コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 恋桜 [Cherry Love] ( No.61 )
- 日時: 2013/08/01 15:22
- 名前: 華憐 (ID: xDap4eTO)
「えーっと、私の好きな人は…逢坂くん、だよ」
「なるほどね〜」
そう言って、美樹はニヤニヤしている。
「も、もう、何?その顔〜!美樹だって教えてよ?約束なんだから」
私は頬を膨らませた。
すると、美樹は「可愛い」なんて言って、私の頬をぷにぷにと押し始めた。
「話、逸らさないでよ〜」
「逸らしてないよ〜」
「早く教えてくれなきゃ、1000円罰金だよ〜」
「言います!」
罰金の言葉を聞いた瞬間に、即答した美樹。
なんか、情報屋って不利な条件を突き出されるとすぐに飛びつく傾向がある気がするのは私だけ?
「わ、笑わないでよ?」
「笑うわけないじゃん」
「約束よ?」
「うん」
「そ、それじゃあ、言うわよ?」
「うん」
「あたしの好きな人は…」
美樹の口が好きな人を言いかけたその瞬間、
「ただいま〜!飯買ってきたぞ〜!」
凜が扉を開け放ちながら、私たちが待機していた凜の部屋へと入ってきた。
「ん?真奈嬉しそうじゃないな。腹減ってないのか?」
「別に」
「なんか冷たい」
「ついに幼馴染の縁も切れてしまうのか…。凜くん、気にすんな」
「気にするっつーの!」
部屋に入ってきて早速そんな痴話喧嘩を始める2人。
そんな2人の様子を見て、美樹は言うのを諦めたのか「またあとでね」と私に小声でそう言った。
「取り敢えず、飯、分けようぜ」
「うん、そうしよう。綾川さんと枝下さんは何食べたい?女の子はパスタ系がいいかな?と思って、ミートスパゲティーと、ペペロンチーノを買ってきてみたんだけど…」
「それじゃあ、あたしペペロンチーノで!」
「私はミートスパゲティーで」
「俺はカツ丼」
「んじゃあ、俺は牛丼?」
何というか、皆食べてるものバラバラだなー。
そんなことを思いながらも、それぞれ渡された食料を電子レンジで温め始めた。
まず最初に食事にありついたのは美樹だった。
「すっごく美味しそう〜!」
そんなことを言いながら、美味しそうにペペロンチーノを口に含む美樹。
あぁ、私も早く食べたい!
「真奈、出来たぞ」
凜が電子レンジから私のスパゲティーを取り出しながら言う。
「ありがとう」
「熱いから底の淵、持てよ?」
「はーい」
何気に心配してくれる凜。
嬉しいなぁ。
「はい、次お前だ」
「お前って呼ぶなよ。俺の名前は徹だよ?」
「…なんか女々しく感じるのは俺だけか?」
「うん、君だけだと思う」
「…そうか」
謎の会話。
でも、聞いてると自然と笑みがこぼれる。
「何笑いながら食ってんだよ、真奈」
「だって、凜と逢坂くんの会話、面白いんだもん」
「どこがだよ!」「どこが!」
同時に否定する2人。
案外この2人は相性がいいのかもしれない。
そもそも、なぜこの2人が仲が悪いのかよく分からない。
こちらから見ている分には普通に仲の良い男友達、いやそれ以上の親友にしか見えないのだが。
「まあまあ、どこが面白いのかを真奈に追究したところで、何の得にもならないでしょ?それより、浅井。早く逢坂の分、温めてあげなさいよ。さっきからスタートボタンを推す寸前の所で止まってるわよ?」
「あ、本当だ」
美樹が私に助け船を出してくれて、なんとか助かった。
凜って不思議に思うと、とことん原因等々を追究しようとするから、少しそこが厄介なのだ。
「…ごちそうさま」「ごちそうさまでした」「うまかった」「美味しかったなぁ」
口々に感想を言って、食べ終わった後のトレイなどをビニール袋に捨てる。
そして、塵の処理をし終えた私たちは再び、勉強会を再開した。
「理科の次は数学〜!?あたし、文系なんですけど」
「枝下、文句言うな。2年になったら選択できる」
「そ、それはそうだけどさぁ…」
そう言っていじける美樹。
そっぽを向いている感じが堪らない。
「ほらほら、さっさと問題集を終了させちゃおう!たったの30ページだよ!」
私が元気づけるために美樹をフォローする。
すると、逢坂くんも乗ってきた。
「そうだよ、枝下さん!さっきの理科の40ページより全然マシだよ」
「うーん、そうだよね!」
始めは全然乗り気でなかった美樹もだんだん励まされてきたのか、最終的にはしっかり問題集を開いていた。
「よっしゃ、2時間で終わらせてやる!」
意気込みを述べてから、先程までのダラダラ感が嘘のように、美樹は問題を解き始めた。
「真奈ー、2πrって何だっけ?」
「円周の長さ」
「それじゃあ、この問題って√の中を…」
真剣に取り組む美樹に私も親身になって質問に答えた。
しかし、そのどれもが残念ながら中学生の復習なのだ。
美樹、本当に受験したの?と聞きたくなるくらいにほとんどのことを忘れている。
勿論、そんなこと言うはずもなければ顔にも出さないが。
「なるほど!答えは32平方センチメートルになるってことだよね!」
「そういうこと、だね」
「ありがと、真奈!先生になった方がいいと思うよ!すっごく教え方上手いじゃん!」
「本当?ありがとう」
こんな会話をかれこれ続けて2時間…。
「…できた!目標達成!」
美樹が最後の問題を解き終えると、皆からの拍手があった。
実はと言うと、美紀以外の3人は美樹が問題を解き終える1時間前に既に解き終わっていたのだ。
なので、1人の生徒に3人の教師、というような体制で1時間、美香に数学を叩きこんでいたのであった。
「もう皆スパルタだからどうしようかと思ったよ!特に、真奈が怖かった」
「え?何で?」
「だって、1問その問題解き間違えたら、真奈が新しい問題作って出してきたじゃん?あれ、プレッシャーだったわ」
「ごめんね」
「ううん、大丈夫。あれくらいの方が、自分の力になっていいと思う。本当、皆ありがとね」
そう言って、美樹が座りながら頭を下げた。
私もそれに倣って、頭を下げてみる。
すると、連鎖していくように、凜と逢坂くんまでもが頭を下げた。
その様子が本当に怪奇で、だんだん面白くなっていき、最終的には皆で笑い合った。
そして、勉強会終了後は、皆で外でバトミントンをしたりテレビを見たりして遊んだ。
「…もう6時だ」
「そろそろ暗くなってきたね」
「帰ろうか」
「そうだね、帰ろ」
口々にそう言うと、帰る用意をし始めた。
そして準備が整うのと同時に、凜の部屋を出た。
「忘れ物はないか?」
「うん、ないよ」
「枝下と徹はどうだ?」
「俺も」
「あたしもないよー」
「よし、そんじゃあ、気を付けて帰れよ?」
「はーい」
私が最後に凜に返事すると、それを合図とするかのように、皆が凜の家から出始めた。
そして、最後に出ることになった私は去り際に
「また月曜日ね」
とそれだけ言って、皆を追いかけた。
- Re: 恋桜 [Cherry Love] ( No.62 )
- 日時: 2013/06/03 21:12
- 名前: 華憐 (ID: xDap4eTO)
「美樹〜!逢坂く〜ん!」
私は外で待っていてくれた美樹と逢坂くんを見付けて駆け寄った。
「ごめんね、待たせちゃったね!」
私がそう言って謝ると、美樹は笑顔で「全然大丈夫だよ」と言ってくれたが、なんだか逢坂くんは不機嫌だ。
「どうか、したの…?」
私が不安気に尋ねると、逢坂くんはふと我に返ったように優しく微笑んで「なんでもないよ」と答えた。
んー、絶対何かある気がする。
私はそう思って、逢坂くんを見つめていると、逢坂くんが慌てたように
「取り敢えず、ここで話してないで、歩き出そうよ」
と言った。
恐らく私の視線から逃れるためだと思う。
しかし、私はそれを口に出さずに「賛成」と答える代りに歩き出した。
「あー、今日はいい一日だったなぁ〜!あたし、今回のテストは10位台乗るかも!?」
「乗ってくれなくちゃ、俺が困るね」
「何それ、逢坂先輩。あたしにプレッシャーかけてるんスか」
「かもね」
「意地悪。てかSだ」
「Sで悪かったね」
そんなことを言って、2人で笑い合ってるのを見て、嫉妬してしまったのは、誰にも言わない。
「あ、そーだ!真奈!」
急に私の名前を呼ばれて、肩をびくりと動かした。
すると、美樹がまた笑いながら「そんなに構えないで」と言った。
私、思えばいつも美紀の言葉に構えてる気がする。
まだ、ちゃんと美樹のこと、信用してないってことなのかな…?
一人でそうやって不安に思っていると、美樹が恥ずかしそうに俯きながら耳を貸して、とジェスチャーしてきた。
私はそれに素直に従って、美樹の近くに耳を持って行った。
「何?」
「いや、さっきの話の続きなんだけど…」
「あぁ!今してくれるの?」
「う、うん。別に逢坂くらいにならバレても問題ないっていうか…」
「ん?今、俺の名前出てきた?」
「出てきてないよ!出てきてない!」
「そう言ってる割には、美樹、焦ってるけど?」
「そ、そうだけど…やっぱり知ってる人は少ない方がいいじゃん?」
「まぁ、確かに」
「それで、話を元に戻すけど、あたしの好きな人は…浅井なの」
私は一瞬思考回路が停止した。
浅井ってあの浅井だよね?
浅井凜のことだよね?
私の幼稚園時代からの幼馴染である、あの凜だよね?
そんな自問自答を繰り返した。
私は今まで、凜のことを兄のように慕ってきた。
なので、そこに恋愛感情が生まれるなんてことはなかった。
でも、傍から見ればルックスも良くて、多少ぶっきら棒で言葉遣いが荒いところもあるが、女子には魅力的な男子だったのだ。
それを、今思い知らされたのである。
「真奈?大丈夫?口、開いてるけど?」
「え?あ、ご、ごめん!ちょっと驚いちゃった」
「だろうね。あたしが見てる限り、真奈は浅井のこと、兄弟くらいにしか思ってないだろうし」
「え?凜だって私のこと、妹分みたいなものだと思ってると思うけどなぁ」
「本当にそうかな?」
そう言って、美樹は笑った。
でも、それは笑いではなかった。
寂しさを押し殺したような笑い。
この笑いは、出会った時から何度か見たことがあった。
でも、本当の意味をこの時の私は知る由もなかった。
美樹のこの寂しさを滲ませた笑いの理由を私が知るのは、もっと先の話なのだから…。
「そうだよー」
「…ま、真奈本人が言うんだし、そういうことにしておこう」
「はーい」
こうして晴れてお互いの好きな人を明かした私たちの絆はさらに深まった気がした。