コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 恋桜 [Cherry Love] ( No.54 )
日時: 2013/06/01 15:43
名前: 華憐 (ID: xDap4eTO)

第四話 【中間テスト】


*真奈side*

入学してから数日後、部活の入部届を出した私たち1年生。
最近は皆、部活にどっぷり浸かっている。
私はというと、バトミントン部に所属した。
バトミントン部は女子限定の競技なので、男子はいない。
ちなみに美樹は情報屋に部活は必要ない、と言って無所属…つまり帰宅部に属している。
逢坂くんと凛は男子バスケットボール部に所属。
1年生だというのに、既にレギュラーになるのではないかと噂されているほどの実力なんだとか。
そんな彼らを女子が放って置くわけがないので、連日男バスが練習を行っているところは女子の応援で埋め尽くされているらしい。
私はというと、そんな男子に囲まれる、なんてことはないので同じバトミントン部で同じクラスの岸本優那(きしもとゆうな)ちゃんと仲良く楽しく部活動をエンジョイしている。

そんなある日、LHRでの負の宣告が私たち1年生を襲った。
そう、5月中旬に中間テストがある、という知らせだった。

「えー、もう?てか、この学校、テスト早くね?」
「超難しかったらどうしよ!?」
「この時期、私ピアノのコンクールの前日とかそこら辺なんですけど」

不平不満の声で教室が埋め尽くされる。
そんな中、私と逢坂くんと凛はいつもの表情で、席についている。
美樹はというと、顔面蒼白だ。

「はいはい、皆さん落ち着いてくださーい。まだまだ日はあるんですよ?だって、今日は4月17日でしょ?ほら、あと1か月もあるじゃないですか!」
「もう、1か月しかないんだよ!」
「しかも高校に入ったら、テスト勉強の量、増えるんでしょー?」
「最悪」

昨年この学校に就任したばかり、という34歳の山本恵利先生のフォローもむなしく、生徒の不満は高まるばかり。
しかし、そんな時に、タイミングよくチャイムは鳴るものだ。
不満で一杯だった教室を切り裂くように、チャイムが校内中に鳴り響いた。
それを逃さん、と言わんばかりに山本先生は起立と叫んだ。
生徒はそれに従うしか選択肢は残されておらず、渋々席から立ち上がった。
そして、山本先生の元気な声で「礼!」と言われると、「さようなら」と元気のない声を返しながら、皆散って行った。

「いやー、もう中間テストか。早いね、綾川さん」
「逢坂くん!そうだねー」

私たちがそんな会話をしていると、それに割り込むように凛が入ってきた。

「なぁ、真奈?」
「何?」
「中間テスト前、俺の家で勉強するか?」
「えーっと、うん、そうしよっかな?そういうの、久しぶりだし」

私がそう答えると、逢坂くんが青い顔をしながら私の肩を揺らした。

「どうしてそうなるのさ、綾川さん!」
「え?どうしてって言われても…誘われたから?」
「誘われ…!?駄目だよ!絶対、襲われる!確実に襲われる。男女が1つ屋根の下にいるとか…駄目だよ!絶対に駄目!」

逢坂くんが必死な顔をしながら、ひたすら駄目だと言っている。
私は何が駄目なのかよくわからず、ただ首を傾げることしかできない。

「だから、襲われるんだよ、綾川さんが!」

というか、襲われるとか誘うとかよく分からない…。

「襲われるって誰に?」
「凜にだよ!」
「どうして?」
「そりゃあ…」

そう言って、口ごもる逢坂くん。

一体どうしたんだろう?

ますます疑問は深まるばかりだ。
そんな感じで、会話になっていない会話を聞きつけてか、美樹がやってきた。

「やあやあ。イケメンさん。真奈を取り合ってるの?困りますなぁ。真奈は私の彼女なんですが?」
「彼女だって!?」「彼女だと!?」
「真奈!いつからお前らはそういう関係になったんだ!?」
「綾川さん、ほら女子と付き合うのもいいけど、男子に目を向けてみるのも悪くないっていうか…」
「冗談に決まってるじゃない!」

そう言って、笑いだす美樹。
そんな彼女の様子を見て、安堵のため息を吐く逢坂くんと凛。
一体何をそんなに心配していたのだろうか?

「枝下、そういう冗談やめろよなー?通じねー」
「そうだよ、人の心をもてあそんではいけないよ、枝下さん」
「あらあらそんなに怒ちゃってー。まぁ、いいや。それよりさ、さっきの話だけど、あたしも浅井の家で勉強するー!」
「は!?てか、お前話聞いてたのか!?」
「そりゃあ、情報屋ですから、私の手下は山ほどいるもんでしてね」
「汚ねーなぁ?まぁ、いいけどよ。そんじゃあ、俺と真奈と枝下とで勉強会を…」
「ちょ、ちょっと待ってよ」
「どうしたんだ?徹」
「なんで俺がいないの?」
「なんで俺がいないの、って俺はお前を呼んでいないから?」
「何で最後疑問形なんだよ!…はぁ。仕方がないなぁ。俺もその勉強会に行かせてくれ。頼むよ」

そう言って頭を下げる逢坂くん。
そんな様子に驚いた凜は少し戸惑いながらも

「お、おう。いいけどよ、別に」

そう言って、立ち去って行った。

こうして私たちは勉強会を凛の家で行うことになった。

Re: 恋桜 [Cherry Love] ( No.55 )
日時: 2013/06/01 23:18
名前: 華憐 (ID: xDap4eTO)

3限目が終わり、10分休憩の今__

「明日の勉強会、超楽しみだわ!」

私の隣で燥いでる美樹。
あれから、何度か4人で集まり、日程を決めたのだった。
それが、丁度テスト2週間前の日だった。

「美樹、燥ぎ過ぎだよ。てか、勉強会だよ?目的を忘れてはいけません」
「なんか、真奈が真面目だ!」
「少し馬鹿にされた感じがする」
「えー?だって、あたし真奈って勉強しませんー、って感じだと思ってるもの」
「それ、どういう印象ですか」

私達がそんな会話を繰り広げていると、凜が会話に入ってきた。

「あ、そういえば、明日、何の教科を勉強するんだ?」
「そういえば決めてなかったわね!何にする?」
「私は何でもいいよ?」
「それじゃあ、徹にでも決めてもらうか。そんじゃあ、俺が聞いてくるよ」

そう言って、凜は逢坂くんの所へと向かった。
そんな様子を見て、私の脇腹を肘で突く美樹。

「何?」
「いやー、案外あの2人、仲良くやってるじゃん?と思って」
「そういえば、そうだね。初めて会った時は犬猿の仲って感じだったのに」
「部活で成長でもしたのかな?」
「あるかもしれないね!バスケってチームプレーだもん」
「だね」

私たちが微笑み合っていると、凜が戻ってきた。

「なんか、明日は理数をやるらしい」
「わかった。てか、何でそんな嫌そうな顔してるわけ?」

美樹が不思議そうな顔をしながら問う。
すると、凜は珍しく焦ったように「なんでもない」と言うと、慌てて自分の席に着いた。

「変な凜」
「やっぱり真奈もそう思う?」

2人して不思議だなー、なんて顔をしながら話していると、今度は逢坂くんが話に入ってきた。

「それにはね、理由があるんだよ」
「理由?」
「それって何?」

私と美紀が興味津々、と言った感じで逢坂くんに顔を近づけると、彼は意地悪そうに微笑みながら「知りたい?」と問うてきた。
なので、私たちは声を揃えて、「知りたい!」と答えると、勝ち誇ったような顔で話し出した。

「さっき、凜が俺のところに来て、何の教科を明日やりたいか?と聞かれたんだよね。だから、俺の得意教科である理数をやりたい、って言ったわけよ。そしたら、凜、得意教科ってのに喰らいついたんだ。それで、中学時代の点数の競い合いしたんだ。まぁ、それで結局のところ、俺が勝ったってわけ」
「な、なるほど」

美樹が意外、というような顔をしながら頷いた。
私も頷きながら、先程から気になっていたことを聞いてみた。

「ち、ちなみに逢坂くんは…」
「ん?何?綾川さん」
「その…中学時代数学と理科、何点採ってたの?」
「満点しか採ったことないよ?」
「…」「…」
「美樹、今の聞いた?」
「聞いたよ、真奈。こいつ、自分が嫌味を言ったって気付いてないよね?」
「やっぱり、嫌味に聞こえた?私も実はちょっと嫌悪感を抱いてしまったのだけれど…。これって正常な感情?」
「正常正常。これで真奈が逢坂敬ってたらどうしようかと思った!」

そんなことをこそこそ話していると、逢坂くんが不機嫌そうに私たちに話しかけた。

「すっごいダダ漏れなんですが」
「…え?何がですか?」

美樹が平然とした表情で逢坂くんの質問に答えると、逢坂くんは少し溜め息を吐いて話を仕切りなおした。

「さっきの話は置いておこう。そんなに満点が採りたいなら、俺が勉強教えてあげるよ。ていうか、そもそもそのつもりだったけどね」

そう言って、私の方を見て微笑む逢坂くん。
若干ムカつく要素が含まれていたかもしれないが、その笑顔ですべてが許せてしまう。

「うん、ありがと」

私は逢坂くんに微笑み返した。
すると、それと同時にチャイムが校内に鳴り響いた。
4限目が始まる。

Re: 恋桜 [Cherry Love] ( No.56 )
日時: 2013/06/01 23:40
名前: 華憐 (ID: xDap4eTO)

「あー、疲れたー!今日一日、すっごく長く感じた!」

夕日を背に美樹は私の前を歩きながらそう言う。
そう、今は下校中。
帰宅部の美樹はなぜかいつも部活動が終わるまで私を待っていてくれる。

「本当に楽しみなんだねー。そんなに楽しみなことって何かある?」
「そりゃあ、あるよ!」
「何?」
「そ、それは諸事情で話せないんだけど…」
「ふーん?」

こんなに慌てている美樹を私は初めて見た。
…もしかすると私はこの時から気付いていたのかもしれない。
彼女の淡い恋心に。
でも、それを私は認めたくなかった。
今の心地よい関係を壊したくなかったから。
でも、関係でも何でも、過去以外に変わらないものなんてない。
こんなことわかっていたはずなのに。

「何よ?その疑い深い目」
「別になんでもありませーん」
「なんかムカつく。あ!そっちこそあたしに何も話してないじゃない!」
「何を?」
「真奈の好きな人のこと!」
「え!?私、好きな人いるなんて言ったことないよ!」
「それでも顔に書いてあるの」
「嘘!?誰がいつの間に書いたのかな!?本当、最近はそういう悪質ないたずらが目立つよね」
「…慣用句が通じない。本当に、真奈って賢いの?」
「え?今の慣用句だったの?あ、そういえば!顔に書いてあるってよく言うね!ちょっと焦ってたみたい」
「へ〜?何に焦ってたの?」
「べ、別になんでもないよ?」
「嘘だね。あたしが情報屋なの忘れてないでしょうね?」
「え…?」
「たくさーん、真奈の情報、仕入れてるんだから」
「た、例えば?」
「そうね、小学2年生の頃、友達と喧嘩した後にムカついて、宿題だった”あのね日記”に、”あのね今日ね、友達にねムカついたんだよ。先生、人の黙らせ方って知ってる?”と記したとか、小学5年生の頃の運動会で大コケして、恥ずかしさのあまりに”今のは宇宙から見えない星が降ってきたんです”と訳の分からないことを突然叫びだしたりとか…」
「ちょっと待って!美樹さん、ちょっと待って?」
「どうしたの?真奈さん」
「いやー。聞いてる限り、私の黒歴史を掘り起こしているようにしか見えないんですが」
「…否定はしないわ」
「否定してよ!」
「じゃあ、否定する」
「信用できません。というか、どこからその情報、仕入れてきたの?」
「秘密よ。情報提供者の身柄の安全の確保は情報屋の責任でもあるのよ?これでも、情報屋って案外大変な仕事なの。情報は万金に値するからね!」
「そ、そう。なんでもいいけど、その話、誰にもしないでね?」
「さぁ、どうでしょう?夏休みの宿題全部やる、という交換条件をもとに真奈の情報を求めてきたらあたしも揺らいじゃうなぁ?」
「そ、そんなぁ」

私が力なくうなだれていると、美樹が笑い始めた。

「冗談よ、冗談。本当に真奈って面白いわね。友情が一番に決まってるでしょう?」
「本当!?ありがと!」
「でも」
「…でも、何?」

私が美樹の言葉に身構えると、美樹は優しく微笑みながら言った。

「でも、そのうちに真奈の好きな人、あたしに話してよね。信頼できる、と思ってからでいいから」

私はその言葉に”嬉しさ”というものを感じた。
本当に、心からの友達が出来た、と思えた瞬間だった。

Re: 恋桜 [Cherry Love] ( No.57 )
日時: 2013/06/01 23:57
名前: 華憐 (ID: xDap4eTO)

そして翌日。
今日は土曜日なので学校はない。
本来ならば土曜日も部活動もあるが、テスト2週間前ということで、現在は活動停止中である。

「うーん、今日は何着て行こうかな?」

私は朝早くから起きて、クローゼットの前に立っていた。

「まだ春だから、夜遅くなることも考えれば、絶対薄着は駄目だよね。となれば、重ね着が一番便利。それで、今回は女子だけじゃないからズボンを履こう。となれば、この服装が一番いいよね」

私は独り言をぶつぶつつぶやきながら今日の勉強会へと着ていく服を決めた。
それはというと、七分袖のブラウスに薄手のピンク色のニットを合わせた重ね着にジーンズを合わせる、といういたってシンプルな服装だった。
そもそもが、勉強会なのだから、そこまでお洒落する必要もない。

「よし、これで行こう」

私は鏡で自分の姿を確認しすると、髪型をどうするか考えた。
普段は、髪を下ろしているので、今日は結って行こうと思った。

「んー、勉強するときは、髪が邪魔にならないほうがいいよね…?」

そう呟やいた時に、1つの髪型が頭に浮かびあがった。
それは…ツインテールだった。
一応誤解を招かないようにするためにも説明をしておく。
ツインテールと言うと、頭の高い位置で結う、まさにA●Bのまゆゆとかいう女の人の髪型を想像する者が多いが、決してそればかりではない。
昭和風な頭の低い位置で結う2つ括りも立派なツインテールだ。
私のはというと、後者の方だ。

「よし、OK」

私はツインテールをし終えると、髪飾り選びを始めた。

せっかくツインテールをしたので、リボンを付けて行こう。

そう考えた私は髪飾りを大量に入れてある箱を開けた。
そして、そこから迷わずに、2つのリボンを取り出すと、それで髪を飾った。

「おぉ!ツインテールもなかなか良くなるものね!」

鏡の中のリボンに感動を覚えながら、私は朝食を取るべく、階下へと降りて行った。

リビングでは、母が既に朝食を作って待っていた。

「あら、今日はどこかへ出かけるの?」
「うん。凜の家に」
「なあに?そういう関係なったの?」
「なってません。というか、そういう関係ってなに?」
「お子ちゃまは知らなくていいのよ。それより、何しに行くの?」

お母さんが興味を示しだすと、止まらない。
それに、隠す必要性も見当たらなかったので、正直に答えた。

「勉強会をするの。勿論、凜の他にも最近仲良くなった美樹や逢坂くんとも一緒にやるの」
「あれ?逢坂くんて、新入生代表挨拶をしたあの子!?」
「うん。そうその人!その人が私たちに勉強を教えてくれるの」
「凄いわね、真奈!あなた、相当ついてるわよ!」

そう言って、2人で興奮気味に話しながら朝食を取っていると、いつの間にか約束の時間になりそうだった。

「あ!そろそろ行かなくちゃ!」
「まだ9時30分よ?」
「10時集合なの」
「そう。気を付けて行ってらっしゃい」

そう言って、私を笑顔で見送ってくれた母。

本当に優しいなぁ。

そんなことを思いながら、勉強道具を持った鞄を横に抱えて歩き出した私。
勿論、目的地は凜の家だ。

Re: 恋桜 [Cherry Love] ( No.58 )
日時: 2013/06/02 17:24
名前: 華憐 (ID: xDap4eTO)

「凜!」

私が声を掛けながら、凜の元へと駆け寄る。

「よぉ。早いな、真奈。まだ5分前だぞ」
「何か不満?」
「い、いや…」

そう言って、少し俯く凜。

怒ってるのかな…?

そんな心配をしていたが、すぐにその心配はかき消された。

「綾川さーん!それにえーと…凜!」
「徹、お前今のわざとだろ!絶対、今のわざとだろ!俺を付け加えた感を出そうとしているんだろう!?お前の意図などバレバレだ!」
「ありゃ、ばれちゃったか。こうなったら仕方ない。堂々と…」
「堂々としなくて大丈夫よ!」

向き合う2人の間に割って入るような形で登場してきた美樹。
さすが、頼りになる。

「枝下」「枝下さん」

同時に2人の驚いた声が聞こえる。
確かに、私も全く気配を感じなかったし、2人が驚くのもわかる。

「あたしが影薄いとでも言いたげな目ね?逢坂」
「いや、別に俺は…」
「ちょっと、そこで動揺しないでよね。ますます確信を持っちゃうじゃない」

そう言いながらも笑っている美樹。
なんだか楽しそうだ。

「よし、全員揃ったことだし、俺の家に入るか」
「うん、そうしよ!」「そうしようか」「そうだね!」

こうして私たちは凜の家で勉強会をすることになった。

「おー、ここが凜の部屋なのか。綺麗にしてんだな」
「徹に言われると、どんな言葉でもムカつく」
「何だよ、それ」

口を尖らせる逢坂くん。
女子よりもよっぽど可愛いかもしれない。

「取り敢えず適当に座れよ」

そう言って、凜は部屋の中央にある座卓を指した。
そこには、4枚の座布団が引かれていた。

「そんじゃあ、あたしここ!」

先陣を切って、陣取りをしたのは美樹だった。
一番扉に近いところを取ったようだ。

「俺はここかな」

そう言って、逢坂くんは窓側の席を陣取った。

「私は…ここ?」

私は逢坂くんと向かい合わせ状態になる、本棚側の席に着いた。

「それじゃあ、俺はここだな」

凜は美樹と向かい合うような形で座った。

「では、勉強会を始めるぞ」

凜の掛け声と共に、勉強会が始まった。
まず最初にやるのは理科。
取り合えず提出予定の、学校から配布された問題集を解き、分からなかったところを逢坂くんに質問する、という形を取っている。

「あのー、逢坂。早速1の①が分かりません」
「枝下さん、早くないですか?」
「…そこは突っ込まないでください」
「まぁ、教えるよ。えーっと、って、これ中学の復習問題じゃん」
「忘れた」
「そんなあっさり言わないでよ。ついこの間まで受験生だったんだよ?」
「嫌なことは忘れる主義なので」
「はいはい。もー、突っ込まないよ?…取り敢えず、問題を解こうか。物体Pが移動するのにかかる時間はいくらって書いてある?」
「えーっとね…」

こんな感じで早速逢坂くんが美樹に勉強を教えている。
私は問題を解きながらもその説明を聞いていたが、先生になったらいいんじゃないか、というくらい説明上手だった。

「なるほど!これ、中学の時、理解できてなかったんだよねー!お蔭でその範囲のテストの点数悲惨だった」
「何点だったの?」

私が話に割り込む。

「48点」
「…ご愁傷様です」
「え!?慰めそれだけ!?真奈、それだけ!?逢坂は何かあたしに慰めの言葉はないの!?」
「…ご愁傷様です」
「…コントかよ!」

そんな会話をしながら、問題集を解き続ける。

「凜、君は俺に聞かなくていいのかな?」
「何だよ、解けてるんだからいいじゃねーか」
「本当に?俺が見た限りでは、2問は間違ってるけど?」
「嘘だろ!?」

慌てて凜は自分の解答と問題集の解答を比べた。

「本当だ…。2問、間違ってる」
「言っただろ?」
「でも、なんで間違ってんのかよく分からん」
「何でだよ。問題文、よく見てみなよ」
「秒速何メートルですか…あ!!」
「わかった?」
「俺、秒速何センチメートルと勘違いしてた!」
「やっぱりね」
「っち、ムカつくな。徹に指摘されるなんて」
「しょうがないね。凜が間違ってたんだし」
「次の単元では絶対間違えねーよ!」
「頑張って」

静かに闘志を燃やした凜。

本当に、凜は努力家で一生懸命で可愛いなぁ。

そんなことを思っていると不意に逢坂くんが私に話しかけてきた。

「綾川さんは、何か分からないところある?」
「と、特にはないかなぁ…」
「そっか。何か分からなかったら言ってね」

そう言って、ニコッと笑う逢坂くん。

すっごくカッコイイ。こんなことされたら絶対好きになっちゃうよ。いや、そもそもが既に逢坂くんのことが好きなんだけど…。

「って、綾川さん!」
「え!?何!?」

一瞬、私の考えていたことが逢坂くんにバレたのかと思って、冷や汗を握った。
しかし、全くの別件だった。

「俺より進んでるじゃん!」
「え?そう?」

私は現在添削中の自分の問題集のページ数を見る。
34ページ。

会話を聞きながらやっていたので、結構遅い方かと思っていたのだけれど…。

「俺、まだ31ページだよ?速いなぁ。しかも、1問も間違ってないし」
「逢坂くんこそ、皆に教えながらそこまで行くなんてすごいと思う。というか、人の間違いを即座に見つけられるって凄いね」
「何だか目はいいみたい」

私たちはそう言って微笑み合っていると、美樹から暗いオーラが発せられているのに気が付いた。
そして、何気なく美樹の添削中の問題集のページを見ると…17ページだった。

「美樹、ごめんなさい」
「解ればよろしい」

私はすぐに美樹に謝った。
すると、美樹は苦笑いしながらそう答えた。
逢坂くんはというと、いきなり私が誤ったものだから、困惑状態だ。

「ね、今のってどういうこと?」
「逢坂くん、世の中には知らないほうがいいことだってあるんだよ?」
「えー、何それ!余計に気になるじゃん。教えてよ」
「駄目。美樹の権利は守る」
「え?権利?どこからその言葉が…?」
「はいはい、そこまでだ。早く勉強に集中しろ」
「はーい、スパルタ凜先生」
「誰がだ」
「君がだよ」

こうして、午前中はそんな会話を繰り広げながら、無事に理科を終了させていったのであった。

Re: 恋桜 [Cherry Love] ( No.59 )
日時: 2013/06/02 17:43
名前: 華憐 (ID: xDap4eTO)

「それじゃあ、昼飯にすっか」
「賛成!」「お腹空いた〜」「うん、そうしよ」
「あたし、今までこんなに頑張ったこと、無いかも!?」
「道理でいつも20位台なわけだ」
「な、なんであたしの順位を!?」
「だって、一応桜田高校って進学校なんだぞ?順位の張り出し位あるだろうさ」
「そ、そうだった!すっかり忘れてた!」
「相当ボケてるな」
「う、煩い」

美樹はそう言いながらも顔は真っ赤だ。

暑いのかな?
でも、今日の最高気温は確か22度だったはず。
そんな訳ないよね…?

私は美紀の反応を不思議に思いながらもなぜか、そこは突っ込んではいけない気がして、敢えてスルーすることにした。

「それじゃあ、誰がコンビニへ飯を買いに行くか、じゃんけんで決めるぞ」
「はーい!やろやろ!」
「俺、結構じゃんけん強いんだよ」
「私、じゃんけん弱い…」
「えーっと、それじゃあ、じゃんけん勝った人が買いに行って、しかもその人の奢りってことで行こうぜ」
「おー!いつも負けた人からじゃつまんないってことね!いいわよ」
「俺も賛成だ」
「真奈は?」

凜がこちらを見ながら問う。

「私も意義なし」
「よし決定だ。それじゃあ、行くぞ。じゃんけんほい!」

じゃんけんの結果、凜と逢坂くんが買い出しに行くことになった。

「どうしてよりによってお前となんだ」
「それはこっちのセリフだよ!でも、女の子に奢ってもらうのは男としてどうかと思ってたところだからね〜。よかったと言えばよかったのかな?」
「まぁ、確かに」
「そう言うわけだから、お二人さん。俺たちが何かってくるか楽しみにしててね〜」

そう言って、凛の家を出て行った2人。
部屋に残って2人が帰って来るのを待つことになった私と美樹。

…会話が見つからない。
朝からずっと勉強してたからかな?

「ねぇ、真奈」
「な、何?」
「そんなに構えなくても大丈夫よ。実はね、あたし、好きな人いるんだ」
「え…?」

一瞬、何を言ってるのか分からなかった。
だが、すぐに理解した。

「え!?好きな人!?てか、情報屋って大抵は自分のことを話さないんじゃ…?」
「あたしは真奈を信用したから自分のこと話してるの。…真奈に好きな人は誰か?って聞いた時、真奈、教えてくれなかったでしょ?」
「ご、ごめん…」
「ううん、謝らなくていいのよ。あれが正常な対応だわ。話を戻すわ。…あの時から、どうしてあたしに教えてくれなかったんだろう?って考えてたの。初めは初対面だったからかなって思ってた。確かに、それもあったけど、それよりも先にもっと重要な事を見落としてた。あたしが真奈に自分自身のことについて話してなかったんだ。だから、当然だったんだよね、真奈が教えてくれなかったのは」
「…何が言いたいのか分からないよ」
「そうだよね。要点をまとめて言うと、あたしはもっと真奈に自分のことを知ってほしくなった、ってことかな」
「なるほど!私も美紀に自分のことをもっと知ってほしい!」
「ふふふ、ありがと。そんなわけで…聞かせて!」
「はい!?」
「真奈の好きな人」
「え!?だって、美樹はまだ好きな人の名前言ってないよ!?」
「真奈が言ったら教えるよ」
「本当に?」
「本当よ」
「もし嘘を吐いてたら、1000円の罰金だからね」
「妙にリアルな金額ね。まぁ、いいわ。嘘ついてないから」
「わかった。それじゃあ、耳貸して」

私はそう言って、美樹に私の好きな人を教えることになった。