コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 恋桜 [Cherry Love] ( No.134 )
日時: 2013/07/30 07:43
名前: 華憐 (ID: xDap4eTO)

私と凜が出会ったのは幼稚園の入園式だった。

『…終わります。皆さん立ってくださ〜い』

マイク越しに誰かの声が聞こえる。確か園長先生のはずだ。

『これにて入園式を閉式とさせていただきます』

こうして入園式は終わった。当時の私は入園式とは一体何なのかよくわからなかったので、大変つまらないものだった。

「真奈?ちょっとお外で遊んで来て?母さん、ちょっとここの人とお話しなくちゃいけないの」
「うん!分かった!」

私は頷くとすぐに、母の言う通りにグラウンドへと出た。今思えば大変小さなグラウンドだったが、当時はとてつもなく大きく見えた。

「うわ〜!」

私は目をキラキラ輝かせながらたくさんの遊具を見ていると、1つ目に留まったものがあった。それはブランコだった。

「あれ、楽しそう…」

そう呟くとブランコに吸い込まれるようにそこへ向かった。すると、片方は私より前に来ていた女の子が乗っていたので、もう片方に手を伸ばし、鎖をつかんだ途端誰かの手と重なった。振り向くと男の子が私と同じ体制で立っていた。そう、それが——凜だったのだ。

「あ、ごめん!」

私は慌てて手を引っ込めたが、その男の子は無表情のまま

「ん、やるよ。俺、べつにいーし」

と言って、私にブランコの鎖を押し付けて去って行ってしまった。私はお礼を明日言おうと決めて、そのブランコを楽しんだ。

——翌日

昨日私にブランコを譲ってくれた男の子を捜しだし、お礼を言った。そしてそれと同時に名前を聞いた。

「昨日はありがとう」
「別に大したことじゃねーし」
「ううん、ありがとう。あの、あなたの名前は?」
「俺は浅井凜だ。お前は?」
「私は綾川真奈!よろしくね!」

私は笑顔を浮かべて手を差し出した。彼もその手をおずおずと握った。

「ねぇ、凜はどこに住んでるの?」
「俺?あの桜並木の近くだよ」
「嘘!?私も同じ!近いかもね!」
「…実は俺、昨日お前見た。入園式の後」
「そうだったの!?私、全然気づかなかった!」
「そりゃそうだろうな。俺の家とお前の家、5・6軒遠かったし」
「5・6軒?」
「お前そんなのも知らねーのか」

当時から物知りだった凜はそう言ってよく私に自慢したものだ。今ではそんなことは全くない。

「それじゃあ、今日一緒に遊ぼうよ!」
「今日?」
「…駄目?」
「いや、駄目じゃないんだけど…その、俺、女子と遊んだこととか無いから」
「大丈夫!遊ぼう!」

こうして私はその日一緒に凜と遊び、意外と気が合うことが分かった。それからというもの、毎日、日が暮れるまで凜と遊んだ。そしてその遊び場が……あの桜並木だったのだ。

Re: 恋桜 [Cherry Love] ( No.135 )
日時: 2013/07/30 13:44
名前: 華憐 (ID: xDap4eTO)

私は凜との出会いを思い出しながら桜並木を目指して走り続けた。そしてようやく辿り着き、息を整えるために一度目を瞑った。そして、スッと息を吸い込んでゆっくりと目を開けた。私がいる場所から数メートル先に見慣れた人影が立っていた。

「凜…」
「やっぱり、お前ここに来たな」
「始めからここに来ること予想してたの?」
「まあな」
「全く敵わないなあ」

私は小さく笑った。

「なあ」
「…何?」
「そんな強張った顔すんなよ」

そう言って笑う凜。私はただ何もせずにそれを見る。

「分かったよ。話すって。…だいたいのことは徹から聞いてるだろうけど、やっぱり俺の性分としてさ自分で言おうと思ってな。本当はもっとずっと先の予定だったんだが…」

凜は一間置いて言った。

「ずっと前から好きでした。俺と付き合ってください」

そう言い終えた後、切なげに私を見つめる凜。私はそんな彼の目を見つめられなくなって目を逸らした途端、凜が私に駆け寄り、強く抱きしめた。

「凜、私は…」
「お前の答えなんて分かりきってる。でも…せめて今くらいは俺を見てくれ。俺だけを…見てくれ」

そう切なげに、涙を堪えたようなかすれた声でつぶやく彼。私は抵抗する気も元々無かったのでそのままの状態で言葉を紡いだ。

「凜。私はね…逢坂くんからこの話を聞いた時に、本当に嬉しかったの」
「え…?」
「だっていつも一緒にいたあのモテモテの凜に好かれるんだよ?そんなの嬉しいに決まってるじゃん」
「だったら…」
「でも、私は気付いてしまったの。この気持ちに。逢坂くんへの気持ちに。私の気持ちに嘘を吐くことは出来ない」
「俺は嘘でもお前が隣に居れくれれば…」
「そんなわけない!私が凜の立場なら、嘘だとわかっているのに彼女のふりをしてほしくない。そんなのでまかせだよ」
「でも俺は!」
「だから凜…私は凜とは付き合えない。ごめんなさい」

私は静かにそう言い終えると、凜の腕からするりとすり抜けた。そして凜と距離を少し置いて向かい合って立った。

「でも凜。私は凜のことが大好きだよ!お兄ちゃんみたいだし…こんなことを言うのはおこがましいのかもしれない。でも私は…ずっと今までの関係でいたいの」

私が今日一番の笑顔を浮かべながら言うと、凜はひとつ溜め息を吐いて笑った。

「わかったよ。そんなに言うなら幼馴染のまんまでいてやるよ。だけど…」

そう言ってまた私との距離を詰める凜。
今度こそ腕には捕まらない…。
と思い、避けようとしたが予想外の場所を引き寄せられた。なんと頭を彼の胸板の方へと引き寄せられたのだ。そしてそのまま額にキスが落とされた。

「徹にふられたら俺が迎えに来るからな」

そう言うと、彼はふっと腕の力を弱め、私に背を向けて歩き始めた。そんな彼の背中を私は見つめていた。
そしてふと言わなければならないと思い出した言葉があった。

「ね、ねえ!凜!」
「何だ?」

凜は首だけをこちらへ向ける。私はあの頃と同じように彼の目を見つめながら言う。

「ありがとう」

——ありがとう。こんな私を好きになってくれて。

——ありがとう。それでもなお迎えに来ると言ってくれて。

——ありがとう。私と出会ってくれて。

たくさんの感謝の思いを胸に、新たな一歩を踏み出そう。