コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 恋桜 [Cherry Love] ( No.50 )
日時: 2013/06/01 14:29
名前: 華憐 (ID: xDap4eTO)

「お!ここが会場だね!あたし達、どこに並べばいいんだろう?」

真奈の腕を引っ張りながら歩くあたし。
そう、あたしたちは入学式の会場である講堂の前にやってきたのだ。

「1-B、1-B、1-Bは…あった!あそこだ!真奈、行こっ!」

「う、うん」

あたしは少し、本当に少しだけ強引に、あたしが指差した”1-B”と書かれた紙が貼られている壁の前へと向かった。
すると、そこには私たちより後に教室を出たはずの逢坂くんと浅井がいた。

「逢坂くん!それに凜!」

「それに、ってなんだよ」

真奈の声のかけ方に不満を漏らす浅井。
可愛いな、と思いつつもやっぱり真奈のことが好きなんだな、と思い知らされているような痛みを伴った。

「あはは、可哀想に。凜くん」

「他人事みたいに思ってんじゃねーよ、この色男!」

「俺は色男なんかじゃないよ?ただなぜか女の子に好かれるだけで…」

「お前、今の発言で全国の男子を敵に回したぞ?」

「え?そうなの!?それは不味いな。皆とは仲良くしたいんだけどなぁ。ただ一人を除いて」

「あ?それは俺のことか?俺のことなのか?」

「さぁ、どうだろうね」

「ちょ、ちょっと、二人ともやめようよ!」

真奈が状況が悪化しそうな気配を察知したのか、喧嘩の止めに入った。
すると、先程までの険悪のムードがまるで嘘だったかのように逢坂くんは屈託のない笑顔を真奈に向けた。
浅井はというと、拗ねたようにそっぽを向いている。

「やぁ、綾川さん。会いたかったよ」

「会いたかった、ってさっきも話してた気がするんだけど…」

「それでも会いたかったのさ」

真奈は顔を真っ赤にしながら俯いた。

そりゃあ、イケメンにそんなこと言われちゃ、どんな美少女でも照れるわよ。

「ん?どうかしたの?無言になっちゃって。顔、赤いよ?」

「え!?」

真奈は驚きながら、自分の頬をぺたぺたと触った。
どうやら、自分の顔が真っ赤になっている自覚がなかったらしい。

「嘘!?私…!?」

「どうしたんだ?熱でもあんのか?」

真奈が両頬を両手で押さえながらあたふたしていると、浅井が真奈の顔を覗き込んだ。
真奈はその距離驚いて、慌てて顔を逸らす。
そんな様子にむしゃくしゃしてしまうあたし。

なんてあたしは醜いの…?

「う、ううん。なんでもないの」

「…そうか」

そう言って、浅井は列に戻っていった。
その様子をぼーっと真奈が見ていた。
どうやら、どうすればいいのか分からなかったらしい。
そんな真奈を見かねて、あたしが真奈の脇腹を肘で突いた。
真奈は何事か、と思ったのかあたしの方に体を傾けた。
あたしはそれを見て、真奈に耳打ちした。

「今のはさすがの浅井も傷つくって!」

「え?何か不味かった?」

「だって、逢坂くんとは普通に話してたのに、浅井に話しかけられた途端、真奈ってば顔を逸らしちゃうんだよ?そりゃあ、嫌われちゃったのかな?って思うわよ」

「そ、そういうものなの?」

「そういうもの!だから浅井ん所行って、誤解、解いてきたら?」

「…そうだね。凜とはずっと友達でいたいもの!」

真奈はそう言って、浅井のところへと向かった。
その時、あたしは寂しげな視線を送っていた、かもしれない。

Re: 恋桜 [Cherry Love] ( No.51 )
日時: 2013/08/01 15:01
名前: 華憐 (ID: xDap4eTO)

真奈はおどおどしながらも、ちゃんと説明することができたようだ。
彼女の話を聞き終わった後、浅井は笑みを浮かべていた。
しかし、浅井は満面の笑み、という感じではなかった。
そんな様子に気が付いた真奈が浅井の顔を心配そうに覗き込む。
だが、浅井は大丈夫、か何か言ったのだろうか。
真奈は頷いて浅井の後ろに並んでいた。

てか、浅井が泣きそうな笑いを浮かべてたのって、友達発言気にしてるからだよね?
あー、本当に真奈ってば面白いわ!

そんなことを思っているうちに、あたしは爆笑していた。
そんなあたしを真奈は見ていたようだ。
彼女と目があった。
しかし、彼女はあたしが爆笑している理由が全く分からないでいるらしい。
首を傾げている。
そんな彼女の様子を見て、険しそうな顔をしている隣のイケメンくんに声を掛けて、真奈の所へ向かった。

「いやー、真奈。あなた、傑作だわ!」

「け、傑作!?」

「こんなに天然な少女、あたし見たことなかったよー?」

「俺も初めて見た。いやー、でも何か嬉しいね。ライバルの位置が確定されてると」

「なんか悪い事言われてる気がします」

「大丈夫よー?褒めてるの」

「そうだよ?綾川さん。俺は褒めてるんだ」

「そ、そうなの」

逢坂くんに見詰められながら言われたからか、そう言って顔を真っ赤にしながら俯く真奈。

本当可愛いなぁ。

「どうしたの?」

逢坂くんが心配そうに真奈の顔を覗き込む。

お前も天然かい!

あたしは心の中で突っ込むが、天然ワールドは止まることを知らない。
真奈はそれに驚いて、暫く2人で見つめ合っていた。
そんな状況にあたしは耐えられず、思わず2人の間に割って入ってしまった。

「はい、そこー。イチャつかない」

「い、イチャついてなんかいないよー!」

「冗談よ、冗談」

「美樹ちゃんってば冗談言ってる風には見えなかったよー。絶対本気だった」

「どうしてそう言えるの?」

「目が本気だった」

「…あはは」

「え?何か間違ったこと言った!?」

「そんなに焦らなくても大丈夫よ。ただ、本当に真奈って面白いなーと思って」

「え!?私の!?どこが!?」

興味津々というような感じで真奈はあたしに詰め寄った。
そんな真奈の反応を見て、意外、と思って一瞬顔に出してしまったあたし。
でも、すぐに明るい笑顔に戻った。

「そんなの決まってるじゃん!裏表のないところ!」

「裏表のないところ…?」

「女子では珍しいよ〜?」

「そうなの!?それじゃあ、美樹ちゃんはどうなのっ!?」

真奈が意気込んでそう聞いてきた。

そんな直球で来るのか。やっぱり天然は天然ね。

そんなことを思いながら薄笑いを浮かべたあたし。
そんなあたしの笑顔の急変に真奈は驚いてか、

「どうしたの…?」

と心配そうに尋ねてきた。
あたしは、そんな彼女を見た後、浅井の方を見ながら言った。

「う、ううん。ただ、あたしにはさ…」

「あたしには?」

「裏表、あるよ」

そう言ったあたしは完全に自分の感情を制御しきれていなかった。
今まで被っていた仮面に少しひびが入ったような感覚だった。

Re: 恋桜 [Cherry Love] ( No.52 )
日時: 2013/06/01 14:47
名前: 華憐 (ID: xDap4eTO)

「え…?」

真奈は驚いて目を見開いた。
しかし、すぐに先生からの招集がかかった。

「これから入学式だ。君たち1年生は、堂々と胸を張って、歩きたまえ」

恐らく、あたし達の学年主任であろう、少し頭の露出度の多い50代くらいのおじさんがあたし達を見渡しながら言う。
それに、あたし達は黙って頷く。

「よし、それじゃあ入場だ」

そう言って、そのおじさんが、今までしまっていた講堂の扉を開けた。
そして、私たちの前に講堂に足を踏み入れた1-Aの子達が物凄い拍手で迎えられるのが聞こえた。
あたしは、真奈や浅井、綾川くんとは遠い所に並んでいた。
だが、浅井と真奈がしゃべっているのが見えた。
そして、大分話が弾んできたのか、だんだん笑顔になりながら話している2人を見た先生が2人に罵声を飛ばした。
あたしはそれを無表情で見つめている。
嬉しいような悲しいような、複雑な感情。
それを収めるのは無表情が一番だ。

「そこ!何話してる!次はもうお前たちなんだぞ?」

「す、すいません」

「…すいませんでした」

2人が同時に頭を下げ、3秒ほどしてから顔をあげたのが見えた。
そして、綾川君が足を進めていくのを見て、慌てて後を追う2人の姿も見届けた。

Re: 恋桜 [Cherry Love] ( No.53 )
日時: 2013/06/01 14:54
名前: 華憐 (ID: xDap4eTO)

あたしは講堂に入ってすぐに2つ気付いたことがあった。
1つ目は上級生の女子、皆が逢坂くんと凜に熱い視線を送っているということだ。
そして、2つ目は上級生の男子、皆が真奈に熱い視線を送っているということだった。

そりゃそうだろう。
だって、一番目に付くところに、イケメンの2人と絶世の美少女がいるんだよ?
気付かないほうが逆におかしいくらいわ。

そんなことを思いつつ再び浅井へと視線を送ると、また真奈と話しているのが見えた。
しかし、今度は浅井にも真奈にも笑顔はなかった。
そして、会話の終わりごろには真奈は怒っているのか、ムスッとしたようなすまし顔をしていた。

「そのまま名簿順に横一列に椅子に座ってけー」

先生からの指示が出て、あたし達生徒はそれに従う。
そして、1年生全員が椅子に座り終えると、入学式が始まった。
恒例の長い長い校長先生の話を寝ずに聞き、PTA等のお偉いさんの話も真面目に聞き、いよいよ入学式の最後に差し掛かった頃、入試をトップで通過した人が読み上げる”式辞”がやってきた。

『新入生代表、式辞。新入生、起立!…礼』

あたし達は副校長先生がマイクから出す指示に従い、椅子から立ち上がって壇上に向かって礼をする。
そして、顔をあげて周りを確認する。
すると、1人だけ歩みを進めようとしている者がいた。

そう、それは…逢坂くんだった。

あたし達は逢坂くんが壇上に上がるのを見守った。
そして、逢坂くんが壇上に上がり、校長先生の前まで行くと、一礼をして、式辞を読み始めた。

『桜が咲き、菜の花が咲き乱れる今日この頃。僕たちは……これで式辞とさせていただきます。平成25年度新入生代表、逢坂徹』

『新入生、起立!礼』

再びあたし達新入生が壇上に向かって頭を下げていると、階段を下りる音がした。
そして、あたし達が頭をあげ、座るころには、階段を下り終えた逢坂くんは元の席へと戻っていた。

…どんどん時は流れて入学式も閉式を迎えた。

『…これで入学式を閉式とさせていただきます。一同起立!礼』

こうしてあたし達は再び頭をあげた後、それぞれの思いを胸に、式場を後にしたのだった。