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Re: 恋桜 [Cherry Love] ( No.128 )
日時: 2013/07/26 21:28
名前: 華憐 (ID: xDap4eTO)

*徹side*

本当に楽しい時間だった。

俺があんなことを言い出す前までは……。


”驚き”と”焦り”

これは同時に混在するものだと今更気づいた。

目の前で消えた青いかき氷。

必死な様子の凜の横顔。

唖然とする綾川さん。

そして終始無表情だった美樹。

驚きを隠せない自分。

——何もかもが初めての感覚だった。

友情を失う怖さ。
好きな人・恋心を傷つけてしまった罪悪感。
自分自身の恋愛に対する焦燥感。

——ああ、全てを忘れたい。過去に戻ってやり直したい。

しかしそうは言っていても仕方ない。2人となった今は遊べるような気分でもない。取り敢えず綾川さんを家まで送ろう。そう心に決め、落ち込んでいる綾川さんを慰めようとした。しかし、それが逆に彼女の逆鱗に触れてしまったようだった。

『違う。…いつだって皆そう言うの。綾川さんは悪くないって、僕が悪いんだって。でも、そんなの出任せだわ。私を傷つけないようにしているだけなの。本当は自分だって傷付いてるくせに。皆…優しすぎるのよ』

——知らなかった。
俺の知らないところでこんなにも彼女が傷ついていただなんて。

——知らなかった。
凜をこんなにも彼女が大切にしていたなんて。

——知らなかった。
自分がこんなにも弱いものだったなんて。

走り去っていく彼女の後姿をただ見送ることしかできなかった。彼女にも考える時間が必要だ。そうも思った。でもそれはただの言い訳。自分の足が彼女を追いかけられなかったことに対する言い訳だ。

「本当俺って情けないなあ」

俺は自分の掌を見詰めながら脱衣所へと向かい、彼女を待っておこうと思い、早めに着替えた。そして外に出て建物の陰で体を休めながらプールのほうを見ていた。しかし1時間待っても2時間待っても彼女が玄関に姿を現すことはなかった。どうやら先に帰ってしまったらしい。そう認識したのは待ち始めて3時間後のことだった。