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Re: 恋桜 [Cherry Love] 最終回まであと少し!! ( No.176 )
日時: 2013/09/15 22:24
名前: 華憐 (ID: SUkZz.Kh)

第十話 【お月見】

*真奈side*

学校前へ着いた。門の前には警備員が立っている。どうやら今日限定で雇ったようだった。

「すいません、この学校の者なんですが、お月見に参加してもよろしいでしょうか?」

徹くんが2人分の学生証を警備員に見せながら言う。するとあっさり許可を出した警備員が門を人一人が通れるくらいの空間まで開けた。

「ありがとうございます。真奈、行こう」

そう言って、再び私達は恋人繋ぎをしたまま門の中へと足を踏み入れた。どうやらお月見はグラウンドの西の端の方でやっているらしい。ちょうど私達の現在地からは正反対の場所だ。

「少し歩かなくちゃいけないね。真奈、大丈夫?」
「うん。って、そこまで足弱くないよ」

私は苦笑しながら言う。全く、徹くんは過保護なんだから。

「そうだね、ごめん」

徹くんも自分の発言に苦笑しながら、歩き出した。時々すれ違う人たちに、私達の絡み合った手を凝視されるのを感じながらも手を放すことはできなかった。だって——嬉しいから。

「着いたよ?」

ずっとぼーっとしていた所為か、いつの間にかお月見の場所までたどり着いていた。徹くんが私を心配そうに覗き込んでいる姿が見える。

「大丈夫。ちょっと考え事してて」
「考え事?」
「うん、そう」
「それってどんな?」
「え?」

少し声を低くした徹くんを見て驚きながらも説明する。

「その、繋いでる手をすれ違う人に凄い見られたなーって」
「ああ、なんだ。そんなこと?」
「そ、そんなことじゃないよ!」
「ははは、ごめんって。……てっきり凜のことかと思った」
「最後聞こえなかった。なんて言ったの?」
「ううん、何でもない。それより団子を買おうよ。あそこで売ってるし」

徹くんにうまく話を交わされ、別の話題へと転換されてしまった。彼は前方にあるオレンジ色の光を放つ2つの屋台を指差す。私はそれを見て、団子の方へと意識が移ってしまった。

「うん。行こう!私、きなこ餅、大好きなの!」
「え?そうなの?」
「うん!なんか……変?」
「い、いやそういうことじゃなくて……」
「ん?どうしたの?」
「その……真奈に大好きって言われるきなこ餅が羨ましいなって」

そう言い終えた後の徹くんの顔の赤さと言ったらそれはもう、言葉に言い表せないようなくらいだった。しかしそれを言われた私も思わず顔が赤くなってしまった。

「そ、そ、そ……」
「そ?」

徹くんが私を不思議そうに見つめる。そりゃあ、そうだろう。「そ」だけ言ってるなんて不自然すぎる。勇気を出して言うんだ、私!!

「そんなことないよ!私、徹くんのほうが大好きだから!!」

自分の予想以上に大きな声が出てしまい、思わず口元を抑える。徹くんも目を見開いている。……そりゃそうだよね。いきなりこんなところであんなこと言われても迷惑だよね。私はそんなことを思いながら落ち込んでいると、急に徹くんが微笑んだ。私は訳が分からずおどおどする。

「本当真奈って可愛いなあ。あー、俺の理性が後どれくらい持つかわかんないよ。早く団子を買って食べよう?」
「う、うん」
「よし、決まり。それじゃあ、真奈、席を取っておいてくれる?俺が団子持っていくから」
「で、でも団子の代金……」
「そんなの彼氏の俺が奢るって。それじゃあ」

私は徹くんが去っていく様をただ見つめていた。だって今さっき『そんなの彼氏の俺が奢るって』って言ったんだよ?彼氏の俺……。やっぱり徹くんは私の彼氏なんだ。そう実感したとたんに嬉しさと恥ずかしさでいっぱいになり、席取りに専念することにした。

「えーっと、どこがいいかなあ」

私は目を凝らしながら席を探す。大分目が暗闇に慣れてきたとは言え、やはり夜。石などに躓かないようにしなくては。

「んーと……」
「真奈っ!こっちこっち!!」
「……美樹?」

私は声のした右のほうを見る。すると私に向かって激しく手を振る人影が視界に入った。

「美樹!」

私はそう言いながら彼女のほうをめがけて走り出した。そして彼女の姿を完全に目にした時にはほっと安堵のため息を吐いた。

「やっぱり真奈だった!よかったあ」
「確証なかったんですか」
「はい!」
「そう自信ありげに言われると返す言葉もない……。って、あれ?美稀って帰ったんじゃないの?」
「んー、それがねえ、帰宅途中に新條くんから電話があって、一緒に月見できないかな?とか言われちゃって」

そう言いながら照れる美樹。完全に恋する乙女だ。

「良い感じだね。じゃあ、告白されたの?」
「真奈ってほんとストレートだね。まあ、そこが好きなんだけど。……ううん、それはまだ。今、団子のおかわり買いに言ってくれてる。そろそろ戻ってくると思うよ?」
「そっか。徹くんと同じだね」
「徹くん?真奈、あんたってそんな呼び方してたっけ?」
「っへ!?あ、ああ、その、こ、これは……」
「その動揺っぷり!何かあったんでしょう!?吐きなさい!」
「う、うう〜」

そんなわけで、先程までのことを全部美樹に話した。勿論、以前話したことのある過去の話を含めて。

「そっか。やっと2人は付き合ったわけね」
「美樹、知ってたの!?」
「このあたしに知らないことがあると思って?」
「いいえ」
「でしょう?あたしの情報に知らないことなどほとんどないんだから」
「あ、100パーセントとは言い切らないのね」
「当たり前よ。そんなので客に文句を言われたらたまったもんじゃないわ」
「すっかり商売人だね」
「情報屋よ」
「そうでした」

そう言いながら、私は美樹が取っていたという席の隣に座らせてもらい、徹くんの帰りを待った。そして暫くすると、新條くんが現れ、そのあとに徹くんが現れた。

「ごめん、真奈。待たせたね。少し混んでて」
「ううん、大丈夫。美樹と話してたから」
「そっか。てか、なんで新條が美樹の隣にいるんだ?お前美樹の彼氏じゃないだろう?」
「あ?うるせーな。こっちだって色々これからあるんだ。な?美樹」
「う、うん。そうなの、かな」

こうして他愛もない会話をしながら、暗闇に浮かぶ綺麗な月を見上げた。その様子はまるで、暗闇の中で見つけた希望のようだった。

Re: 恋桜 [Cherry Love] 最終回まであと少し!! ( No.177 )
日時: 2013/09/15 22:17
名前: 華憐 (ID: SUkZz.Kh)

お月見から少し時間が経った9時過ぎ頃。
私と徹くんは2人きりで帰路を歩いていた。本当は美樹と新條くんとも一緒に帰る予定だったんだけど、無理矢理徹くんが私の腕を引っ張って行ってしまい、結局のところこうなったというわけだ。

「あ、あの徹くん……」

私は力強く握られた手を見ながら言う。徹くんはちらりとこちらを見て、少し怒ったような、拗ねたような声で呟く。

「名前で呼んで」
「え……、と、と、徹!」
「よくできました」

そう言いながら徹くんは嬉しそうに私の頭を撫でる。私は不覚にもそれを心地よく感じながらも先程言いたかったことを思い出す。

「あの、新條くんと居る時、徹、随分と機嫌悪かったよね……?喧嘩でもしたの?」
「……違うよ。全然違う」
「違うの?他に何か理由になりそうなことなんてないはずだけど……」
「本当、真奈には毎度のことながら困らされるなあ」
「え!?」

私は自分に何か足りないものがあるのかと思い、ぎくりと肩をびくつかせる。そんな私の様子に気付いてか、徹くんは笑いながら言う。

「別に真奈に足りないものがあるって言ってるわけじゃないんだ。その……俺個人の問題だから」

最後の言葉が胸に刺さった。「俺個人の問題」って何?私だって徹くんの力になりたいんだよ?だから、だから……

「俺個人なんて言わないで!」

思わず張り上げた声。しかし、私は続ける。

「私は徹くんの力になってあげたいの!だから……一人で抱え込まないで」

私は涙で視界がぼやけながらも、徹くんの瞳をしっかりと見つめる。彼の瞳は揺れていた。

「ご、ごめん。変な事言って。今の忘れて……」

私は急に先程の言葉を思い出し、制服の袖でぎゅっと両目の涙を拭った。そしてそのまま歩き出そうとした瞬間、正面からいきなり抱きしめられた。

「ほえ!?」
「真奈、もう本当可愛すぎる……」
「え……?」
「そこまで言われたら答えないわけにはいかないだろう?驚かないで聞いてくれよ?」
「うん。なんでも聞く」
「ありがとう、それじゃあ……。実はさっき新條と仲良さそうにしてるのを見て嫉妬したんだ。何で俺以外の男子と楽しそうに話してるんだって」
「そ、そうだったの?なんかごめんね」
「ううん、いいんだ。今もこれから先も真奈を束縛するつもりはないから自由にしてくれていいんだよ?ただ……」
「やっぱ、真奈が俺の彼女だっていう確証がほしいんだ」
「徹の……彼女?」
「そう。なんでもいい。……そうだ。いいことを思いついた」
「いいこと?」
「そう、いいこと」

徹の瞳が一瞬怪しく光った気がしたが、私は気のせいだと思い込み、その先を聞いた。

「いいことって、どうすればいいの?」
「簡単だよ。目を瞑るだけでいいから」
「本当にそれだけでいいの?」
「うん。それだけでいいよ。はい、閉じて」

徹の大きな手で目隠しをされた私。私はそれに逆らうことは出来なくて、言われるがままに目を閉じた。そしてしばらくそのままの状態を保っていると、顔が近づいてくる気配がした。い、今更ながらですが、もしやいいことってキスだったの!?私はようやく徹が言っていた言葉の真の意味を理解し、急に恥ずかしくなって慌てだした。しかし、時すでに遅し。唇に柔らかい感触が触れるのを感じた。き、キスをしてしまった……。これが初めてというわけじゃないけど。というか、先程亮さんに奪われた所だけれど……なぜか、これが初めてのような感じがする。私はそう思いながら安心しきっていた。そしてそろそろ開放してもらえるだろうと思って、口を薄く分けた途端、何だかよく分からない、熱いものが私の口の中へするりと入ってきた。私はもう理解不能状態になってただひたすらに徹の胸板を叩いた。やがて、解放されたときには私の息は乱れていた。

「はあ、はあ、はあっ。何したの、今?」
「ん?いいことだよ?」

徹は息切れなど一切起こしていない、余裕表情でそう言う。

「俗にディープキスとも言う」
「ディ、ディープ!?」

私はその濃厚な響きだけでも先程の感覚を思い出し、ぶっ倒れそうになる。

「真奈、本当にディープキス初めて?凄い上手かったけど……」

そう言いながら徹は自分の唇を舌で舐める。……夜の所為でテンションがおかしくなっているのだろうか。今日の徹は色気を隠そうともせず、ただダダ漏れさせている気がする。勿論普段も色気が漂ってはいるのだけれど。

「やっぱり初ディープじゃないの?」
「ううん、徹が初めてだよ」
「そっか、よかったあ。それじゃあ、今日は帰ろうか」
「うん」

私は笑顔で頷きながら、徹が差し出した手に自分の指を絡める。



色々なことがあった。

憧れだった高校に入学し、恋に落ち。

初めての親友が出来て。

ただの幼馴染だと思っていた彼との関係が少し変わり。

10年弱想い続けていた”あの子”と再会し、別れ。

”あの子”と同じ位、いやそれ以上に好きだった彼と付き合うことになって。


今、私はここにいる。



——ああ、こんな幸せな日々が続きますように。

ただそれだけを願って私は明日を歩んでいく。



悲しみも喜びも
怒りや寂しさも
辛くて泣きそうな時も
いつだって私には仲間がいる。

『ほら、向こうを見て』

声が聞こえるでしょう?
光が見えるでしょう?

いつだって仲間は家族は、徹は
桜咲き乱れる並木の下で手を振って待ってるんだ。




桜並木の下で偶然が集ったこの年を
私は生涯忘れない。






恋桜
君と出会った
春の日に
咲き乱れたの
小さな華が






たとえそれが散り際は憐れなものなのだとしても、私はそれを抱いて生きていく。


——私は今を生きていく。


『初めて』を教えてくれたのはあなたでした。

『笑顔』を教えてくれたのもあなたでした。

『痛み』を教えてくれたのもあなたでした。

本当にありがとう。そして愛してる。

これから先もずっと……。


















<fin>