コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 恋桜 [Cherry Love] 迫る約束の時… ( No.161 )
- 日時: 2013/08/18 18:21
- 名前: 華憐 (ID: SUkZz.Kh)
——木曜日の放課後
ようやく形になってきた看板はあと数時間手を加えれば終わりというところまで来た。物凄い速さだ。金曜日には完成するだろう。
「よし、今日はこれで終わろう」
逢坂くんのその掛け声とともに立ち上がり、片付けの作業に入る。もう手慣れたものだ。ペンキを使っているせいで、常に喚起をしてなくてはならず、2人ともバケツの水を被ったように汗で濡れていたがそれも最早お馴染みの光景となっていた。まあ、透けて見える逢坂くんの上半身にドキドキしないわけじゃないんだけど。
「こんなもの、かな?」
2人で協力して看板を教室の後ろに立てかけた後、鞄を持ち上げ昇降口へと向かった。
「いやー、もう終わっちゃうね」
逢坂くんのその言葉に戸惑う。8月が終わると言っているのか、それとも看板製作が終了してしまうと言っているのか……。
「ああ、勿論看板の方ね?」
急に黙り込んだ私を不思議に思ってか、私の心情を読み取った逢坂くん。その読み取りの正確さに少々驚きつつも私は言葉を紡いでいった。そしてそうこうしているうちにあっという間に私の家の前に到着。
「もう、お別れだね」
私はそう呟いた後に慌てた。私、逢坂くんの彼女でも何でもないのに!なんてこと言っちゃったんだろう?図々しいにも程があるでしょ!と心の中で突っ込んでいると、逢坂くんは優しく微笑んでくれた。
「本当だね。俺も寂しいよ。その……」
そう言って、逢坂くんは口元を右手で覆い隠してなぜか俯いた。既に日が沈んでいるため、彼の表情を読み取ることはできない。
「俺は看板製作の時間がもっと長く続けばなって思ってるよ。そ、それじゃあ!」
それだけの言葉を残して走り去っていった逢坂くん。私は彼の言っている意味を理解できないでいた。まさか、冗談よね?絶対誰かに言えと示唆されてたんだよ。うん、そうよ。自惚れちゃだめよ?私。と震える足をなんとか動かしながら家の中へと入って行った。
——カチャ
扉の開く音共にリビングからスリッパの音がバタバタと聞こえる。どうやら今日は母のほうが早く帰っていたらしい。初日以外はすべて母に連絡してあるので、さほど心配した様子はなかった。
「おかえり!もうご飯出来てるわよ?一緒に食べましょ」
母は上機嫌な様子でそう言う。きっと何かあったのだと私は思いながらも今は口に出さなかった。素直に靴を脱いで、自室へ行き、ルームウェアに着替えて食卓に着いた。
「ほら、今日は天ぷらよ〜?じゃんじゃか食べて」
母はこれもまた上機嫌な様子で私に揚げたての天ぷらを勧める。私は苦笑いしながら、一通り食べた後、母への質問へと移行した。
「ねえ、母さん?」
「ん?どうしたの?」
「今日、機嫌良いね?」
「嘘!?ばれちゃった?」
「うん。ばればれ」
「そっか。話しちゃうね。実はね……明日お父さんが帰ってくるんだって!」
母は胸の前で手を合わせながらうっとりしながらそう言う。そういえば私も、凜との事件から1週間後の朝に、父が丁寧に洗ったであろう皿しか見ていない。とうとう2週間ほどの実務を終えて帰ってくるのか。
「どうやらね、クロアチアとの外交だったみたいなんだけど、予定より円滑に事が進んだみたいでね?早く帰ってこれるようになたんだって」
実は私の父は外務省に勤める外交官なのだ。所謂エリートという位置づけになるわけだが、貴族のような生活を母は好まなかった。普通の生活がしたいとのことで、一般家庭と同じくらいの大きさの家に住むことになったのだ。外務省のほうは、何かあれば危険だからと言って、何かと執事やら家政婦やらをつけたがったが、家に居られるのだけは勘弁と言って、隣の家に住んでもらうことになった。こうして今の私の生活があるのである。つまり、こう見えても私は真奈お嬢様だったりするわけだ。学校の皆も教職員も誰一人として気が付いていないが。
「そうなんだ!よかったね〜」
「ほんとよ〜!明日は豪華にしなくちゃね」
そう言って台所の奥へと消えて行った母。そんな母をいつまでたっても可愛いらしい人だと思いながら微笑ましく見る私だった。
- Re: 恋桜 [Cherry Love] 迫る約束の時… ( No.162 )
- 日時: 2013/08/19 07:51
- 名前: 華憐 (ID: SUkZz.Kh)
——金曜日
昨日より一層ご機嫌の母に見送られ、学校へ登校。いつも通り授業を受けて、美樹や優那、涼香と他愛もない話をする。放課後になると、逢坂くんと一緒に看板制作を行った。
「……で、出来た!!」
私が立ち上がりながらそう叫ぶと、逢坂くんも嬉しそうに微笑みながら
「完成だね」
と言った。
「ここまでたどり着くのに4日かあ〜。逢坂くん、ここまで一緒に作業してくれてありがとう!」
私は4日分のお礼をするために、深くお辞儀する。すると、逢坂くんは慌てて私と同じようにお辞儀した。
「そんなことないよ。俺だって楽しかったし、お礼を言うのはこっちだよ」
そしてしばらくそのままの状態を保っていると、その沈黙が何だか可笑しく感じて、互いに笑い合った。そして、十分に笑いあった後は、看板が出来たことをえーちゃんに報告し、看板の出来栄えを見てもらった。
「おお〜〜!!凄い凄い!こんなに派手なの初めて見たよ!」
「あ、派手なの駄目でしたか?」
私は少し肩を落としながら言うと、えーちゃんはにこにこしながら言った。
「違うわよ!あたしが言ってるのはそういうことじゃなくて!桜田高校にも新しい風が吹いたってこと!」
私はその言葉を聞いて、えーちゃんの顔をまじまじと見つめた。そして、えーちゃんが真剣に見つめ返してくるのを見て、改めてその言葉が嘘ではないことを知った。
「本当ですか!?嬉しいです!!」
私は飛び跳ねながら喜びを露わにすると、えーちゃんも逢坂くんも微笑んだ。その笑みが、可笑しくて笑ったのか、微笑ましくて笑ったのか、それとも他意があったのかは分からないが、取り敢えずプラスのイメージと言うことで捉えておこう。
「それじゃあ、この看板は月曜日のLHRでお披露目ね。はい、それじゃあご苦労さん。暗くなる前に帰りなさい」
「はーい」
「はい」
こうして校舎を後にした私達。今日はそこまで暗くはないが、逢坂くんに送ってもらい、胸いっぱいの気持ちで玄関の扉を開けた。すると、久しぶりの男物の靴がきちんと揃えて並べてあるのが目に飛び込んできた。間違いなく……父だ!!私はそうとわかれば、ローファーを脱ぎ捨て、スリッパに履き替えると、急いでリビングに直行した。そして扉を開け放った瞬間に、まだスーツ姿の父がソファで横になっているのが見えた。
「父さん!お帰り!」
私はそう言いながら、父の首に抱きつく。しかし父は寝ころんでいる身。私に首に抱きつかれると、酷い目に合うわけで……。
「うぐっ」
エリートらしからなる、低い呻き声の後に下から私を睨みあげる父。しかし私はそんなのお構いなしで話を続ける。
「クロアチアはどうだった?この間、EUに入った国でしょ?すっごいリゾート地なんだってね。私も行きたかったな〜」
私がうっとりしながらそう言うと、父からの一声が。
「真奈、どけ」
「はい」
私はそう強く命令口調で言われると逆らえない。なぜかは分からないが、昔からの性質なのだ。性質と言えばなんだか変なのだが。
「賢司くん」
「ああ、菜々」
台所から豪勢な食事を運んでくる母。本当に幸せそうだ。聞いたところによると、某有名海外大学のサークルで2人は出会ったとか。現在、母は43歳。父は45歳である。
「今日は賢司くんが好きなものを用意したのよ〜」
「おお、本当だな。上手そうだ。……真奈、いつまで制服でいるつもりだ」
「父さんだって同じじゃない」
「何言ってるんだ、俺は……」
そう言って、自分の服装に目を落とした父。目に飛び込んできたスーツ姿の自分に何度も自分の目を擦っている父の姿があまりにも滑稽で母と2人で笑い転げた。そしてそんなこんなで、私と父はルームウェアに着替え、食卓に着いた。久しぶりに家族全員揃って囲む食事はとても美味しかったし、楽しかった。母の腕が良いというのもあるけれど、やはり一番は場の雰囲気だ。いつだって母の料理をまずいと思ったことはないが、これほどまでに美味しいと思うことはあまりない。何かが欠けている感じがするのだ。それがまさに父であるわけだが。
「真奈、学校の方はどうだ?」
「すっごく楽しいよ?親友も出来たし、あと3週間もすれば体育祭が始まるの!父さんはいつまで日本に?」
「そうだなあ。俺は、2週間後には北京へ行かなくちゃいけないんだ。あの煩い奴らに呼び出されてな。まったく、昔のよき中国に戻ってほしいものだ。なぜあんなに利己的になったのか……。理解できん」
「まあまあ、賢司くん。落ち着いて」
母が宥める。
「そっかあ。父さん、私の学校には来れないんだね……」
「すまんな、真奈。毎回行ってやれなくて」
父が眉尻を下げて申し訳なさそうに言う。私はこの時決まって微笑むことにしている。父に余計な心配を掛けて、仕事に支障が出ないようにと。
「大丈夫よ、父さん。あと2年は桜田高校にいるんだから」
「そうか、それならよかった。文化祭、行けたら出席するよ」
「うん!」
私はその言葉に胸を膨らませながら、その後の食事を楽しんだ。そして、風呂に入り、自室に戻った後、ふと亮さんの顔が思い浮かんだ。そして、水曜日からずっと触れていない、あのメモ書きをカバンの中から探り当てた。丁寧な綺麗な字で書かれたそのメモには”逢坂亮”の文字と、彼の電話番号とメールアドレス、そしてご丁寧に、LINEのIDまで書かれていた。これは連絡しないとダメな気がしてきた。もう既に約3日経っているわけだけど……まあ、いいよね。私はそう思い、スマホに手を伸ばした。するとその瞬間に、徹くんの言葉を思い出して、取り敢えずLINEだけということにした。LINEでID検索をすると、すぐに見つかった。そして友達登録をして、トークルームで話しかける。
”こんばんは”
”お久しぶりです”
”綾川真奈です”
”3日程、音沙汰なしですみません(・・;)”
私はこれだけ打ち、暫くしても既読のメッセージが付かなかったので、これ以上待っても無駄だと判断し、その日は眠りについた。
- Re: 恋桜 [Cherry Love] 迫る約束の時… ( No.163 )
- 日時: 2013/08/19 09:29
- 名前: 華憐 (ID: SUkZz.Kh)
土曜日になった。朝起きると、スマホで時間を確認。
「7時……17分か」
私はそのままスマホをスタンバイ状態に落そうかと思ったが、LINEからの連絡があったことに気付く。桜田高校生限定のトークルームからの連絡や、優那、涼香、そして美樹とのトークルーム、そして……亮さんからの連絡だった。私は真っ先に、学校のトークのほうを確認し、その後、美樹たちの会話の様子を楽しく拝見する。そして、最後に緊張しながら、亮さんとのトークルームを閲覧した。
”やあ、おはよう”
”うーん、おはようというのかな?もう3時だし……”
”まあいっか”
”知ってると思うけど、僕は逢坂亮だよ”
”いつも弟がお世話になってるね”
”ありがとう”
案外普通の返信に安心しながら、私も”普通”の返信をする。
”いえ、そんなことありませんよ!”
”寧ろ私のほうが徹くんにお世話になってるくらいですから”
よし、これで大丈夫と思い、立ち上がった瞬間にLINEからの連絡が。今回はちょうど亮さんと起きてるタイミングが合ったらしい。って、亮さん、睡眠時間3時間ほどしかないんじゃ……。
”あはは、本当真奈ちゃんはいい子だね”
”ところで、桜田の体育祭っていつなんだい?”
”弟が頑なに口を開こうとしなくて”
どうして逢坂くん、お兄さんに教えてあげないのだろう?と変に思いながらも答える。
”9月19日の木曜日ですよ♪”
”その日ってお月見じゃ……?”
”そうですよ〜。皆で体育祭が終わった後、お月見するのが伝統なんだそうです”
”へえ、いいね。泉橙にはそんなのないよ”
”そうなんですか。普通に体育祭を楽しむ、みたいな感じですか?”
”うん、まあ、そんなところだね。告白大会とかあるんだけどね笑”
”こ、告白大会ですか……”
”そうなんだよ。先生が面白がってね”
”先生駄目じゃないですか”
”まあね”
こんな感じで中々スムーズに会話が流れていく。
”ちなみに泉橙はいつ体育祭なんですか?”
”んー?”
”10月の中旬だよ”
”そうなんですか”
”でも、それくらいのほうが涼しくていいですよね”
”そうだね。9月といえば残暑だもんね”
こうしてあれこれしているうちにあっという間に8時になりそうだ。
”すみません”
”え?急にどうしたの?”
”まだ朝ご飯食べてなくて……”
”ああ、そういうことか。全然いいよ。早く食べてきなよ”
”ありがとうございます”
”なんか僕が悪いことしちゃったのかと思ってしまったよ”
”そんなことないですよ!”
”では、食べてきます”
私はそう打つと、スマホを机上に置いて、階下へと降りて行った。
——そして時は流れ、9月19日。あっという間に当日を迎えた。
今日だけは特別に、体操服での登校が許されるが、皆それはダサいと言って、制服で登校する。そして、一昨日から線引き等々、色々な準備をしたグラウンドに集まり、開会式宣言を。そして、それが終われば、すぐに各種目へと移行する。ちなみに色分けは赤・青・水・黄・黄緑・白だ。これは、学年ごとではなく、クラスごとで縦向きに割り振られる。私達1-Bを例に挙げて説明すると、1-B、2-B、3-Bで青チームとなるのだ。そして大分前に説明したようにこのチームの色は1年生が毎年決めれるようになっている。
「おっしゃ、1年生2年生!皆で円陣組むぞ〜」
3年生の女の先輩がそう掛け声を掛ける。私達後輩は「はい!」と一様に返事すると、適当に隣の人と肩を組み合って、先輩後輩関係なく円陣を組んだ。それはまあ、大きな円陣なわけで、他チームに迷惑そうな顔を向けられたがそんなのお構いなしだ。
「青チーム、絶対優勝するぞ!」
「おー!!」
総勢120人くらいの声が一斉にグラウンドに響き渡る。その声に驚いてか、他チームが一斉にこちらを振り返る。そしてどこか恨めしそうに私達を見た後、次々に他チームも円陣を組だし、掛け声を掛け合った。
既に——戦いは始まっている。
- Re: 恋桜 [Cherry Love] 体育祭で大波乱の予感!? ( No.164 )
- 日時: 2013/08/19 09:56
- 名前: 華憐 (ID: SUkZz.Kh)
円陣を最初に組んだだけあって、私達青チームはかなり強かった。午前の部は負けなしだった。50メートル走、100メートル走、各学年ごとの男女別400メートルリレー、玉入れ、綱引きの種目ではすべて1位を獲った。まさに首位独走状態だ。ちなみに私は400メートルリレーに出た。これは一応代表選手が選ばれ、その4人で計1600メートルを走るというものだ。選ばれた限りは責務を果たさなければならない。私はそう思いながら、アンカーの襷を肩から下げた。そしてテイクオーバーゾーンが始まるラインから中腹辺りで待ち構える。前走者を信じて後ろは振り向かない。
タッタッタッタ……
段々リズムよく近づいてくる足音。確か、青チームと黄チームの接戦だったはず。私はそう思いながら、ちらりと左隣の黄チームのアンカーを見た。今の今まで余裕だった彼女の瞳に一瞬、焦りの色が見えた。つまり……今、青チームが黄チームを少し抜かしているということだ。私はそうとわかれば自信がついてきた。そして、前走者の「真奈!」という掛け声とともに、一瞬の迷いもなく駆け出した。左手に渡されたバトンの重さ。バトン自体はプラスチックでできた、軽い物には変わりはないけれど、これまでに走ってバトンをつないできた3人の思いが詰まっている。この重みは……そのオモさだ!私は走り出した途端、すべての思考回路が停止した。ただひたすらに、無我夢中で、400メートルを走った。常に5メートル後ぐらいからついてくる感覚に焦りを感じながら走った。だんだん皆の声援が耳に届いてきた。
「フレーフレー青組!フレフレ青組!頑張れ頑張れ青組!ま〜な〜GO!!」
皆……!私、絶対1位獲るよ!私はゴール100メートル直前で改めてそう思い直すと、ラストスパートを掛けた。ずっと私の後ろを付いてきていた黄チームのアンカーも同じようだ。だんだん追い上げられているような感覚がある。それでも私は……負けない!負けられない!
こうしてその一心で走った結果——
『なんと、午前の部最後の種目、4×400メートルリレー、女子1年生の部、1位は青組です!!』
キャーという歓声が上がる。しかし、まだアナウンスには続きがあるようだ。私は乱れた息を整えるために少し歩きながら、それに耳を傾ける。
『そしてさらに!!歴代記録を更新です!!』
わあ——!!という歓声とどよめきが全校生徒に響き渡る。勿論親の間にも。
『それでですね、各選手ごとのタイムも計っていたのですが、女子も男子も1年生は歴代記録を塗りかえました!これは後程表彰します!』
おお——!!とこれは全校生徒が互いに祝福しあい喜び合った。
『それではここから約1時間ほどお昼休憩に入ります。生徒の皆さんは熱中症対策として校舎内へお入りください。保護者の皆さんも、レストルームをご用意しております。係りの者の案内に従ってそちらの方でご飯をお召し上がりくださいませ』
こうして、午前の部は幕を閉じた。