだよね」

そう小さく笑いながら満足気な雪乃。

——もし、もしもだけど、俺に家族ができるならこんな感じの家族が良い。

ささやかだけど、あたたかい場所。

雪乃とならそんな家庭が作れるんじゃないか?


「……翔くん?」

「へっ?」

考え事をしてたせいか、雪乃が話していた事を聞いてなかったみたいだ。

「……えーっと、食べ終わったら、翔くんの……部屋……行きたいな」