コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 恋桜 [Cherry Love]  ——完結—— ( No.181 )
日時: 2013/09/16 17:32
名前: 華憐 (ID: SUkZz.Kh)

番外編 【いい天気になりそうね。】

「んー、いい天気!」

私はベッドの上で軽く伸びをしながら、窓の外を見る。私の部屋から見える紅葉の葉が紅く染まっている。徹と付き合うことになってから1か月後。日本は秋を迎えていた。

「真奈〜?起きなさい。もう9時よ」
「は〜い」

私は軽く返事を返して、ルームウェアへと着替える。そして今日の予定を考えながらリビングへと向かった。

「ふぁ」
「おはよう。もう、欠伸なんかして。どれだけ寝てるのよ」
「11時間」
「真顔で答えないの。ほら、朝ご飯。ここに置いておくね。今日も母さん、仕事だから遅くなる。だから自分で作るか食べに行くかしてね。それじゃあ行ってきます」
「行ってらっしゃい」

相変わらず、よくあれだけ速く喋れるなあと感心しながら食卓へ着く。

「美味しい」

母が作ったイングリッシュマフィンは絶品だ。私の鉱物のひとつでもある。とろとろと蕩けだす半熟卵がたまらない。そうして無我夢中で食べていると、いつの間にか手の中には何も残っていなかった。

「んー、完食。ごちそうさま」

私は1人で手を合わせてお馴染みの言葉を言い終えると、立ち上がってシンクまでそれを持って行った。そして軽く水洗いをして食洗機の中へ。そしてそのまま洗浄スタートのボタンを押し、食器洗いを機械に任せた。勿論、食洗機の中には私が今使ったお皿だけじゃなくて、昨日の夕食に使ったお皿だって入ってるんだから。

「さ—てと、何しようかな?憧れの1人旅でも行ってみようかな。といっても近場を1人でぶらぶら回るだけだけど」

私はそう言いながら自室へと戻る階段を上り、自室へ入った。そしてクローゼットを開け放ちどれがいいか考える。

「せっかく秋なんだし。赤っぽいものを……」

そう言ってクローゼットの中の服を見回すと、1つ私の目に留まるものがあった。それはつい最近買ったばかりの赤いチェックのワンピースだ。少し抑えめの茶色がかった赤に所々入る緑のライン。そして、裾にはアンティーク風なレースに一目ぼれして買ったものだ。

「よし、これにしよう」

私はそれをぱっと手に掴み、そのワンピースに合わせて、全身をコーディネートした。そして出来上がったファッションスタイルに満足すると、鞄の中に財布や携帯を詰め込んで、少し低めのヒールを履けば、完全に秋スタイルへと変身。普段はしないが今日は気分が良かったため、鏡の中の自分に微笑みかけると、「上出来」と呟いて扉を開けた。大分、肌寒くなってきた風が私の体を包み込む。

「よし、行こう」

こうして私は駅へ向かって歩き始めた。そして駅に着き、電車に乗り込んだ。すると、意外なことに同じ車両に徹も乗り込んできた。しかし、徹の隣に居る男性と話し込んでいて全くこちらには気付かない。私はそれを見て少し拗ねながらも、聞き覚えのある男性の声に耳を傾けた。

「いやあ、今日は徹から誘ってもらえるなんてね。どういう風の吹きまわしだい?」
「別に。ただちょっと申し訳ないなと思っただけだよ」
「ほお?何が申し訳ないんだい?」
「その、真奈を俺の彼女にした、こと……」

これでその男性が誰かが分かった。顔はこちらからは死角で見えないが、確実に亮さんだ。

「別にいいよ。徹が無理矢理真奈ちゃんを奪っていったわけじゃないしね。彼女の選んだ道なんだから、僕はそれを咎めたりしないし止めるつもりもないよ」
「兄さん……」
「ただ、もし真奈ちゃんが僕の胸に飛び込んできたなら一生離さないけどね」
「兄さん……?」
「何だい?」
「そんなこと絶対ないから安心して?」
「ほお、それは楽しみだね」

声は普通だし、笑顔で会話しているようにも見えるけど、なんだか火花が散っているような気がするのは私だけですか?

「それよりも、今日はどこへ行くつもりしてるんだい?」
「あれ?言ってなかったか?」
「うん、僕には何の口も聞いてくれなかったからね」
「誰の所為だよ?」
「さあ」
「まあ、いい。最近できたここから2つ先の駅前の喫茶店。凄い反響ならしくてさ、ちょっと興味があったんだよ」
「へえ。それで気に入ったら連れて行くと?」
「……」
「図星かい?本当に徹は分かり易いね」
「煩い」

一体誰をその喫茶に連れて行くんだろう。気になるところだが、現状として尋ねられる場合じゃない。ああ、どうやったら聞けるかな。とかそんなことを考えているうちに、2人は下車してしまった。

「あ、ああ……」

私は扉が閉まる瞬間に手を伸ばしてみたが、2人はそんな私の存在に気付くはずもなく、兄弟の会話を楽しみながら改札を超えて行った。ただ社内に空しさだけが募る。そしてそうこうしているうちに、私の目的地へと到着。私は渋々自分の鞄を肩に掛けなおして降りた。

「さっきの空しさの分、思い切り楽しんじゃおう!」

私が元気いっぱいにそう言うと、周りの人から怪訝な目で見られたが、気にしないふりをして、通りへと足を踏み出した。

この通りには私のお気に入りのファッションブランドやら何やらがたくさん入っていて、気分が滅入った時や、嬉しかった時など、頻繁に来る場所だ。もう常連となってしまったような店だってある。その中にとあるカフェがあるのだが、そこは知る人ぞ知るというもの。この前たまたま歩いていたら見つけ、入ってみたら、価格もまあまあ安くて、ご飯もスイーツも絶品だったものだからすぐにお気に入りになったのだ。私は今日も買い物をし終えたらそこへ行くつもりである。まあ、夕食が今日は家にないことだし、そこで済まそうかなという考えだ。

「わあ、これ可愛い」
「そのラインがかわいらしいですよね。今年の秋、流行間違いなしのものです。ご試着されますか?」
「はい!」
「ではこちらへどうぞ」

私は店員さんに付いて行き、色々試着した。そして徹とのデートに着て行ったらいいだろうなと思った3着を買うことにした。それからあれこれ回って、気が付くといつの間にか5時を回っていた。そろそろカフェへ行く時間である。実はいうと、そのカフェ、歩いて行くとなかなか遠かったりする。

「さーてと、行きますか」

私は一声自分に掛けると歩き出した。

そして、30分後——

「着いたあ」

私は大きく息を吸って吐いた。相変わらず、可愛らしい木の家だ。夕日色に染まっているところがたまらない。暫く私はぼーっとこの風景を眺めていると後ろから声を掛けられた。驚いて振り返るとそこには凜が。

「凜!?」
「よお」
「どうしてここに?」
「それはこっちのセリフ。てか、真奈もこの店知ってたんだな」
「うん、つい最近知ったところだけど」
「まあ、取り敢えず入るか」
「え?あ、うん」

なんだかちぐはぐな会話を不審に思いながらも凜の後へと続いて行く。そして可愛らしい気の取っ手をゆっくりと引っ張ると、店員が迎え入れてくれた——と思ったらそれはなんと美樹だったのだ。

「み、美樹!?」
「真奈!?どうして凜と一緒にいるのよ」
「いや、さっきそこでたまたま会って」
「へえ?」

美樹が意味深な目で私と凜を交互に見る。しかし凜が「真奈の言う通りだ。それより客をいつまで待たせる気だ?」なんて言ったものだから、美樹は仕方なく仕事へと戻った。

Re: 恋桜 [Cherry Love]  ——完結—— ( No.182 )
日時: 2013/09/16 17:27
名前: 華憐 (ID: SUkZz.Kh)

「へえ、美樹。随分と前からここで働いてたんだね」
「うん、そうだよ。でも真奈を一度も見かけなかったわ」
「私も美樹を見なかった」
「多分シフトの関係ね」
「かもね」
「このキノコのトマトソースパスタ、旨い」
「でしょう?ここの店の食事は美味しんだから」
「それより美樹」
「ん?どうしたの凜?」

可愛らしい制服を身に纏った美樹が首を傾げる。その仕草があまりにも可愛すぎて、私が顔を紅潮させてしまった。

「どうしたの凜?じゃねーよ。客がお前のこと呼んでるぞ?」
「へ?嘘!?」

そう言って美樹が慌てて凜の視線を追う。すると、その視線の先には美樹にそっくりな美人な女性が居て——

「お姉ちゃん!」

って美樹のお姉さんだったのか。

「今日はよく知り合いを見るなあ」
「誰を見たんだ?」

向かいに座る凜がパスタをフォークで器用に巻きながら尋ねる。

「初めに徹と亮さんを見たんだ。これは電車の中での話なんだけどね……」

こうして私は凜にこれまでの経緯をあれこれと話した。そして時に笑い話を混ぜて凜を笑かせてみせた。そしてそうこうしているうちにあっという間に8時を回っていた。

「そろそろ帰らなきゃ」
「本当だな。俺もそろそろ帰らないとな」
「今日、凜のお母さんもお父さんも遅いんだよね」
「あ?そうだけど。何?俺の家に来たいの?俺はいつでもウェルカムだぜ?」
「え、遠慮します」

私はそう断ると、鞄の中からお財布を取出し、代金を払おうとした。だが、それを凜に阻止され、凜が全代金を受け持ってしまった。

「凜、悪いよ。せめて5000円は受け取ってよ」
「それ、ほとんど全部の代金じゃねーか」
「お願い」
「駄目だ」
「お願い」
「駄目だ」
「お願い」
「……分かった」
「本当!?」
「ただし1000円だけな?お前から受け取るの」
「え?どうして?」
「んー、これからも俺と仲良くしてくれるってので、全然大丈夫だから」
「……そっか」

私はそう言うと、財布から1000円札を抜き取って彼に渡した。すると、彼は惜しげもない屈託のない笑顔でそれを受け取ってくれた。この笑顔を見ていると、どうして私は凜に靡かなかったのか不思議に思えてくる。

「ん?どうして?俺の顔に何かついてるのか?」

私があまりにも凜の顔を見つめていた所為か、少し彼が焦ったように言う。

「ううん、なんでもないよ。それより早くいかなくちゃ。電車、乗り過ごすかもだし」
「お、おう。そうだな」

私は無理矢理凜の腕を引っ張ると、坂道を下り始めた。そして駅には着いたのだが……

「目の前で扉閉まるとか反則だあっ!」

私はもうほとんど見えなくなってしまった電車に向かって手を挙げながらそう言う。すると後ろから凜が笑う声がする。

「あははは」
「わ、笑うなあ」
「だって真奈が可愛いから」
「煩い」
「怒ったー怒ったぞ、真奈が!」

凜はなんだか楽しそうだ。そんな私の考えを読んでか知らずか急に凜が真剣な顔つきになった。

「え?何?」
「ん、いや真奈と普通に喋れてるなって」
「え?今までだって普通に喋ってたじゃん」
「そうだけど、なんか少し心の中にモヤモヤがあったんだ。でも今は全然そんなことないし、前と同じくらいすっきりした気持ちで真奈と話せてる」
「そっか。それならよかった」

私はそう言いながら微笑むと、急に凜がばっと視線を逸らし、手で顔を覆った。

「そういうの反則だっつーの」
「はい?」
「ああ、もううるせー。とにかく黙ってろ」
「……?はい」

よく分からず電車が来るまでなんとか喋らないように努力した。そして、約束を守ったまま電車に乗れると思ったとき、改札口の方から美樹の声が。

「美樹!」
「真奈!」

私は美樹に思い切り抱きついた。美樹はお姉さんと帰ってきていたようだ。

「あ、お姉さん。初めまして。綾川真奈と言います」
「あら?初めまして。美樹の姉の美和よ。あなたが真奈ちゃんね。美樹からよくあなたの話を聞くわ。とっても可愛い子ってね。本当。美樹が言ってたことも過言ではないわね」
「でしょう?」

美樹が自信ありげにお姉さんに向かって笑う。一体美樹は何を言ったんだ……?

「そ、そんなことないですよ。美和さんとっても美人さんで驚きました」
「お世辞ありがとう」
「お世辞なんかじゃないですよ。本心です!」

私が懸命にそう言うと、美和さんはうっとりするような笑顔を浮かべて

「それじゃあ、ありがたく受け取って置こうかな」

と言った。きっと美樹が美和さんくらいの年になったらこんな美人さんになるのだろうな、と想像しながら。

「電車来るぞー」

先程からそっちのけだった凜の声がする。すると、美樹が何か言いたいことを思い出したのか思い切り駆け出して、凜に肘鉄を繰り出した。凜はというとその攻撃を受けて一瞬怪訝そうに眉を顰めたが、すぐに美樹と笑い合って何かを話し始めた。

「美樹は本当、あなたと出会って変わったわ」
「美樹がですか?」
「ええ。あの子、昔から元気な子だったんだけど、あんまり本心は曝さないほうだったのよ。だけとあなたにはちゃんと自分の気持ちも伝えてるみたいだし……。本当に、真奈ちゃんありがとう」

そう言って美和さんは私の手を取ってお辞儀する。私は慌ててあいている方の手をぶんぶんと横に振る。

「いえ、そんなっ。私のお蔭とかじゃないと思います」

私がそう言うと、美和さんがゆっくりと顔をあげた。何を言ってるのとでも言いたげな目でこちらを見る。

「私だけじゃなくて、あそこにいる凛や徹、それに優那や涼香……そして美和さんのお蔭でもあったのだと思います。やっぱり1人の人間は1人じゃ救えません。大勢の人がいてやっと助けられるものなんです。人間って面倒ですよね。1人で助かることが出来ればいいのに」
「……そんなことないわ。人間は1人で助かれないからこそ美しいの。もし1人で助かることが出来たなら友情や絆なんて必要としないもの。……それじゃあ、言い直すわ。美樹を変えてくれた1人になってくれてありがとう」

その途端に、後ろで電車がホームに到着する音が聞こえた。美和さんの頬には美しい一筋の涙が伝っている。

「でも、まあ美樹自身が一番頑張ったのかもね」

そう言って、涙を拭いて電車の方へと歩み寄って行った。私はそれに大きく頷きながら電車のほうへと向かった。

Re: 恋桜 [Cherry Love]  ——完結—— ( No.183 )
日時: 2013/09/16 17:31
名前: 華憐 (ID: SUkZz.Kh)

翌日の早朝。

私は徹からメールを受け取った。



”来週暇かな?連れて行きたいところがあるんだ。”



私はすぐに返信し、携帯をスタンバイモードにした。

そして大きく息を吸い、言った。


「来週もいい天気になりそうね」