コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 恋桜 [Cherry Love] ( No.112 )
- 日時: 2013/07/22 11:50
- 名前: 華憐 (ID: xDap4eTO)
『おい、真奈』
この声…
『凜!』
私は先程男の子が去って行った方向とは反対のほうへと振り返る。
『さっきからそこで何ぼーっとしてんだよ。母さん、呼んでるぞ』
『う、うん。でもね、凜…』
『何だよ?』
『もしかすると、ここにあの子が戻ってくるかもしれないから私、ここで待っていたいの』
『あの子?誰のことだ?』
『ほら、いつも私が一緒に遊んでた男の子!』
『俺が留守の時に一緒に遊んでた奴のことか。どっか行ったのか?』
『うん、遠くに…』
『それならもうここには戻ってこねーよ。それじゃあ、行くぞ』
『ま、待って…!』
私の声に耳を傾けようともせず、凜は従順に私の母が言っていたことを守ろうとした。
私を連れて帰ってきて、という命令に。
それを守るには、頑固にその場に留まろうとする私を引き摺って行かなければならない。
そのためには…手を握って引っ張っていくのが一番だった。
『放して!放してよ!凜!お願い!』
『駄目だ。俺は真奈を守らなくちゃいけないんだ』
『でも、あの子があの子が戻って…』
私がまだそんなことを言っていると、凜が急に立ち止まって振り返った。
『もうあいつは戻ってこない』
凜はそう言った。
その時の絶望を私は忘れることはないはずだった。
でも、あまりにもショックを受け過ぎた。
だからそんな悲しい記憶は葬りさろうとしたんだ。
でも、完全に葬ることはできなかった。
私に”手を握られることが嫌”という拒否反応を残してしまったのだ。
『…俺だって辛いよ。真奈が泣いてる顔を見るのは』
凜は吐き捨てるように言うと、私を家まで連れて行った。
それからの私は激変した。
凜と遊ぶのも楽しかったが、それと同じくらいあの子と遊ぶのも楽しかった。
それが忘れられなくてただ物思いにふけるばかりになってしまった。
たくさんの友達に一緒に遊ぼうと誘われたけれど、そんな気にはなれなくてすべて断っていた。
また、凜に言われた”もうあいつは戻ってこない”という言葉が胸に突き刺さり、人と会話できるような気分ではなかった。
そしてそうするうちにどんどん月日だけは流れ、いつの間にか私が昔のように喋れる友達は凜だけとなっていた。
もうその頃には、そんな過去の思い出はほとんど抜け落ちており、ただ”手を握られるのが嫌””初めは人と話すのが苦手”というものだけが私のなかで認識されているだけとなっていた。
——そして今。偶然が偶然を呼び、私の記憶は呼び覚まされた。
何かの前触れを知らせているのではないかと思えるほどに。
- Re: 恋桜 [Cherry Love] ( No.113 )
- 日時: 2013/07/22 12:12
- 名前: 華憐 (ID: xDap4eTO)
「どうした真奈?」
急に立ち止まった私を変に思ったのか、凜が掴んでいた手を放してこちらへ振り返る。
そして、私の頬を伝う大粒の涙を見て動揺した。
「ま、真奈!どうしたん、だ?」
「凜…」
私は涙を堪えることができずに凜の胸へと飛び込んだ。
凜はただ驚くばかりだ。
「凜、ありがとう…。そしてごめんね」
私はそう呟くと、凜は力一杯私を抱きしめた。
いつだってそんな変わってしまった私を守ってくれたのは凜だった。
小学生の頃はそれが当たり前すぎて気づけなかった。
記憶を思い出した今、やっと凜にお礼を言えるんだ。そして謝罪も。
「何があったのか俺にはよくわかんねーが、取り敢えずありがたく受け取っとく」
そう言って、凜は私を抱きしめる手を緩めた。
私は凜の腕から抜け出て
「うん」
と満面の笑みで頷いた。
凜の頬が赤いのはきっとこんな目立つところで私が抱きついたりなんかしたからだね。
ごめんね。
「それじゃあ、行きましょう!」
私が元気よく言うと、逢坂くんは不機嫌そうに。凜はまだ頬を赤らめながら。美樹は事情を説明しなさいと目で訴えながら「おー」と言った。
——バス内にて。
「皆さん、国際通りは楽しめましたか?国際通りというのはですね…」
バスガイドさんの長い話がまた始まった。
「ねぇ、真奈。さっきのどういうことか説明してよね」
美樹がそう言いながら私に詰め寄る。
そうでした…。美樹は凜のことが好きだったんだよね。
私、なんてことしちゃったんだろう…。
一人で頭を抱えていると、美樹が可笑しそうに言った。
「そこを聞いてるんじゃないわ。いや、そこを聞いてるんだけど…とにかくやましいことがなかったかを聞きたいの」
「それ、嫉妬?」
「…真奈ちゃん?」
美樹に満面の笑みでそう呼ばれると、口答えはできない。
「はい、美樹さん。今すぐに話します!」
私はそう言って話そうとしたものの、右隣から暗いオーラを放った視線を感じたので筆談で説明することにした。
そして、ようやく説明が終わるころに、バスが那覇空港に到着した。
「なるほどね!真奈ってば本当、少女漫画の主人公なんだから〜。そのうち、その”あの子”ってやらが真奈の前に現れるかもよ〜」
冗談めかして美樹は言う。
私も「かもね〜」なんて笑顔で言ってるけど、どうしても冗談のようには思えなかった。
あの子が私の目の前に現れるような気がするのだ。
なぜなら…近々催される体育祭の開催日辺りであの約束から10年経つことになるのだから。