コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 幼なじみから恋人までの距離(終) ( No.93 )
- 日時: 2013/07/06 19:59
- 名前: あるゴマ ◆Dy0tsskLvY (ID: Ba9T.ag9)
よく晴れた、午後の澄み渡った空。
青空に浮かぶ雲を見つめながら、俺達は幼い頃に遊んだ思い出の公園のベンチに座っていた。
座っているベンチの近くに生えている木々が、夏の日差しを遮って、若干の涼しさを感じさせてくれる。
「しかし、あれだな。まさかこんな日が来るなんて思ってなかったよ」
俺は空を見上げながら、隣りに座る彼女に話しかけた。
すると彼女は、少し拗ねたような顔になり、俺に抗議の視線を向けてくる。
「じゃあ、あのとき断れば良かった? 『やっぱりあなたとは付き合えません!』って」
少し意地悪な口調で彼女はそんな事を言ってきた。
——俺の気持ちなんてわかってるくせに。
「そりゃ勘弁!! もうあんな思いはしたくない!!」
彼女の方に向き直ると、両手を合わせて拝むような体勢であやまる俺。
「なら、最初からそういう事言わないでよ。……不安になるじゃない」
彼女は少し俯き、声のトーンが落ちる。
「ねぇ? 覚えてる? 昔この公園で、よく遊んだよね」
「あぁ、覚えてるよ。日が落ちるまで夢中になって遊んだよな」
幼い頃、三人でよく遊んだ公園。
今考えたら、この公園で日が落ちるまで遊ぶなんて不可能に近いが、あの頃はどんな事も新鮮で、くだらない事でも三人で居たら凄く楽しかった。
「……小さい時さ、駅前に変なガチャガチャやりに行くって言って、もう夕方なのに行った事あったよね?」
「……ぐっ、そんな事もあったな」
俺的には忘れたいエピソードだ。
三人で公園で遊んだ後、駅前に当時流行っていた景品が入ったガチャガチャをやりに行き、その帰りに無謀にも知らない道から帰ろうと挑戦した結果、道に迷って親に大迷惑をかけるという黒歴史だ。
「その時にさ……」
「お〜〜〜い!!」
その時、公園の入り口から大きな声で俺達を呼びながら手を振り、走ってくる人物が居た。
「……はぁ、はぁ。……ご、ごめん、ちょっと遅れちゃった」
肩で息をしながら、苦しそうにしている。
「いいって。まだ、五分しか経ってないし」
俺がそう言うと、その人物は、首を横に小さく振る。
「五分でも、遅刻は遅刻だからね。おわびに何かおごるよ〜」
それだけ言うと、ひとりで先に歩き出してしまう。
あれだけ走ってきたのだから、少し休めばいいのに。
「……やれやれ。それで、何の話しだっけ?」
「……それで、迷子になっちゃって、不安で泣きやまない私に、ガチャガチャの景品の指輪くれたでしょ? 嬉しかった。翔が私を心配してくれて。あれ……今でもずっと大切に持ってるんだ」
「……香凛」
香凛は、プラスチックの指輪を、片手で俺に見せるように目の前に差し出した。
「あの時からずっと、私は翔が好き。離れていた四年の間にも、それは変わらなかったよ」
慈しむように玩具の指輪を両手で包み込んで、香凛は目を閉じる。
そんな香凛の肩をそっと抱き、俺は少しかがんで。
——香凛にキスをした。
「俺も……同じ気持ちだ」
「……翔」
「お〜〜い!! 早く行こうよ〜」
先に歩き出していた人物が、あまりに来ない俺達を心配して戻ってきた。
その声の主は雪乃。
あれから雪乃は、仲の良い幼なじみとして、友人として、俺達を祝福してくれた。
きっと、俺には想像もつかないくらいの葛藤があったんだと思う。
それでも、雪乃は俺達と幼なじみとして、友人として、そばに居る事を選んでくれた。
雪乃には、「ごめん」じゃなくて、「ありがとう」って言ってと言われた。
——だから、本当にありがとう雪乃。
「むむっ、翔くん聞いてるの〜?」
気づけば、俺の目の前に雪乃が居た。
「き、聞いてるって。悪かったよ」
「さっきから、香凛ちゃんと良いムードになって、イチャイチャしてたみたいだけど」
雪乃は、俺の顔に自分の顔近づけて、まじまじと見てくる。
ってか、近い、近いから!!
「雪乃、翔に顔近づけ過ぎ!! 翔もデレデレすんな!!」
「し、してねーよ!!」
香凛が真っ赤な顔で、俺と雪乃の間に割り込んでくる。
今日は三人で都内のショッピングモールに出かける予定だったが……。
「そんなに焦らなくても、翔くんを取ったりしないよ〜香凛ちゃん」
「雪乃は、翔にたいして、無意識のスキンシップが多いのよ!!」
これじゃ、延期かもな。
はぁっと、ため息をつきながらも、俺はその様子を微笑ましく見つめていた。
俺は忘れていたんだ。
冬の空の下で、香凛と幼い頃に約束した事を——。
今、やっと——。
「何やってんのよー!! 早く行くわよ!!」
「翔くん。置いてっちゃうよ〜」
いつの間にか公園の入口に移動していた二人が、俺を呼ぶ。
「ちょっ、置いてくなよ!!」
——思い出したから。
(おわり)