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- Re: 恋桜 [Cherry Love] 第五話は修学旅行で沖縄へ… ( No.75 )
- 日時: 2013/06/12 23:55
- 名前: 華憐 (ID: xDap4eTO)
第五話 【修学旅行】
*真奈side*
私達の学校——桜田高校は少し変わっている。
普通、修学旅行と言えば、3年生の終りにやるもの、というイメージがある。
しかし、私達の学校はそんな常識に囚われる学校ではなかった。
3年生と言えば受験なのに、なぜ修学旅行など行うのだ?どう考えても時間の無駄だ。
と考えた、桜田高校創立者である茂山東三郎(しげやま とうざぶろう)は3年生で修学旅行へ行くのではなく、1年生と2年生の2回に分けて修学旅行を行うことを制定したのだ。
——そして私達は今回、入学して初めての宿泊学習を行うことになる。
「えー、中間考査、お疲れ様でした。皆さんの学年は非常に頭が良い方が多いようですね、例年より、テストの平均点が5点ほど高かったと伺っております。…それはさておき、修学旅行についてですが、今回の修学旅行は沖縄へ行きます」
大分暑くなってきた5月の末に、体育館に1年生だけが招集を掛けられていた。
そして今、学年主任の先生が修学旅行についての要項等を話しているところだ。
「沖縄、と聞いて皆さんは何を連想しますか?」
その問いかけに、一気にざわざわと騒がしくなる体育館。
それを一括するように先生の声がマイク越しに聞こえてくる。
「僕はね、青い海や青い空、自然を真っ先に思い浮かべますね。でも、最後に思い浮かぶのは…米軍基地なんですよね」
そう言って、少し顔を歪ませて悲しそうにする先生。
何か思い入れでもあるのだろうか?
「まぁ、皆さんは何を連想されたのかはまた後程お聞きしますが、沖縄には綺麗なものばかりがあるのではない、ということを先生は伝えたかったんですよね」
ははは、と乾いた笑いが体育館を包む。
一体何に笑ったのかは誰にも分からないが、空気が重くなってきたのを察して、話題転換の意味を込めての笑いだった。
「それでは、先生の話はここまでにしてしおりを配りますねー」
それを合図に、各組の担任の先生が自分のクラスにしおりを配り始めた。
「受け取りましたかー?」
学年主任の先生が背伸びしながら、遠くを見た。
そして、それに応えるように一番後ろに座っていた生徒はしおりを天井に掲げながら、ひらひらと振った。
「OK。受け取れたようですね。それでは説明をしていきます。まず…」
こうして学年主任の先生の長い話が終わり、今は美樹と体育館を退場中だ。
「沖縄だって!」
「うん、そうだね」
「真奈、楽しみじゃないの!?あたし、楽しみ過ぎて、寝れないかも!」
「まだ、気が早いよ。期末終わってからだよ?」
「あはは、あははは…はぁ」
いつの間にか美樹の笑いは溜め息へと変わっていた。
「どしたの?」
「そりゃー、思い出したら落ち込むでしょ?普通」
「何を?」
「張出」
「あー!美樹も良かったじゃん」
「確かに自己BESTだったよ?7位とか自分でも信じられないもん。でもね、それ以前に…一緒に勉強会やったメンバーが1・2・3ってのはどうよ?」
そう言って、また溜め息を吐きながら肩を落とす美樹。
「そんな大層なことないよー。私だって逢坂くんには5点差で負けたし」
「それでも、2位じゃん。てか、500点満点中493ってどうよ?」
「んー、中学の時より…悪いかな?」
「…」
「どしたの?無言になっちゃって」
「いやー、世の中そんな人もいるんだねーと遠い目をしてたの」
「そっか」
「そこはそっかじゃなくて、突っ込むべきところでしょ!」
そんな毎度の美樹の突っ込みを受けながら、先程気になった疑問を美樹に尋ねることにした。
「ねぇ、美樹?」
「んー?」
「学年主任の先生いるじゃん?」
「あー、下村先生だっけ?」
「確かそんな感じの人。でね、その人って沖縄出身なの?」
「あー、確かそんな感じだったはずー。だから、沖縄の修学旅行の時はいつもより色々な表情が見れるらしいよ」
「そ、そうなんだ。いつも微笑を浮かべてるもんね。温和な人なんだろうなぁ」
「かもね」
会話をしながら、下村先生の先程の表情を思い浮かべる。
やっぱり、米軍基地問題は沖縄の人にとって悲しいことなんだ。
改めてそう実感した私だった。
- Re: 恋桜 [Cherry Love] ( No.76 )
- 日時: 2013/06/13 18:51
- 名前: 華憐 (ID: xDap4eTO)
「綾川さん!」
「逢坂くん。どうしたの?」
私は急に後ろから声を掛けられ、一瞬肩を揺らしたが、逢坂くんの声だと分かるや否や、笑顔で振り返る。
すると、少し息を切らした逢坂くんがそこに立っていた。
「さっき、下村先生が国際通りの班は自由だ、って言ってたでしょ?」
「確か…そんなことを言ってたような気もする」
「それでさ…その…」
そう言いながら俯き、何かを言うのを躊躇っている様子の逢坂くん。
一体どうしたのだろう?
そんな心配をしていると、隣の美樹が爆笑し始めた。
「あはは、あはは!!本当、逢坂!あんたって最高!」
「な、何だよ」
少し不貞腐れている逢坂くん。
そんな表情も愛おしい。
これが恋、なのかな?
「逢坂、逢坂の言いたいことはあたしが十分把握したわ」
「…っは?」
「もー、鈍いわねー?いいわよ、って言ってるの!」
「いいわよ、って…ええ!?いいの!?」
「いいよいいよ。ね?真奈」
いきなり話題を振られて困惑する私。
そんな私の様子に、
「やっぱり駄目だよね」
と肩を落とす逢坂くん。
一体何が駄目なの?
ていうか、そもそもいいとか悪いとか何の話してるの!?
一人、私が考えていると、美樹が私の両肩を掴みながらにっこり笑った。
「そんなことないわよ。今の真奈は嬉しすぎて言葉も見つからないってことよ」
「そ、そうなの?」
少し頬を染めながらこちらに尋ねてくる彼。
しかし、現状をよく把握していない私は取り敢えず首を縦に振ることにした。
「本当!?ありがと!それじゃあ、また後で!」
逢坂くんはそれだけ言うと、鼻歌を歌うかのような軽い足取りで、先に教室へと向かっていった。
私達はというと、そんな逢坂くんの背中が見えなくなるまで、ぼーっと突っ立ていた。
「…ね、真奈。聞いてる?」
突然美樹のそんな声が聞こえてきた。
「え?ごめん。聞いてなかった」
「こりゃあ、恋煩いだね。まぁ、しょうがない」
「こ、これが恋煩い…」
「そうよそうよ。それよりさ、早く教室に戻らないと不味くない?」
「どうして?」
「だって…あと30秒でLHR始まるよ?」
「…走ろう」
私の掛け声とともに一斉に走り出した私達。
そしてなんとかチャイムが鳴り終わるのと同時に教室についた。