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幼なじみから恋人までの距離(7) ( No.9 )
日時: 2013/04/30 19:42
名前: あるゴマ ◆Dy0tsskLvY (ID: Ba9T.ag9)

鬼ヶ島に行く桃太郎って怖くなかったんだろうか?

だってさ、家来が犬、猿、キジだよ?
鬼の金棒一振りで蹴散らされちゃうよ。

俺だったらもう少しマシな家来を連れてくね。
犬じゃなくて、ライオンとか、猿じゃなくて、グリズリーとか、キジじゃなくて、鷹とかさ。
これなら鬼相手でも、へっちゃらな気がする。


話しがそれた。

俺は今、香凛の家に来ている。
心情的にはここは鬼ヶ島。俺は丸腰の桃太郎。

香凛のお母さんとは、面識がある。

俺が香凛の忘れ物を届けにきたって言ったら、

「せっかくだから直接届けてあげて。その方があの子も喜ぶわ」

なんてとびきりのスマイルをくれて、部屋に通してくれた。

当の本人はというと、今入浴中らしい。

そんなわけで敵地に一人(まぁ敵じゃないけど)。

「…………」

なんとなくする事がなくて、部屋を見回してしまう。

もっと派手なピンクの色の物がいっぱいあるのかと思ってたけど、意外や意外シンプルな色合いが多かった。
白をベースにした部屋で、引っ越してきたばかりだからか、置かれている物は少ない。

その中で目を引いたのが、机の上にある写真。

俺の知らない中学時代に撮ったもののようだ。

写真の中の香凛は、いつものようなツンツンではなく、笑顔の可愛い普通の女の子だった。

「……いつもこうして笑ってりゃ可愛いのに」

そんな呟きをした瞬間に部屋のドアが開く。

——ガチャッ——


「…………!!」

「…………」

一瞬の沈黙の後、香凛と言う名の鬼が鋭い眼光で俺を睨みつける。

蛇に睨まれた蛙。
もとい、香凛に睨まれた俺。

「な、何であんたがここに居るのよ!?」

第一声は、嫌悪感と驚きが混じった声だった。

香凛のお母さん……せめて娘に友達来てるよって伝えておいて下さい。
余計な誤解で無実の男が死んでしまいます。

家の中の香凛は、白のラフなカットソーに、紺色の短パンという楽な格好だ。
風呂上がりという事もあり、しっとりと濡れた髪に、頬が若干赤く染まっていて、なんだか甘い香りがする。

だが、今はそれどころじゃない。

「うるせー。用があるから来たんだろ」

そう、俺は用があってここへ来たのだ。
いわば大義名分。
好き好んで鬼ヶ島に乗り込むほど俺は酔狂ではない。

「……用ってなによ?」

まだ不信感が拭えない顔で香凛は聞いてくる。

「お前、今日教室で何か忘れ物してないか?」

「はぁ? 忘れ物?」

「そう。結構重要な物」

少し考えるようにして、香凛はハッとした表情になる。

「ま、まさか……」

「そのまさかだ」

ハッタリです。

俺の言葉にあきらかに動揺し、急いでカバンを確認する香凛。

こりゃもうビンゴだな。

「も、もしかして中見たの……?」

「いやぁ〜、見るつもりはなかったんだけどな」

含むように言うと、香凛が焦り出す。

「ど……どこまで見たの?」

「さぁ〜、どこまでだろうな」

うん楽しい。

普段言い負かされてばっかりだから、もう少し遊んでみるか。


しばらくの沈黙の後。

「……何が目的?」

香凛は自分の胸を覆うような仕草して警戒する。

「ちょっと待て。何だその変質者に会ったような態度は」

これじゃまるで俺が悪者じゃないか。

「……その通りじゃない。弱味を握って、変な事しようと思ってたんでしょ」

風呂上がりの香凛は、ここでのぼせてしまったかのように顔を真っ赤にしてそんな事言う。

「んな訳あるか!!」

「じゃあ、何なのよ?」

「手帳を返しにきただけだ。その……中身を見たのは確かだけどチラッとしか見てないから、お前が心配するような事はないよ」

「……その、あんたが見たところは?」

「ん?」

「だから、あんたが見たとこは何て書いてあったの?」

「えーっと、同じような内容で……素直になりたいみたいな?」

書いてある文章は、ほとんど同じような内容だった。

要約すると素直になりたいって事だろう。


それを香凛に伝えると、香凛は顔を真っ赤にしてベッドへダイブ。

枕に顔をうずめてうなっている。

「……うーっ……うーっ……!!」

バタバタと両足をベッドに叩きつけながらの奇行。

うーん、病気?

とりあえず返す物は返したし、触らぬ香凛に祟りなしだ。

「……じゃあ、俺帰るからお大事にな」

そそくさと退散しようとすると、後ろから声がかかる。

「……ちょっと待ちなさいよ」

「何か用か?」

「……責任……取りなさいよね」

「は……?」

「私の手帳見たんだから、責任取りなさいよ」

かくして、俺は今までで最も厄介な事に首を突っ込む事になったのだった。